反省のカラー ~凶悪な犯罪者は更生できるのか~

赤月カケヤ

第1話 こう見えて俺たち、社会の役に立ってるんだぜ

「反省の色がない」という言葉がある。

色とは態度や素振りの事であり、カラーがあるわけではない。

けれども、仮に反省にカラーがあるとすれば、それはどんな色なのだろう?

犯罪を犯した者は、真の意味で反省することはあるのだろうか?



 金田翔平は今日も目的もなく、ダチとたむろっていた。

「ああ! くそっ!」

 スマホをいじっていた北村文弘が、目の前の自販機を蹴りつけた。

「なに? ブンちゃん、どうしたん?」

 金田はニヤニヤしながら訊いた。

「クソガチャ連発や! マジで死ね!」

「おまえ引き運悪すぎだろ」

 北村のとなりでスマホを覗き込んでいた鈴原英斗が、からかうように言う。

「くそう! 今月もマジで金がねぇ!」

 北村が盛大に嘆いたタイミングで、金田の視界にそれが映る。

 こちらを気にしていながら、明らかに避けるような仕草。

 本能が理解した。

 獲物だ。

「金がねえなら、害虫狩りでもするか」


 チー牛顔にアニメ柄のTシャツ、無駄にデカいリュック。

 気持ちの悪いイラストに欲情する変態。

 金田の知り合いの女たちも言っている。

 気持ち悪い、見るだけで嫌な気持ちになる、マジで死んでほしい。


 つまりは害虫だ。


 社会のためにも害虫は駆除しなければならない。

 そいつが一匹でウロウロしていた。

 近頃は害虫の中にも強い奴がいる。自分と同じように体を鍛えていたり、無駄に巨大な体躯でパワーがあったり。

 けれども目の前の害虫は典型的なザコだ。昼間に狩っても騒ぎにはなりにくい。


「よぉ、久しぶり! 元気にしてたか?」

 害虫の後をずっとつけていた金田たちは、狩場の近くを通ったタイミングを見計らって、害虫の肩をくんだ。

「え? だ、だれ!?」

 害虫は戸惑った表情をする。もちろんコイツとは知り合いでもなんでもないが、必死に誰なのか思い出そうとしているようだった。

「おいおい、忘れたのかよ、ひでえな」

 害虫も危機察知能力は持っている。普通に襲おうとしても逃げられるか、周囲の目撃者に通報される危険がある。

 確実に狩りを実行するために、こうやって最初は知り合いのフリをするのだ。圧しに弱い害虫が戸惑っている隙に、獲物を人通りの少ない狩場へと連れて行く。金田が考案したやり方だった。


 金田たちは害虫を狩場へ連れ込むと、乱暴に突き飛ばした。

「な、なにすんだよ!」

 害虫と言えどもプライドはあるらしい。すぐに気弱になって怯える害虫は少ない。

 なので教え込む必要がある。

 どっちが上で、自分がどういう状況なのか。


 金田は無言で害虫の顔を殴りつけた。

 それを皮切りに、北村たちも害虫に怒声を浴びせつつ殴る蹴るの暴力を振るった。

 体を動かすのは気持ちいい。

 スポーツしているのと同じだ。どっちが上かという勝ち負けがハッキリする点でも、これはスポーツなのだ。

 最初はなんとか抵抗しようとしていた害虫も、文字通り虫の息となり、諦めたように動きが遅くなった。

「いくらだと思う?」

 金田は北村たちに尋ねた。

「害虫は金を持ってるからなぁ。3万4千」

「意外に、5万」

「じゃあ、1万で」

「ショウちゃん、少なすぎん?」

「勘だよ。ほら、財布だせよ」

 金田は目の前で正座する害虫を足で蹴って促した。害虫はポケットから財布を取りだすと、両手で差し出してきた。

「ほら、8千900円だ。俺の勝ち」

「マジか~! ショウちゃん強え~」

「観察力が足りねえぁ。こいつは買い物帰りだ。それに最近は電子で買う奴が多いんだよ」


「そういやおまえ、何かゲームやってる?」

 害虫は聞き慣れないゲームのタイトルを告げた。「見せてみろ」と言い、スマホを取りだしたのを見て、それを奪い取る。

「ゲーム見るだけだって」

 慌てて取り返そうとする害虫を威嚇して、スマホのキーロックを聞き出した。

ゲームを立ち上げると案の定、どこが良いか分からないアニメ絵のキモい女が、キモい声でしゃべるゲームが始まった。

 ゲームには興味がないが、いつもこの流れでスマホのキーロックを聞き出していた。ゲームを見たらスマホを返してもらえるとでも思っているのだろう。

「これ、ガチャ結構まわせるんじゃね? ブンちゃん、ガチャ引いていいぞ」

「ま、待ってください! 今は貯めてる状──」

 金田は害虫の顔を蹴りつけた。それに合わせて、北村たちも暴力を振るう。

 そして何事も無かったかのようにガチャを引いた。キャラが出る度に害虫に見せて、アタリかハズレかを訊く。余程思うことがあったのか、害虫は涙を流しながら答えた。その様が滑稽で、みんなで爆笑した。

「おまえ大学生じゃん。親の金で何遊んでんだよ」

 金田は害虫の免許証を見ながら言った。こういう輩は後で必ず警察に通報しようとする。自分では何もできないゴミだからだ。なので免許証で住所と名前を声に出して確認しておく。

「あと俺ら未成年だから。何かあったらぶっ殺しに行くからな」

 状況を理解したのだろう、害虫はグスグスと泣きはじめた。未成年者の罪は軽い。この程度の「やんちゃ」なら犯罪にすらならないのだ。

「じゃあな」

「あっ……」

 スマホを返してもらっていないことに気づいた害虫は、咄嗟に手を伸ばすが、金田が睨みつけると観念したように俯いた。

「やっぱ害虫狩りは楽しいな」

「ストレス発散できるし、金も手に入る。それに社会のゴミまで掃除するとか、俺たちすごくね?」

 北村と鈴原が楽しげに言う。

 俺たちは社会の害虫を退治してやったのだ。そして害虫の財産は社会に還元され、経済の一部となる。つまり良いことばかりだ。良いことをした後は最高に気持ち良かった。

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