二章二十四話 「無名 vs 残党 ①」
敵側前衛二人が大きく前進する。それに合わせてミウが魔法を放つことができれば理想なのだが。
「ドンと燃えろ!!!」 「
ゴオオオ・・・オオオオォォ・・・!!
炎には炎で。威力も均等に相殺される。まるで撃つべきものがなんなのか分かっているように。だが、ウチのミウはもっと強い。一回限りの上級魔法をやっと使えた俺だから言えるが、あんな軽く俺と同等以上の威力を出し続けるミウの魔法技術は凄まじいものがある。その証拠に、
「突風向かい風ぇ!!かーらーのー。尖った水でゴーゴーゴー!!」
砲撃が続く上空にて突風が発生し、相手の勢いが弱まる。そこに貫通力の高い魔法を差し込むことで、渋滞した魔法を一気に貫き更地に変える。
「なんで!!なんで私がタイマンで撃ち負けるの!?全部"見えてる"のに・・・!!」
負けじと同等の威力で迎え撃つ彼女も、実力的には強いはず。それでも打ち勝てるのが、ウチのパーティの魔術師なのだ。先の水弾が速度を落とし、敵を一直線に刺そうとする。
そのまま一対一であれば、勝てるはずだった。
バチイイィィン!!
水弾は無で破裂し、小さな雨が降り注ぐだけに終わる。
「慢心するな。お前の強みを生かせ。」
小ぶりのゴブリンが謎の力で阻止したようだ。そこそこ強い奴が二人にまでなれば、いくらミウでも手が余る。だからこそ、
「先陣切って行かせてもらうぜ!!」
前衛が何とかしなければならない。トウガが剣を握りしめ、特攻をかけた。遠距離相手には近づけばどうとでもなる。そこが勝負の分かれ目だ。
「・・・火剣・
ガギイイイィィ・・・!!
向こうの前衛も薄くはなく、B級冒険者にまで上り詰めた素体からの大剣には、その勢いを止められざるを得ない。
「チッ・・・!トッカぁ!!こんな形で決着つけるなんて、不服で仕方ねぇよなぁ!!」
「ならばあの世で決着でもつけて来い。首は落としてやるぞ。」
以前より力の上がったトウガであっても、簡単には振りほどけない。負けはないだろうが、停滞はもしもを生み出してしまう。
「
「きさ・・・ま!?」
ドオオオォン!!
渾身の蹴りがわき腹へクリーンヒット。素体がどれほど強かろうが体重は一般人なため、咄嗟の攻撃によりはるか横方向へと吹っ飛んでいった。
「決着の邪魔して悪いな!」
「変な心配すんな!あいつに言ったわけじゃねぇ。」
これはチーム戦だ。手を出せるときは躊躇なく出させてもらう。ミウの魔力残量が懸念事項の一つなのだ。急がなければ。
「・・・縛レ。」
「う・・!?ぐおおぉ!?」
突如として、アメルの体が無に拘束される。指一本動かすこともできず、押しつぶす力は徐々に増していった。
「ぉぐぎぎぎ・・!!がああぁあああ!!」
「アメル!?くそっ!あいつの力か・・・!!どうやって解除すんだこれ!?」
出所は、謎の力を使う存在、クスニクだとわかっている。だが、その力の全容は未だ分からず、救出方法を模索しても一向に落ち着く気配がない。
ハークンを助ける瞬間もどうしていいかわからず、ただ間に剣を入り込ませるしかできなかった。例に倣って能力の"繋ぎ"があると仮定して剣を振るうも、効果は見られない。
「いつまでもそうしていろ。いつ、内臓が潰れ、いつ、体から血を噴き出すか。その恐怖に怯えながらな・・・。」
「ぐ・・が・・・ぁ・・・。」
視界が朦朧としてきた。抵抗しようにも、力を込めた手足が一ミリとて動かない。抵抗ができているのかすらわからない。
「・・・。なら。てめぇをぶった切れば済む話だ・・・!!」
この戦闘を通じて、なんとなくだが分かったことがある。クスニクは、"同時に二方向に謎の力を使えない"。拘束、防御、圧迫、妨害等、あまりにもできることが多いにもかかわらず、未だ負けていないのだ。自分たちの実力が弱いと言っているわけではない。しかし、上澄みにはどうあがいても届かないということは知っているつもりだ。数多の猛攻を耐えきれるほどの自信はない。
ならばいつ使わざるを得ないのか。己の命に危機が迫っている場合しかないだろう。
「さっせない。させないさせない!!このチビどもに近づくやつを殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴るのが!!!このリッツァの役目!!」
腕が体よりも大きい状態と化した兎の獣人が、その腕を武器のように振り回して立ちふさがった。見るからに、力ではトッカよりも強いだろう。そうこうしているうちに、アメルが潰れ切ってしまう。
「お前の頭。貸してもらうぞ。」
「ぅな!?」
誰も気づかない一瞬で現れ、リッツァの頭を足蹴にする者がいた。振り落とそうと身をひねり半回転。その勢いで拳を振るっているが、すでにそこにはいない。
「
迫りくる二つの手裏剣を。
ガギギィィン!!
不服な顔をして手裏剣を弾いた。これで拘束は解かれただろう。
「ぶはあぁ・・!!はぁ・・はあ・・・。死ぬかと思ったぁ!」
「よし!!そのまま行けぇ!!サリート!!!」
弾かれて地面に突き刺さった二つの武器。集中して見ると、今にも千切れそうなほど薄い糸が繋がれていた。
「・・・!!?」
遅れて気づいたクスニクは、その顔を真っ青に染める。力で防がれることを想定し、次の手を打っていたのだ。
「日食・・・!」
腕を交差したとき、その勢いが糸から武器に伝播し、弾丸のように迫った。これをしのぐだけであれば、体全体を守ればいい。だが気づいていた。それをしてしまえば、サリートが現在空中で取り出している広い布に覆われてしまう。力を利用する際、目で攻撃対象を捉えていたことを見抜かれていたのだ。
二方向に力は繰り出せない。しかしこのチーム戦において一番厄介なのが彼であり、彼の機能停止はほぼ勝ちを意味していた。誰もがこれを理解していた。誰もが。
「
刻一刻と迫る攻撃に一斉砲撃。・・・はせず、何もない時間が流れ去った。当然二つの手裏剣は体へ突き刺さり、苦痛の色が濃く表れた。
リットオッドの無に放つ魔法とクスニクの無に放つ力に戸惑いはするが、視界を塞ぐための布を覆いかぶせることに集中する。
サリートの持つ武器は、もれなく木製。そして布。
「火剣 ・
赤く燃える男が、とんでもない速度で視界に現れた。瞬間、強い風を感じた。
昔から何となく感じていたのだ。こちらと彼では、嫌になるほど相性が悪い。
飛び散る火の粉は布を焼却し、取り出す武器さえ燃えカスとなり果てた。身をよじって傷を最小限に抑えたが、体当たりを丸ごと避けることなど不可能。
ドオオオオオォォン!!
サリートとシャドウ(トッカ)は、勢い強く吹っ飛んでいった。
その隙を逃さない。リットオッドが魔法をシャドウの引き寄せのため使ったことにより、攻め時だと油断したスライムを力で拘束する。
「う・・・?おお?おおおおぉおぉぉ!?」
液体に締め付けが有効かはわからない。宙へ浮かばせて、最高速度で引き寄せる。向かう先には準備万端のリッツァがいた。
「や・・ば!?ミウ!!!」
空中へ飛びついて勢いを殺そうとするも、アメルを巻き込んだまま速度は落ちない。ただ殴られる人数が増えただけだ。
「と、まれえええええぇぇぇぇぎゃあああぁぁぁ!!!」 「おおおぉ!?おオおォおおぉぉオオおぉ!!」
一向に変わらない。このままでは二人して巨大な拳の餌食となってしまう。せめて俺が盾となって逃げ道を作れば勝機はあるか?
・・・無理だろ!?たぶんゴリラよりでかいぞあの腕!余裕で死ねる!!どうしようもう絶叫してるよ俺。
「アメル!!!ミウ!!!このまま突っ込め!!!」
直線上にはトウガが立つ。真っすぐとこちらを見据えるその目は、こちらにまで自信を与えてくれるかのようだ。
なすがまま飛んでいる二人に向けて飛びついた彼は。その勢いに。
巻き込まれた。
「なんでお前まで一緒に吹き飛ばされてんだよ!!ホントにどうすんだこれ!?」
「・・・アメル。」
三人まとめてやられかねないこの状況でも、冷静さを保っている。まさか、作戦の一環なのか?勝ちにつながるとんでも作戦を。
「ゴリラ兎の対処は頼んだ!」
「は?」
直後、トウガに下へと蹴り落され、空中に投げ出されるように脱出となった。
「おい!何してんだ!?俺を逃がしてもしょうがないだろ!?」
「逃がしたつもりはねぇ!!あいつの対処を頼んだんだ!!」
本気で言ってるのか?ただでさえタイマンで勝てない相手から、この猛スピードの二人を守る?
「そんなの無理・・・!」
「無理でもいい!!」
は?ますます意味が分からない。一体何を考えているんだ。
「俺が信じたんだ!!一か月過ごした友を!!俺らの仲間を!!!」
「・・・・。」
「さあさあさあさあさあさあ!!!今からやっと!!殴れる!!!」
待ってましたと言わんばかりに、巨大な腕を思いきり引き絞る。命中すれば骨すら粉々に砕くであろう一撃。
「どんな結果になろうと俺らは、お前に任せたことを誇りに思うぞ。」
わちゃわちゃした中で途切れてしまった魔法の効果を、今一度呼び起こす。
「・・・フル・・スロットル・・・!!」
考えうる最短の距離を、最速の動きで、最高の判断を。
「ん?・・・うぃ!!??」
腕だけ肥大化して貧弱になった足の片方に、突撃してバランスを狂わせた。
「んなこと言われたら。答えたくなるだろうがぁ!!」
バランスを崩したゴリラ兎は、二人を見逃さざるを得なくなる。
「最高だ・・・!後は任せろ!!相棒!!!」
進路は真っすぐ奴のもとへ。所詮自分方向への引き寄せしか使えないのだろう。後ろに戻ることも、右へ左へ揺さぶることもできはしない。
「クスニク!!力を解除して!!」
「チッ・・!!」
途端に速度が落ちたが、もう遅い。
「足場に使わせてもらうぞ!!いいな!?」
「どんとこいぃ!!・・・わぷっ!?」
ミウを蹴って距離を稼ぎ、敵を眼前に捉える。手に持つ剣を下段に構え・・・。
「刀 ・ 迅断 ・
ガギイイイイイイィィィン!!!
やっと前衛が、後衛の首元までたどり着いた。
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