独りよがりなドラゴンと仲良くなりたい少女

代永 並木

第1話

かつて邪龍と呼ばれた存在が居た

その邪龍は数百年前、大国を一夜にして滅ぼし龍王と呼ばれるドラゴン種最強の存在となった

それから数百年誰一人として邪龍を見たものは居なかった

たった一人の少女が見つけるまで


「ドラゴン?」


幼い少女が邪龍の住む洞窟へ迷い込んだのだ


「人の子か……失せろ」

「私を食べないの?」

「貴様程度食ったところで栄養にもならん」


ドラゴンは素っ気ない態度で話す

少女は初めてドラゴンを見ているので興味津々だ

近くに座る


「失せろと言ったはずだが?」

「なんで人の言葉を話せるの?」

「答える気は無い」


少女はその後毎日のようにドラゴンの元へ来て話をする


「貴様は何故ここに来る」

「……居場所が無いから……」

「親にでも捨てられたか」


少女は無言で頷く


「そうか」

「来ちゃダメ?」


情でも湧いたのか退屈しのぎなのか……はたまた過去を思い出したのか分からないがドラゴンは少女の話し相手となった……と言っても少女が話してドラゴンが淡々と相槌を打ってるだけではあるが


「好きにしろ」


ドラゴンがそう言うと少女は嬉しそうに笑みを浮かべる


「貴様名はなんと言う」

「無い」

「無いかならまぁいい」


やがてドラゴンと同じ洞窟で少女も一緒に住み始めた

一人で生きていた少女に魔物の狩り方や魔力の使い方を退屈しのぎに教える


「出来た!」

「ほう……なら次はこの魔法だ」


出会ってから長い時間が経ち少女は成長した


「ドラさん今日も狩ったよ」

「ほう、良く倒したな。ここまで強くなるとはな」


最初の頃とは違いちゃんと会話をしている

今ではもう親代わりのようなもの

人里離れた洞窟で1人と1匹は幸せに暮らしていく……とある悲劇が起きるまでは

少女が森で木の実を回収していると武器屋防具を身に付けた数人の男女と遭遇する


「こんな場所に人が?」


冒険者だと分かり少女は警戒する


「貴方は何故ここに?」

「この近くに暮らしてます」

「ここに邪龍が居るという噂があるんだが知っているか?」

「いえ、知りません」


嘘をつく

少女はあのドラゴンが邪龍と呼ばれていることを知っている


「そうか、ここは危険だ早く帰るといい」


冒険者達は森の奥へ向かっていく

その数日後少女はまた森に向かう


「行ってきまーす」

「行ってこい」


冒険者や騎士団が森の中を進んでいるのを遠目に確認する


「まさか」


邪龍を探しているという話を聞いていた少女は洞窟に急ぐ

すると洞窟の付近で数日前にあった冒険者達を見つける


「ここが邪龍の住処か」

「騎士団が合流し次第襲撃する」

「龍殺しの称号を得れば……」

「金が沢山手に入るぜ」


もう洞窟の前にいる彼等にバレずに洞窟内に入るのは難しい

かと言ってこのまま見ていれば討伐しに中に向かうだろう


「ここから先は行かせません!」


少女は冒険者たちの前に立つ


「君は……ここは危険だと言ったはずだ」

「そこに居るのは邪龍、そして私たちは王の命令で来てるの」

「洗脳でもされているんじゃないですか?戦うなら生け捕りにしましょう」

「あちらは戦うつもりだ」

「討伐なんてさせません」


少女は数の不利に臆することなく構える


「なら容赦はしない!」


冒険者達と少女が激突する

多勢に無勢、たとえドラゴンに育てられたとはいえ少女は人族、出来ることには限界がある


「この子強い」

「はぁ!」


斬り合う

ドラゴンの鱗で作られた剣は冒険者の剣と互角以上に戦うがどんどん押されていく

そこに騎士団も加わり少女は生け捕りにされる


「行かせない」


暴れるが剣も奪われ魔力封じの手錠で魔法も使えない

不意打ちの攻撃を受け少女は気絶する

ドラゴンの居る場所は奥地、ドラゴンはこの戦いを知ることは無かった

問題発生により予定より遅いが討伐隊が邪龍の住む場所に向かう


「帰ってきたか……いや違うな」


音で侵入者と分かり四足で立ち上がり威嚇する


「これが邪龍か」

「総員!かかれ」

「人間風情が!勝てるとでも思っているのか」


咆哮を発して戦いが始まる

激しい戦いを行う

次々と敵を薙ぎ払う、剣も弓も魔法もほぼ効かず次々とやられていく

邪龍は衰えておらず冒険者達は苦戦を強いられる

かつて最強と言われ大国を滅ぼした力を全力で振るうが1人の人物を見て止まる

気絶した少女が居たのだ

全力を出せば巻き込むと考え手加減をする


「弱くなった?」

「こいつが居るから本気出せねぇんだな」


1人が勘づく

手加減したドラゴンを倒すのは苦戦するが可能だ

手加減しているうちに全力で攻撃を仕掛ける


「貴様ら」


巻き込まないように攻撃をするが先程までよりも遅く力も弱い為回避され防がれる

どんどん削られていき……数時間かけて邪龍は倒される

血が辺りを染める


「よし倒したぞ!」

「おいこいつはどうする?」

「生かしておいても邪魔になる、殺せ」

「了解〜良い女なのに」


男は地面に少女を放り投げて剣を抜く


「じゃあな」


男が剣を振りかぶると同時に邪龍が火を吐く

少女に当たらないように吐かれた炎は周りの人々を巻き込み男を焼く


「くっそ、生きてたのか」

「くたばれ」

「撤退しろ!奴はもう死ぬ……これ以上犠牲を増やす必要は無い」

「そうだな障壁貼って引くぞ」


冒険者達が撤退した後少女が目を覚ます


「ここは……あっ、冒険者は!」


周りを見渡す

すぐに横たわる巨体が視界に入り駆け寄る


「ドラさん!」

「……無事だった……」

「回復を」

「無理だ……この傷……では……」


ドラゴンの傷はは深く魔法でも到底治りきるものでは無い

少女は回復魔法を使い傷を癒す


「止せ」

「辞めません……なんで治らないの!」


少女の魔力が尽きる

気絶中にも魔力は回復したが戦いの時に使った魔力が多くすぐに尽きる


「構うな」

「嫌です」

「お前が……無事で……良かった……これ……からは……好きに……生きろ」


そう言い残しドラゴンは長く続いた旅を終える

人生の大半を一人で生きたドラゴンの最後は最愛の者に看取られた

少女は泣く

その声は洞窟内に響き渡る

声が枯れても泣き叫ぶ

少女にとって親代わりであり恩人であり唯一の理解者であり友である最愛の者であった


時が流れ彼女は立ち上がる

愛する者の亡骸を置いて旅をする

その胸に抱くは復讐かはたまた一つの願いなのかは彼女にしか分からない


「私の名前はアスター……果てなき旅をしている旅人さ」

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