二章十二話 「信縁の旗 vs シャドウ」
ただ一つの門に軍勢が殺到した。人の波にのまれて踏みつぶされた者もいれば、後方に待機することにより難を逃れた者もいる。そんなこともお構いなしに、本来は大きく気高い門も小さな入口と化していた。
愚直に一か所へと集まった。
ドオオオオオォォン!!
爆発音のようななにかが響き渡った瞬間、血や地面、そして人そのものが空を舞う。元凶はこの場にいない。見渡しても見つからないことに焦る兵は、またしても何かに吹き飛ばされた。
「・・・!!今すぐ散らばれ!!事前に話した"脅威"が現れた!」
集団の頭、アテンドスの命令により速やかに散らばっていく。それでも爆発音は続くも、その被害は確実に減っていた。
「見えているぞ。深核(みかく)の五身こと、冒険者ギルドの現ギルド長が一人"シュガード"!!」
そこは目視できるギリギリの遠方。厚化粧の巨漢が、見劣りしない銃を構えて立つ。あれこそが侵略するにあたって一番の脅威である存在、元A級冒険者"シュガード"だ。
「・・・ガキンチョどもおぉ!!!私たちの冒険者魂。見せつけてやりなさい!!!」
オ"オオオ"オオオオ"オォォォォォ!!!!!!
拮抗はしない。だが、人不足であるにもかかわらず百を超える軍勢が集まった。数十人に足止めを食らっていた勢力は、奇襲が失敗に終わったことを悟り、明らかに勢いが落ちていた。
「気押される必要はない。私の力を見せたはずだ。恐れず壊せ!!」
戦争が始まった。
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「トッカ!ラキ!無事ですか!?」
潰れる寸前から生還し、同じく息のある仲間二人へとフィーオは声をかける。
「無事・・・だけど、前線にいた人たちは、、」
ちょうど交代による休憩の時間で、後方に待機していた信縁の旗三人は生き残っていた。だが、押しつぶされる瞬間を見るには、適当な位置であったことは明白だ。
「僕も怪我はない。だがここは最前線!疲労の溜まった僕たちがいれば邪魔になるだろう。すぐにここから」
「必技・両掌底(りょうしょうてい)!!」
「う、くっ!?」 「きゃあ!?」
トッカの左右にいた女性二人が、掌から放たれた衝撃波に吹き飛ばされる。目の前にいる男は、技による吹き飛ばしで散々苦しめてきた武闘家だ。
咄嗟に剣を振るも空を切る。身をよじって避けたのちに避難していた。
「わざわざ僕たちを狙いに来るなんて、随分と趣味が悪いようだ。」
「疲弊した兵を積極的に殺すことがそんなに変か?分かりやすい風体ゆえに、狙い易くてな。」
飛ばされた二人は肩で息をしながらも起き上がり、杖を構える。フィーオは傷を癒し、ラキは杖に雷を纏う。
トッカもしっかりと剣を持ち構え、シャドウも戦闘態勢に入った。
双方動き出す。
放たれた魔法を前進して避け、距離を詰めてくる。だが、その拳は放ってこない。未だ進む先があるようで、目標は後方二人だ。
「炎魔法。火壁(かへき)。」
その進行は許さない。燃える火柱が連なり、壁として武闘家の前を塞ぐ。トッカは守り専門ではないため、壁は薄くカーテンのようである。なので、シャドウが止まることも退くこともない。
熱さを気にせず壁を拳で叩き壊す。気休めのクッションにしかならないが、問題ない。本命は得物だ。
「火剣!!天滅(てんめつ)!!」
ゴオオオオォォ
燃えあがる剣を拳に合わせて振り切る。わずかにかすったが、反応が間に合ってしまった。後退しようとするシャドウだが、その道に小さな雷が落とされる。
「雷魔法・必逓(ひってい)!!」
直接飛んでくる魔法を避けてしまうシャドウは、次第に追い詰められる。下がろうとするも邪魔をされ、避けようにも態勢が苦しいものとなり。
「ぐっ・・おぉ・・!!」
甘んじて数発受ける。そして安定した姿勢を取り戻すとともに、トッカへ向けて遂に殴り込みに来た。
ガアァン!!
剣で対応しようとするも、瞬時に握りこぶしを開き、剣の横腹へ衝撃を加えられたことによりのけぞり、わき腹に掌底を食らってしまう。
「ごふっ・・ぅおおお!」
負けじと抵抗を続ける。先の衝撃を経験したことにより多少は様になっているが、手数が圧倒的に違う。向こうは速さが売りの徒手空拳に対し、こちらは剣、それどころか普通よりも大きめの大剣であるため、状況的には不利だ。
「うぐ・・!・・・ぐほぁっ!?・・・ハァ、ハァ」
ラキが加勢を試みるもトッカに当たる可能性があり、手数が出せない。見かねたフィーオが簡易な魔法障壁で防御をするも、即座に対応されて回り込まれてしまう。
疲労が溜まりすぎた。一時間にも満たないとはいえ、十倍以上ある軍勢と神経をすり減らして戦ってきたのだ。普段であればここまでの苦戦はないかもしれない。痛みにより頭が回らない。
「そんな武器を持っている時点で、懐に入れた貴様の"詰み"だ。多少名のある実力者なのだろうが、相性の不利有利は絶対に覆ん!!諦めてはどうだ?」
スピードの上がる連撃に対応できる武器もない。頼みの綱である魔法役も体力切れときた。勝ちを確信したシャドウは、留めの作業に入る。
体に突き出される片腕。だが普段の掌底や発勁ではなく、五指を突き刺すかのように曲げる。優しく触れた瞬間、その手から肩にかけて血管が浮き出る。
「応技!!五弾発勁!!!」
ゴオオオオォォ!!
「「トッカ!!!」」
巻き起こる衝撃波がゴミを舞い上げる。五指すべてから、普段の発勁の威力を出して単純に五倍。大きすぎる威力を抑えるためにもう片方の腕で支える。
その力は本物であり、トッカの意識は確実に剥ぎとっ
「詰みだと・・・・言ったな・・・・・。」
口から血を流し、今にも倒れそうな表情で。ただ真っすぐに光を失わない。
「なぜ、、意識を、、、」
「ダンジョンでは、、、、、日常茶飯事さ。・・・・魔法を撃てば骨が折れ・・・・・剣を振れば脳が痛む。そういうところを、、巡ってきた。」
戸惑うシャドウは一旦態勢を立て直し、もう一度叩き込んでやろうとするも、
腕をつかまれた。普段から大剣を振っている男の、敵が逃れられぬほどの強さで。
「簡単な職だと思ったか?・・・・遊びほうけるだけだとでも思ったか?」
「ぐうっ!?放せ!!所詮B級なりたての雑魚があ!!」
「"詰み"こそ冒険の基本なり!!それを何度も乗り越えて、"生きる"ことこそ!!」
持ち上げるだけでやっとの体力で、両手に力を込める。大剣に纏う炎は、流れる汗を甘美なものとして映す。
「"冒険者の本懐"なり!!!!」
ザアァン!!ゴオオオオオォォォ!!!
「火剣!!騰火(とうか)天滅(てんめつ)!!!」
「ぐぅあアアあ"アあ"ァァぁァ!!?」
一撃目で燃えあがりひるんだ体を置き去りに、今度こそ両手で大剣を握りしめた。そして渾身の一撃。勢いの強さで火は消えたものの、その後に襲った大火力でシャドウは地に伏した。
「トッカ!!大丈夫!?」
ことの終わりを見届けた二人が、心配の表情全開で寄ってきた。大丈夫だとなだめた後、倒れたシャドウに向き直る。
「・・・君の顔は、何度か見たことがある。元C級冒険者、"掌底のケイツ"。数か月前に行方不明になったはずだが、、一体、何があった。」
「・・・・・」
返事はこない。当たり前だ。手加減などするつもりはなく、殺すつもりで切ったのだ。彼がどのような人生を歩んで、結果都市を滅ぼそうとしたのかはわからない。
「安寧なる眠りを・・・。」
元同業者である彼に、お疲れ様の一言を送りたい。きっと彼も、冒険や人助けに心揺られた一人の人間であったのだから。
「・・・トッカ。行きましょう。前線にいれば巻き込まれてしまう。私たちは消耗しすぎた。」
外野からは剣さいの音や、魔法などが着弾する音で溢れている。この中で自分たちが休むのは気が引けるが、言っている場合ではない。
一般人が傷つかず、援軍が間に合った。東門の防衛戦は、完璧とは行かなくとも、勝利条件を満たすことはできたのだ。
「みんな、今日はお疲れ様!まだ終わりではないけど、一旦帰ろう。」
痛みが感じなくなるほどに疲労が溜まった。血が目の前に飛び、視界を埋め尽くすこんな戦場からは、一刻も早く引かなければ・・・・・
「フィーオ・・・?トッカ・・・?」
その気配に気づかず、巨漢のオーガに腹を貫かれた。
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