二章十五話 「何も知らない」
木々の中を走り回るものがいる。それは剣を一本携えて、ただ一つの目標のため走り続ける。走り続けているのに息を切らすことはなく、衝動だけが体を突き動かしている。そう、そこには
非常にメカメカしいロボがいた。・・・・誰だお前。
「ギヨッギヨッギヨッ!!
見える位置にいるのはいつぞやの魚人。でかい斧で木々を伐採しながら何かを探している。ロボは視界に入っていないようで、探している目的こそこのロボだろう。
ロボはすでにボロボロで、左腕が破壊されていた。煙が噴き出しており、液体のようなものも漏れている。ここまで自分を強調していれば当然、見つかるわけで。
「あぁ~。そこにぃ~。いるだろぉ~ぉ。」
こちらもロボの行きたい道を塞いでいる人物、手がドロドロとして死にそうな声を出す老人。いや、老けて見えるだけで実は若いのかもしれない。それくらい、今にも溶けてしまいそう。
だが、ただの死にかけではない。
「ちんたらしてないでさっさと出せよぉ!!また逃げちまうだろぉ!?」
「わぁかってるよぉ~。うぷっ。」
次の瞬間、死にかけの口から紫色の液体が流れだした。徐々に出す量が増えていき、もはや体の体積を軽く超える液体を出している。
「ギヨッギヨッギヨッ!!今度こそ
魚人には、以前に会った時より増えているものがある。特別製の長靴と手袋だ。あれがあるからこそ毒のような水に足で浸かり、手を突っ込み、利用できる。
「
ズガン!!ドォン!!ドドォン!!
触れるだけでも一発終了なうえ、魚人の力により木々も壊す弾丸のように飛んでくる。隠れ続けるわけにもいかず、たまらず飛び出すロボ。使用した木は、根元を残して抉れていた。
「だからぁ~。毒じゃないってぇ~。」
「魚う(強)情だな!!お前の手みたいに、触れたら溶けるようなやつを毒っていうんだよぉ!!」
目的地はあいつらの後ろにある。強行突破して進むしかない。ロボは一直線に走り出す。
「つうか。お前のような変な奴が現れたから、
巨大な斧がロボに迫りかかった。剣で受けるが、力が強くて受けきれない。
ガキン!バガアアァァン!!
流そうとするも、力で押し切られて残った右腕さえも叩き切られる。毒水に触れたことで、足裏が溶けてきている。時間がない。無視して突破する。
「
ズガン!!
「おぉ~。?」
毒水弾で体が撃ち抜かれる。それでも直進するため、ちょうど足元にいた死にかけを足場にして勢いをつけて走った。
「待ぁてぇやああぁ~~!!!」
二人して移動が弱いため、あっという間に姿を見失う。敵兵どころか人一人いないところを走り続ける。目的地は近いはずだ。守備がいないとも限らないが、幸いにも疲れない体。足を使って全力で相手をするまで。
しばらく走ると何かが見えてきた。キャンプ地点だ。あそこでやるべきことがある。時間がない。急いで行動しなければ。
「・・・随分急いでいるようだな。」
小柄な男が現れた。黒で包まれた眼鏡の男。見たところ守備には彼しかいないため、遠慮はなしに蹴り飛ばそうと飛び掛かる。
当てる直前で止められた。一寸さえ動くことができない。さらに体が締め付けられている。
「無駄だ。貴様のような小僧が何をしようと、状況が変わりなどしない。精々潰れて」
ガッ・・!ギギギギギガギギギバキバキィ・・・ジ・ガガッ!!
「惑っていろ・・・!」
ガラララララララ!!
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「・・・・グッ!?・・・ハァ、、ハァ、、、。」
目が覚めるとそこは研究所だ。作戦会議にも用いた、都市の地下にある空間。そこの扉に入った先にある一室にいた。
「駄目じゃったか。悪いなぁ。旧作には、お前ほどの強さを持つ機械はなかったんじゃ。」
慣れ親しんだケッテツの顔が映りこんだ。先ほどのロボに意識を埋め込み、死の危険性を感じることなく戦闘ができるという、画期的な発想と開発をした張本人だ。
「・・・・いや、いい。あそこまで苦戦する敵が現れると想像できなかった俺が悪い。」
本来であればアメルを救出した後、即意識を遮断して都市防衛戦に混ざるはずだった。それだけなら痛みがなく、腕や足がもげても走ることができる機械の方がいいと、俺が判断した。
「・・・・そうだ。防衛の方はどうなってる?俺がもう一回行けるほどの余裕はないか?」
「・・・・・・」
ケッテツが気まずそうに目を逸らす。
「・・・・おい。・・・おい!答えろ!!防衛戦はどうなってんだ!?」
「・・・・・」
反射的に胸ぐらを掴み、問いかける。言おうとするも勇気が必要であるかのように溜めている。
「あいつらが・・・!信縁の旗が、サリートがいるはずだろ!?ここまで時間が経てばシュガードのやつも来るはずだ!!そう簡単に・・・・負けるはず・・・・ない、だろ?」
「・・・・トウガ。実はな」
立てかけていた剣を持ち、地上に走り向かう。
「待て!!トウガ!!」
地下の構造は狭いため、すぐにケッテツの声が聞こえなくなる。クッションの上に立てばエスカレーター式に上へと運んでくれるため、数秒で地上についた。
「・・・・なんだ、、これ。」
もうすでに都市の中央付近まで煙が立っていた。破壊音や悲鳴、叫び声や怒号で満ち溢れている。それはトウガの想像以上であり、絶望を意味していた。
中央へ、向かった先は公園だ。植えられた木は倒され、草は踏み荒らされ、死体がところどころに放置されている。まだ襲われて時間が経っていないため、敵兵の数人が破壊を行っていた。
「ぐっ・・・・オオオオオオオォォォ!!!」
「な、なんだ!?まだ諦めの悪い冒険者がいたのか!?」
切り伏せようとするも、同じく剣で抵抗される。こんな雑魚に構っている暇はない。
「くぅ・・・!!お前らこっち来い!!数で押すぞ!!」
「刀 ・
ザン、ザザザザザザザザザザザン!!!
手数により人数差を無視し、一斉に切り捨てる。雑魚兵には見えないほど速い剣技だが、それゆえに力が弱いので、こういう場や牽制などでしか使えない。
約十人を切り捨て、周りを見渡す。どうやら子どもたちの姿はないようだ。
「言った通り逃げてくれたか。」
寄り道したため、急いで被害が大きく見えた西門の方へ走り出そうとした時、足元に一枚の紙が見えた。
無駄足踏んでいる場合ではないが、ふと気になり拾い上げる。
「・・・・・・・・」
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西門はより一層ひどく、人の山で足元が見えなくなるほど。敵兵は散らばっているため姿はなく、生存者が少しはいるらしい。
入口に近いところに見知った顔がいた。
「ラキ。」
「トウ、ガ・・・?」
黄色の髪をした女性が、青髪の女性の頭を膝にのせて座り込んでいた。その顔には、いつもの覇気はまるでない。
「ご、、。ごめんね。トウガを、街を助けるために駆け付けたのにさ。私、何もできなかった。トッカも・・・フィーオも。みんな死んじゃった・・・。私の、目の前で・・・・!」
我慢していた涙が、知り合いのトウガが現れたことにより、事実を話したことにより決壊してしまう。
「ごめんなさい・・・!私が。私がもっと早く気づいていれば、こんなことに・・・。」
ラキだけが知っている。敵があまりにも強大で、そんなことは無理だったと知っている。
「ごめん、なさい!!私が!!わたしがもっと!体力管理に気を付けていれば!!!みんなの話を聞いていれば!!こんな・・・ことに・・・・。」
知っている。それを実行していたとしても、魔法障壁が破壊される時間と運命は変わらず、精々がシャドウを少し簡単に倒せただけだと。ラキだけが知っている。
ただ静かに、門の外へと歩き出すトウガ。彼は、悲しみ嘆く人を慰める言葉を知らない。救う方法も知らない。
「トウガ・・・?」
何の感情もなく呼び止めようとする。知り合いの彼が側にいることで、少しでも気を落ち着かせたいのだろう。だが
「休んでろ。・・・俺は、まだやるべきことがある。」
仇討ちなど性に合わない。だが自分の良心が、知り合いにはもう、こんな顔をさせたくないと叫んでしまっている。見たくないと思ってしまっている。だからこそ、やるべきことをやる。
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「ギヨッギヨッギヨッ!!今度はなんだぁ!?
今度は二人にとって、知った顔が現れた。緑肌白髪の、昨日自分を切り捨てた張本人。
「ん~。どぉしたのぉ~。」
「おい。あの餓鬼だけは殺るぞ・・・!毒を吐け!!!」
毒じゃないと文句を言いつつ液体を吐く。例によって徐々に量が増していく。
「
ガキイィン!!
飛んでくる毒水弾を受け流す。距離を詰めればこちらのものだ。毒水に触れぬよう、力を込めて跳躍する。魚人の斧を剣で受け、戦闘が開始される。
「オオ"オおオ"オォォォォ!!!!」
こんな雑魚に構っている暇はない。
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