カチコメ!オタク君

クロノパーカー

第1話 オタク君、レディースに合流

「良い風だ」

学校帰り河川敷で横になりながら漫画を読む。穏やかなそよ風を感じながら平和な時間を堪能する。

「…そろそろ帰るか」

漫画も読み終わり、立ち上がると

「追い詰めたぞ!」

「ん?」

橋の上から怒声が聞こえてきたので、その方に視線を向けると

「何やってんだあれ?」

そこには厳つい特攻服を着た男女が数人いた。絵に描いたようなヤンキーだ。未だこの時代にそんなのがいたのか。そう言えばうちの高校にもそんな噂があったような…。

「…っ!?」

そこで俺は気づいた。金髪の女子が追い詰められて橋から落ちそうになっていることを。

「おいおい、マジかよ!」

俺は急いでその下に駆け寄る。

「くっそ…」

下まで着いて見上げると追い詰められていた女子が落ちてきていた。

「あんた!あぶねぇぞ!どけ!」

「おいしょっっっと…」

落ちてきたのを何とか抱きかかえた。あっぶなぁ…。

「だ、大丈夫?」

「何やってんだよ!ぶつかったらどうしてたんだ!」

「なんで助けた俺が怒られてんだ?」

「まぁ…助かった」

俺はその人を降ろした。

「あんたは?」

「俺は世垓功次せがいこうじだ」

「世垓功次…あんた、古道高か?」

「そうだが?そういう君は?」

「私は鬼道雷葉きどうらいは。聞いた事あるんじゃないか?」

「鬼道…雷葉…」

どこかで聞いた事ある気がするけど…どこだったけな。

「…あぁ…そういうことか」

少し考えた結果、この人が誰なのか思いつく。

彼女は俺が通う古道高校でも有名なレディース総長。きっとさっきのもヤンキーとかそういうのと争っていたんだろう。

「てか、逆になんで俺のこと知ってるんだ?」

「それは…」

雷葉が口を開いた瞬間

「いたぞ!」

「まずいっ、追いつかれたか」

「へ?」

声がした方には俺らの方へ向かってきている特攻服を着た男がたくさん来た。あれはさっき雷葉を追い詰めていた奴らなんだろう。

「とりあえず逃げるぞ!」

「わ、分かった…」

雷葉は俺の手を取り、走り出したので俺も一緒に走り出した。


「はぁ…はぁ…」

「ここまで逃げれば大丈夫だろ」

息が切れている俺とは相性的に雷葉は何とも無いようだ。

「…あいつらは?」

俺は追ってきていた奴らの正体について聞いてみると

「あいつらは今まで私が叩きのめしてきた奴らだ。どうやら結束して私を倒そうとしているらしい」

「ほえー…なんかだっせぇな。寄ってたかって女子を襲うなんてな」

俺が思っていることを言うと

「おー!お前もそう思うか!」

と、良い笑顔でバンバンと背中を叩いてきた。い、痛い…。

「なんでタイマンを張ってこないんだろうな。男としてホントダサいよな」

「分かる。男なら戦士らしく戦えよな」

「おー!お前とは気が合いそうだな!」

「そ、そうか…」

学校でも恐れられているレディース総長に同族意識向けられてもなぁ…。

「そうだ、さっき有耶無耶になっちゃったけどなんで俺の事を知っていたんだ?」

ヤンキーどもに追われて聞けなかったことを聞く。

「そりゃあ…あんたは古道高のオタクの頂点だろ?」

「…まぁ。否定しないが、それで知られているのもなぁ」

まさか学校では程遠い存在のような雷葉にすらそれで知られてしまっているとは。

雷葉の言う通り俺は古道高校で一番のオタクとして名が広まっている。どんな状況においても漫画やラノベを持ち、グッズにかける金額も言動も異次元という事でそう言われている。だが問題行動はしていないので何も言われていない。

「噂だけだと仮想の人物にしか興味がない貧弱な奴だと思っていたが、さっきはよく私を助けることが出来たな」

「まぁ一応な」

「…あんたさ」

「?」

「気に入ったから私のチームに来い」

「なんという命令口調」

軽い威圧を出しながら雷葉はそんな提案をしてくる。しかし俺は怖気づかない。

「まぁ良いけど…連れて行ってボコすとかやめてくれよ」

「そんなことしねぇよ」

今少しだけ関わった感じだと、噂に聞こえる悪名はとても感じられない。

「じゃあ行くぞ。ついてこい」

「今からか?」

「そうだが、何か問題が?」

まさかの今からレディースチームに行くことになるとは思っていなかったので、少し驚いている。

「いや、ないが…」

アニメは録画しているし、デイリーは終わらせている。今はイベントもないから大丈夫だな。

「じゃあ行くぞ!」

そうして雷葉に言われるがままついていくことにした。


『総長!大丈夫ですか!』

雷葉に連れられてきたのは人気のない空き地。そこには特攻服を着た多くの女子。これは雷葉の仲間か…意外と多いな。

「大丈夫だ。こいつに助けられたからな」

そう言って雷葉は俺の方を掴んでくる。

「こいつが?」

「こんな貧弱そうなやつが?」

レディースの皆が怪訝そうに俺を見てくる。

散々言われているが、確かに俺はそこまでマッチョではない。どちらかというとヒョロい。だからこんなふうに言われるのも仕方ない。

「そう言うな。こいつは橋から落ちた私をキャッチ出来たんだ。それなりには出来るぞ」

雷葉がフォローしてくれるがあまり信じていない様子だ。まぁ良いけど。

「私はこいつが気に入った。これからここに連れてくることもあると思う。仲良くしてやってくれ」

『分かりました!』

レディースの皆は雷葉の言葉に元気よく答えた。雷葉にはすごい忠誠心だ。さっきまで俺を疑っていたのを一瞬で払拭してしまった。


「なぁ、功次」

「なんだ?」

レディースの皆は帰り、俺と雷葉だけになると雷葉が声をかけてきた。

「あんた、私の男にならないか?」

「…は?」

唐突に告げられたその言葉に俺は疑問しか返すことが出来なかった。もしやこの雰囲気は…

「だから、私の男にならないか?」

「…というと?」

「その…私と付き合えって言ってんだよ」

「…はぁ!?」

少しばかり予想出来ていたが、それでもおかしな言葉聞こえてきたので驚いてしまう。

「付き合えって言ったって…俺らはまともに関わったのは今日が初めてだろ?そんな短期間で惚れる事なんてあるか?」

「…あるんだよ。橋から落ちてタダでは済まないと覚悟したときに、助けてくれた。あの時、私にはあんたが白馬の王子様に見えたんだ」

「そ、そうか…」

俺の事をこう言ってくれる存在が今までいただろうか。頬を赤らめながらそう言う雷葉は完全に恋する乙女だ。

「…お前ってもしかして、チョロイン?」

「なんだチョロインって?」

「あー、ちょろいヒロインの略。そんな簡単に恋に落ちるからな」

「違う!と、思う…」

強く否定してきたがすぐに自信を無くしてしまった。

なんだろう。こいつ、実は面白いのかもしれない。

「まぁ、気持ちは嬉しいが…俺はまだお前のことをあんまり知らないんだよな」

「噂、聞いたことないのか?」

「俺は噂なんか信じない。自分の目で見たものしか信じない。今のところお前は噂に聞くような人じゃないと思っている」

「そ、そうか…そう言ってくれるのは嬉しいけど…私の告白を受けてくれるわけじゃないんだろ?」

「…そうだな。まだよく知らないし。あと、根本的な問題がある」

「…なんだよ?」

「俺、三次元に興味ない」

「………そうか…そうだったな」

俺の言葉を聞いてかなり気を落としてしまったようだ。

しかし事実そうなのだ。三次元の異性なんて信用ならないと思ってしまっている。

過去の経験。身の回りの人間。それを見ているととても信用できない。

それよりかは俺を裏切らない二次元の方がよっぽど信用できる。

…この考えのせいで、ヤバい奴だと言われているのだが…今の世の中こんな考え方の男は結構いると思っている。

雷葉は少し落ち込んでいたが、すぐさま顔を上げ俺の方を向く。その顔は何か決心した様子だった。

「ど、どうした?」

「私、決めたぞ」

「何を?」

「あんたを堕とす。二次元なんか吹き飛ばして、私以外考えられなくしてやるよ」

その大胆な宣言に俺は…

「そ、そうか…頑張れよ」

と返した。


…結局あの後は軽く話をして帰らせてもらった。

しかし今までの人生で一番女子と話した気がする。

雷葉と同じようにレディースの皆も聞いていた噂程危険な人たちではなかった…と思う。

俺は交友関係が少しばかり狭いから分からないが。

そんなこんなして次の日。いつも通りアニソンを聞きながら高校に着くと…

「よう、功次!」

「…なっ」

校門で雷葉が腕を組んで仁王立ちしていた。その出で立ちに恐怖し、周りに人はいなくなっている。

「ツラ、貸せよ」

「…分かった」

雷葉の元に向かうと、肩を掴まれそう言われた。とてつもなく睨まれている。

「陰キャが雷葉に絡まれているぞ」

「死んだな」

「あいつは…良い奴だったよ」

周りから俺らの方にいろんな言葉が飛んでくる。俺は別に死なないと思うがなぁ…。


「今日の帰りは空いてるか?」

屋上に連れてこられると、突然そう聞かれてしまった。

「空いちゃいるけど…」

「けど?なんだよ?」

「あんなに威圧感出さなくていいんじゃないか?」

「え?」

俺の言葉の意味を分からないといった顔をした。逆になんでわからないのだろうか。

「私、威圧感なんか出してたか?」

「あぁ」

「そうかぁ?私はいつも通り普通にしてたんだがな」

それが問題だという事になんで気づかないのか。言葉遣いとか眼つきとかのせいで周りに警戒されまくりだったんだが。

「で、結局帰りは空いてるんだよな?」

「あぁ、大丈夫だ」

「じゃあまた私のチームに来てくれ。あいつらもお前を少し気に入ったようだからな」

「そうなのか?俺なんかしたかな?」

何か気に入られるようなことをしたと思わないが。

正直俺は気に入られるようなことをした記憶がなかったので、気になったから聞いてみた。

「あんたは私たちに全くビビらず話していただろ?それがあいつらにとっては楽しかったんだってさ」

「そうか。別にお前らに対して怖いとは微塵も思わなったけどな」

「…それはそれでレディースとしては舐められているような気もするが、あんたが私たちに何かできるような気もしないし良いか」

「…そうだな」

雷葉の言葉に苦笑いで答える。俺がお前らに何か出来るない…かぁ。

「お?そろそろ始業時間だ。じゃ」

時計を見て気付いた俺はそう言い、去ろうとすると

「ちょっと待て」

と、制止をかけられた。

「…なんだよ」

「昼もここに来い」

「…分かった」

なんでそんなことを言ってきたのか分からないが拒否することもないので同意しておいた。


「よく無事だったな」

教室に戻るとオタ友に英雄を見る目で見られた。

「なんでだ?俺、危険なことに遭いそうだったか?」

「そりゃあ…あの悪名高き鬼道雷葉に捕まったんだぞ。ホント…何をやらかしたのかと思ったぞ」

きっと雷葉の噂からそう思っているのだと思うが…

「大丈夫だ、問題ない。俺がやらかしたことといえば…」

「やらかしたことといえば?」

「橋から落ちてきた雷葉を助けたくらい?」

「…何してたんだ、お前?」

オタ友は呆気に取られた様子だ。

「んー、主人公?」

「思い上がるな」

辛辣だなぁー。別に少し位そう思ってもいいじゃねぇか。


その後は普通に授業を受けて昼になった。

雷葉に言われた通り俺は屋上に向かうことにする。

オタ友に昼を誘われたが、雷葉からの先約があると言うと温かい目で見送られた。まるで死地に赴く人を見るかのようだった。

「待たせたな」

屋上の扉を開けると雷葉がまた仁王立ちで待っていた。

「待ちくたびれたぞ」

「…昼休憩が始まってすぐに来たんだけどな」

「そんなことはいい。さ、飯を食うぞ」

雷葉はそう言うと弁当を俺に突き出した。

「…これは?」

「あんたの分だ。作ってきてやった」

「…頼んでないが」

「私が作ったものを食べられないって言うのか?」

「…分かった」

俺は渋々雷葉から弁当を受け取った。本来女子からの手作り弁当なんてまともな男子高校生であれば血涙を流して喜ぶことだろう。しかし俺はそうではない。

「じゃあこっちで食べよう」

俺は雷葉に連れられ座る。隣に雷葉も座り一緒に弁当を開くと

「…おお」

「どうだ?」

そこには予想以上にしっかりとした綺麗な弁当が出てきた。

「お前、料理できたんだな」

「馬鹿にするな。仮にも私は女子だ。料理の一つ位出来んでどうする」

全国の女子が料理できるとは思わないが、素直に驚いた。噂に聞くほどガサツな人ではない。

俺が今まで聞いてきた噂は事実なのか疑わしくなる程だな。

「じゃあ、いただきます」

俺は用意された箸を手に取り、食材を口に運ぶ。

「どうだ?」

「うーん…」

「不味いか?」

「…うまい」

「そりゃ良かった」

雷葉の方を見ると、良い表情で俺を見ている雷葉と目が合う。すると雷葉は顔を赤らめて反対側を見てしまった。

こいつ…照れているんだろうか。

こうなってくると、こいつがレディース総長ということを忘れてしまいそうになる。

本来の男子であれば、一緒に照れたり、邪な事を考えるのだろうが俺はそんなことはない。

「そうだ、結局頼んでもないのに何で俺の弁当を作ってくれたんだ?手間だろ」

俺が聞くと、こっちの方に顔を戻して口を開く。

「男を堕とすなら胃袋だって姉貴が言ってた。日頃から自分の分は作ってたし、一緒に作ってきたんだよ」

「へー」

それで堕ちる程俺はちょろくないと思いたい。

しかしこれはうまい。俺も料理は出来るがこれほどまでにうまくは作れない。

「…うまかった、ありがとう」

「私こそありがとうな。こう言うことしたことないからうまく出来ているか心配だったんだ」

そうは思えないほど良い出来だった。

一緒にいて思うが、こいつは悪いやつじゃないんだと思う。

昨日の通りレディース総長をやっているのは違わないだろうが、怖いとか野蛮だとかの噂は一人歩きをして出来たものなんじゃないかと踏んでいる。

…まぁ目付きは悪いので、見た目が原因だとしたらどうしようもないが。


「よし!行くぞ!」

授業も終わり、教室を出ると雷葉が待ち伏せしていた。

…だから教室から誰も出ていこうとしなかったのか。そこまで警戒するほどなのか?

「分かったよ。だから引っ張るなって」

「時間は有限だろ!一緒にいる時間は多い方が良いぞ!」

だからってそこまで急ぐ必要あるのか?

そこに疑問を持ちながらも、俺は引っ張られるまま雷葉と共に学校を後にした。


『総長!お疲れ様です!』

「おー。みんな元気だな?」

『はい!』

雷葉のチームが集まる空き地まで来ると、既に皆ここに来ていた。

早いな…本当に学校に行ったのか?

そう考え雷葉に聞いてみると

「ちゃんと行ってるぞ。私と同じですぐにここに集まりに来ているだけだ」

と返される。

にしても早い気もするが…まるで授業が終わった直後に出ているかのように…。

ここで俺は頭に少し取っ掛かりがあることに気付いたが、その正体は分からなかった。

なのでその正体を暴くべく、チームの皆に話を聞いてみることにした。

「少し良いか?」

「なんか用?」

「あぁ…ちょっとな」

近くにいた奴に声をかけるとそんな反応を返される。

雷葉程信用はしてもらえていないので少し警戒されるが、話は聞いてくれそうなので良かった。

「なんで皆はこんなにも来るのが早いんだ?」

「それは…あたい達は学校で毛嫌いされているからだよ」

「…何?」

「このチームに入っている奴はみんなそうさ。元々学校に居場所がなくて、安心出来て楽しめる環境が欲しいからここにいる奴ばっかさ」

…なるほど。少し見えたかもしれん。

学校を出るときにあそこまで雷葉が急いでいたのもこれが理由だろう。

「別にお前らは悪いやつじゃないと思うんだけど…なんでそんなことになってんだ?」

関わっているのは二日間だけだが、別に悪い奴らじゃないと思う。

最初こそ警戒されたが、普通に話してくれる。噂通りの存在であれば今頃俺はボコされているはずだ。

きっと彼女らは周囲の誤解から始まったチームなのではと考えている。

「多分雰囲気じゃねぇかな。総長もそうだがここにいるほとんどは髪色が黒じゃないしな。後は目付きとかな」

「じゃあ黒だけどここにいるのは?」

「全員は知らないけど、自分とか誰かが不良どもに絡まれているところを反撃したり助けて変な噂が立って、ここにいるのが多いはずだぞ。私もそうだしな」

…やはりそうか。皆の雰囲気は悪いものではない。むしろ良い感じがするのだ。

これだから噂は嫌いだ。人を見た目だけで判断しやがる。

俺もその被害者の一人ではあるが、彼女たちほど気にするようなものではない。

「…ありがとう、話してくれて」

「あぁ…お前はあたい達にビビらないって…昨日も感じたが変わってるな」

「そりゃどうも」

噂に飲まれるほど俺は人の言葉は信用しない。

…何度もこいつらと同じ状況にあってきたからな。

「そういえばあんたのリュック、異常なほど大きいけど…何が入ってんだ?」

「漫画とラノベだ」

「そ、そうか…」

少し引かれた。


それから数週間が経った。

ほぼ毎日雷葉に連れられチームに寄っては遊んだり話したりしていた。

それであいつらの事もかなり分かってきた。

ほぼ全員が学校でハブられているようだ。

それを見かねた雷葉があのチームを結成したようだ。他のヤンキーチームと喧嘩する理由はメンバーの中にかなり容姿が良いのが何人かいてそいつらを守るためだという。

そして噂にあるような悪い事は一切していないとのこと。

どこかで尾ひれがついたのか…喧嘩した他のチームに流されたのかは分からない。

「…くだらん」

周囲は俺の方を見てヒソヒソ話している。

「なんで俺はこんなにも注目を浴びているんだ?」

前の席にいるオタ友に聞いてみる。すると呆れた様子で…

「逆になんでわからないんだよ」

「あれだろうか…雷葉といる事だろうか」

「それに決まってんだろ!」

「…そうか。だからと言ってもこんなことになる理由は?」

「そんなの…あの超危険人物の鬼道雷葉と校内一の変人であるお前が付き合っているとなると…」

「…何?」

俺と雷葉が付き合っている…だと?告白をした記憶もされた記憶もない。

「違うのか?」

「あぁ…また噂か」

きっと何者かが俺らの行動から推測して勝手に広めたのだろう。

「お前が三次元と付き合うとは思わないから、俺は嘘だと思っていたがな」

流石俺を十分に理解している存在だ。このように噂に左右されないやつが多いと良いのだが…。


「あー、早く行こう」

先生に仕事を頼まれて帰るのに時間がかかった。雷葉には先に行ってもらっているから俺も向かうか。

すると校門にレディースのメンバー達がいた。

しかもかなり傷ついた様子で。

「おい!何があった!?」

俺は急いで駆け寄り今にも倒れそうなメンバーを支える。

「カチコミだ!他の奴らが私たちの拠点を…」

「なんだって!?」

「今は総長が抑えているけど…そろそろマズいかも」

「分かった!俺が行く!」

「あんた…戦えるのか?」

「任せろ。オタクをなめるなよ」

「じゃあ…任せる」

「お前達は休んでおけ」

俺はそう言って雷葉たちの元へ全力で向かった。

そして道中にある自宅にも寄った。


「おらおら!さっきまでの威勢はどうしたぁ!」

「うぐっ…」

くっそ…多勢に無勢。そろそろきつくなってきた。

あいつらが…功次を…呼んでくればいいが。

「ここで眠らせて、俺の女にしてやるよ!」

相手のリーダーが腕を振り上げる。

まずいっ…避けられないっ…。

私は何とか防御しようと構える。

すると…

「カチコミじゃあ!」

という叫び声が聞こえるとバンッ!と扉が強く開かれた。

「待たせたな」

「功次!」

声の主である功次の方を見ると

「…え?」

「俺、完全武装だ」

功次は全身に武器を装備していた。いくつもの銃、刀を背負っていた。

「ショータイムだ」


「なんだよ!?お前!?」

「俺か?俺はそこら辺にいるランボーだ」

「ラン…ボー?」

「なんだ、伝わらないのか」

時代を感じる。親の影響で古い映画が分かるのだが…今の奴らには伝わらないのか。

「さてと、ボケは終わりだ。俺の仲間によくも手ぇ出してくれたな」

俺はあたりを見渡して敵の確認をする。

敵兵35人。かなりいるな。皆を逃がしてまで…この数をよく雷葉は一人で持ちこたえていたな。

「さぁて、お前らの相手はこの俺だ!かかってこい!」

「あっははは…陰キャに何が出来る!」

俺は笑われたのですぐさま腰のハンドガンを抜き一人の頭を打ち抜く。

「なっ!?」

「これが俺の武器『銃~』だ」

あまりにもふざけた武器名だが、周囲はそんなこと気にしている場合ではないようだ。

まぁ本物ではないし、サバゲー用のエアガンだ。死んではいない。しかし装備はないので激痛だろう。

「まだまだ行くぞ!」

「うっ!」

「いだっ!」

「あがっ!」

ハンドガンの残弾5発で倒せたのは3人。

「次だ!」

「あだだだ…」

「うげげげ…」

「あばばば…」

アサルトライフルを掃射し倒せたのは8人。

「まだあるぞ!」

「うがぁ!」

「あべっ!」

「あだっ!」

サブマシンガンを乱射し倒せたのは6人。

「あっはっは!かなり減ったな!」

死屍累々…とでも言おうか。既に半分程度は減った。

「て、てめぇ!」

一人が俺の方へ殴りに来る。

「功次!避けろ!」

雷葉が心配をして叫ぶが、俺は腰の武器を抜く。

「はっ!」

「なっ!?」

飛んできた拳を武器で防ぐ。

「功次…お前、それって」

雷葉が驚いている。それはそうだろう…今俺が持っているものは…

「刀ぁ!?」

ヤンキー共が驚く。しかし俺はすかさず訂正する。

「違う。これは『KA・TA・NA』だ」

「何が違うんだよ!」

「違うな。発音と性能が」

「発…音?」

そう驚いているやつに急接近して『KA・TA・NA』を首に振り下ろす。

「うがぁぁぁっ!」

大絶叫を上げるが別に首は斬られていない。

それはそうだろう。これは刀ではなく『KA・TA・NA』だからだ。実際はただの木刀。色を塗って本当の刀と同じようにしているだけだ。だから斬れることはない。

まぁ痛いだろうが。

「行くぜ!戦国無双!」

俺は的確にヤンキー共の首や横腹を殴りノックダウンしていく。これでまた5人減らした。この調子で…

「くそがぁっ!」

「やっべ…」

俺は反撃され怯んだ時に『KA・TA・NA』を手放してしまう。

「今だ!」

周囲で出方を窺っていた奴らが飛んでくる。

まだ武器はあるに決まっているだろうが!

「行くぜ!角刀ホーンソード!」

背に構えていた薙刀状の武器を回す。それを喰らったヤンキー共は5人吹き飛んだ。

『角刀』。俺の自作武器。段ボールやら牛乳パックやら木材で作った。強度は充分。重量も河川敷の石を詰め込み5kgはある。

「さぁどうする?後はお前らだぞ?」

残りは雷葉の周りで陣取っていた6人だ。

こいつらは今まで倒した奴らより特攻服が厳つい。

「そこまで武器を減らして俺らに勝てるとでも?」

「あぁ、勝てるとしか思ってないが?」

雷葉を殴ろうとした奴が挑発してくる。

しかしここまでの俺の戦況を見てなおこう言ってくるとなると…何かあるな。

「今のうちに雷葉を解放すれば許してやる」

「それはこっちのセリフだ。ここで消えれば半殺しで許してやる」

半殺しは困るな。ならば選択肢は一つ。

「さぁ、来い!」

俺が構えるとリーダー格以外の5人が一斉に来る。

「ふんっ!」

『角刀』を薙ぐと普通に避けられた。一人は当たったが何とか耐えているようだ。

確かに今までの奴らよりは骨があるようだ。

「だらっしゃぁっ!」

もっと強く攻撃をし続けなんとか2人倒す。

しかし的が減ってしまうと『角刀』は使いずらい。

『KA・TA・NA』の方を温存しておきたかったが、あそこの防御には構えが早い『KA・TA・NA』しかなかった。

しかし…

「疲れてきたようだな」

そう、相手の言うとおり俺の体力は少なからず減っていた。

こんなことならもっと体力の方も鍛えておくべきだった。

「…ふっ…どうかな」

「そう強がるな。陰キャの癖によくやったよ」

煽るように褒めてくる。しかしこいつらは気づいていないだろう。俺にはまだ秘密兵器が控えていることを…

「…くっ」

わざと膝をつき体力が切れたように見せる。

「今だ!」

3人が俺の隙にとどめを刺そうとする。

来た!

「『墨汁入水風船ブラックウォーターボール』!」

顔を上げ腰に付けていた水風船を3人の顔面に投げる。

「ぎゃぁぁぁっ!」

「うわぁぁぁっ!」

「なんだぁぁぁっ!」

「決まった!」

3人は顔に纏わりついた黒い液体に恐怖している。

そう、これは墨汁だ。嫌がらせに近いが意外と使える。

面白いのは3人の特攻服はうまい具合に漆黒に染まった。

「さーてと、後はお前だけだ」

「な、な、なんなんだよ!お前!」

残されたリーダー格は驚いている。

「だから言ったろ?俺はそこら辺のランボーだ」

「くそがぁっ!」

「きゃっ…」

相手は俺の先頭を見て呆気にとられていた雷葉を人質にとる。

「この…下郎がっ…」

「そこから動いてみろ?こいつの首を絞めてやる」

「功次…」

雷葉が辛そうだ。今すぐにでも助けなければ。

「雷葉!目を瞑れ!」

「分かった!」

俺は装備の一つを相手の顔に向ける。

「『輝け!フラッシュ!』」

そして装備のスイッチを起動すると眩い光が相手を包む。自作の超高性能ライトだ。まともに目に入れると辛くなるほどだ。

「うっ…」

相手はあまりの閃光に目を覆い隠す。そこで雷葉が解放される。その隙に救い出す。

「雷葉、無事か?」

「あぁ、功次こそ大丈夫か?」

「問題ない。皆も無事だ」

「…良かった」

俺は雷葉を座らせ相手の方へ向かう。『輝け!フラッシュ!』のスイッチも切る。

「うぅ…」

「どうだぁ?まともに光を入れて苦しいだろぉ?」

俺は目をやられ動けない相手に近づく。

仕上げだ。

「とどめだ」

俺は残していた装備を手に取る。

「『シュールストレミングボム』!」

それを全力で相手に投げぶつける。

「あっがぁぁ!臭い!臭いぃ!」

絶叫を上げて悶える相手。

「もういっちょ!」

俺は相手の口が空いたところにもう一発投げ込んだ。

「く、臭いぃ!不味いぃっ!」

再度絶叫した後、力尽きた。死んではないだろう。

「終わったぞ」

座っていた雷葉に報告する。

「…なんか、あっち側からすごい匂うぞ?」

「気にするな」

「いやいや気にするなって無理だろ」

「…やっぱり?」

流石に無理か。この空間全体に充満する形容しがたい悪臭。気にするなは無理があった。

「何をしたんだよ?」

「何って…元から臭いシュールストレミングを半年間常温で放置して腐らせた劇物だ。あれはこの過程をすると液体状になるからな。水風船にぶち込んで投擲武器にした」

「…なんかあんた凄いな」

「そりゃどうも」

「後始末も任せろ」

「わ、分かった」

どうにでもなれと諦めた雷葉。まぁ許可が下りたなら俺の自由にしよう。

ということで、死屍累々と力尽きているヤンキー共全員を少し離れたところにまとめる。

「じゃあ行くぜ!『ガトリングバルーンだぜ!』」

俺はリュックから大量の水風船を投げまくる。

一心不乱に投げまくるとヤンキー共に当たり割れると、墨汁とシュールストレミングがまき散らされる。

全て投げ終わるとヤンキー共の体は漆黒に染まり、絶望的な悪臭に包まれた。

「全て終わった」

「そうか…ありがとうな」

全て終わると緊張の糸が切れたのか雷葉は力なく横になる。

「大丈夫か!?」

急いで駆け寄る。

「大丈夫だぞ。疲れただけだ」

「一応見せろ。脚とか腕とか」

「…分かった」

俺はリュックに入れていた応急道具で怪我を治していく。

「これで良しっと」

「ありがとうな」

「礼なんかいいよ。仲間だろ?」

「そうか…そうだな」

雷葉は嬉しそうだ。

「取り敢えず無事で良かった」

「ほんと、助かったよ」

「あいつらはあそこまで叩き潰したんだ。もう来ることはないと思うだろ」

「そうだな…それにしても」

雷葉は山積みになったヤンキー共を見て引いた表情をする。

「どうしたよ?」

「あんた…こんなに強かったんだな」

「まぁな。お前は分かってただろ?俺が強いって」

「でも、ここまで強いとは思ってなかったぞ?」

「だろうな。オタクがここまで強いとは誰も思わんだろ」

そして俺も疲れたので雷葉の隣で横になる。

「つっかれた」

「功次…」

「どした?」

「やっぱり私、あんたが好きだわ」

「…そうか」

「返事は?」

正直何度もアプローチをされてきた。

飯は旨いし、噂とは遠いほど優しい。

いくら二次元命の俺でもかなりキテいる。

しかし…過去から俺は現実の女を信用できない。

こいつが裏切るようには見えないが…いざって時が辛いし。

「…もう少し、待ってくれるか?」

「…」

俺の返事に雷葉は黙ってしまった。返事としては最悪だな。どう思われるだろうか。

「…分かった」

「…マジ?」

「マジだ。言っただろ?私はお前を堕とすって。今日の事でよりその意志が堅くなったよ」

「…ありがとう」

こんな優柔不断な俺を待ってくれる雷葉は本当に良い奴だ。

待たせているのが申し訳ない…いつかは頑張って過去と決別するしかないな。

「じゃあ、功次。明日来いよ?」

「分かったよ」

近くに山積みのヤンキーがありながら俺らは寝転がり話した。

それは先程の事が嘘のように平和な時間だった。

「総長!功次さん!無事ですか!」

俺らがゆっくりしているとレディースの皆が来た。

「あぁ、無事だよ。功次のおかげでな」

「良かったぁ…」

「皆の方が大丈夫なのか?」

俺の所に来た時にはかなりダメージを負っている奴もいたはずだが…。

「私たちはなんとか回復したんで援護に来たんすけど…杞憂だったみたいっすね」

「功次のおかげだ。こいつがいなかったら私は何をされていたかどうか分かんなかったな」

本当に間に合ってよかった。知っている奴が危険に遭いそうなのにほっておくのは寝覚めが悪かった。

これからまたこんなことにはなってほしくないと俺は願った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カチコメ!オタク君 クロノパーカー @kuronoparkar

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ