二章二話 「炎天下」
木が生い茂り始めた。荷物となった魚人たちを何度もぶつけながら進むので、進行速度が遅くなるのはもちろん、体力までも奪われていく。
「・・・写し絵」
「エルフ」
「封筒」
「・・・・・写ってる絵」
「バカ、反則だよ。」
暇すぎてしりとりまで始めてしまう始末。ここまで時間がかかると、道を間違えているのではないかと勘繰ってしまう。俺の"う"攻めに苦しむトウガも、テンションが落ちてきた。日の照らす真夏日、迷って引っ張って汗かいてもはや正常な判断はできていない。
「もうそろそろ休もう。日陰はこいつらでできる。」
「そうだなぁ。マジで暑い!幸い水はまだあるし、ゆっくり行けばいいよな。・・・冷えてるかは知らんけど。」
前に休憩して30分も経ってないはずだが、もはや言う気力もない。サリートもそんなことはわかっていて、一刻も早く休憩したいのは満場一致なのだから。
すでに気絶から覚めている魚人たちも、日差しにさらされていて動く気力がない。怪我もあるため、疲れていてもまた縛れる自信はあるが動かないに越したことはないので感謝している。
木々で幾分か遮られているが、間から差し込む日光は少しでもその身に効いてしまうので魚人たちで埋め尽くす。その陰で座り込み、持ってきた水筒を開けて水をたくさん口に含んだ。
「にしても暑すぎないかね?昨日まではここまでじゃなかったぞ。」
「あぁ、暑くなりすぎてギルド内の冒険者はおろか、職員まで気が滅入っていた。異変には違いない。」
さすがに汗は流れ出る。それでも冷静さを崩さないサリートは、ある種の格好良さがある。
休憩に入れば、自然と他愛のない話がしたくなるもの。トウガは今日の出来事を話し始めた。
「とち狂った職員が、じいさんに"ホストクラブはあちらです。"なんて言って教会案内してたな。煩悩とは真逆の場所だろあそこ。」
「あ~言ってた。ハッとした職員が中に向かおうとしたおじいさんを必死で引き留めてたな。謝り倒してた。・・・・・おじいさんがホストクラブ?」
冷静に考えたら何かおかしい。あの時は普通に納得して見てたが、俺らもすでに暑さにやられていたのだろうか。まぁ、そういう人もいるのだろう。
「そんなことより、さっきは二人ともすごかったなぁ。トウガはあんな巨体の膂力をものともしてなかったし、サリートとは今日初対面だけど、斥候に戦闘までこなしてて全能だとさえ思ったわ。」
「そんなことはない。アメルも冒険者になって一か月と言うじゃないか。それでそこまで動ければ十分な素質がある。本音を言えば・・・舐めていた。」
そりゃしょうがない。と相槌する。初心者と合同で依頼をやりなさいなんて言われれば警戒して当然だ。世の中には報酬欲しさで高難易度に挑戦し命を落とす初心者が大勢いると聞く。そして得物は短剣一本と来たもんだ。人の心を持っていれば心配しないわけがない。
ここでトウガが口を開く。
「・・・俺から提案があるんだけどよ。サリートとはもうそういう話はしたんだが、、」
俺に向けられている。すでに知っているらしいサリートは無言で休み続ける。
「俺らで冒険者チーム作らねぇか?アメルも同じD級になったことだし、悪い話じゃねぇと思うんだ。」
冒険者チーム。信縁の旗のように、冒険者同士で徒党を組んで今のように合同で依頼をこなす。人一人には限界がある。危険度の高い依頼こそこのような対策が必要であり、討伐や救助が増えていく中でチームを組むのが当然であるとまでされている。
「冒険者チーム。。いいじゃん!チーム!俺も賛成だ!」
「だろ!?そんでもってサリートは会ってすらいないから、見極めたいって言ったんだ。だから今回の合同依頼ってわけ。・・・サリート。こいつなら十分だろ?」
どうやら俺は見極められていたようだ。高評価を貰ってはいるだろうが、それでも成果としては一番少ない。これから仲間になるということは背中を預ける存在になるということ。ストイックに切り捨てられても納得できてしまう。
「・・・あぁ。十分だ。力に振り回されている節はあるが、それは伸びしろがあるという証拠。それに、、まだ手の内を隠してそうだからな。」
冷静に分析されている。確かに全力を出せと言われれば俊敏上昇に腕力上昇、硬化上昇すべてを出し切ることができる。制御できるかは別として。だが、お眼鏡にはかなったようだ。
「ありがとう!・・・それならさ、チーム名必要だろ?有名になるのにも名前って大事だからな!」
信縁の旗以外のチーム名もいくつか見てきた。~の~がやはり一番多く感じたが、特に一貫性はなさそうである。本名&本名&本名みたいな奇をてらったものもあるが、できればシンプルにしたい。
「金銀銅で"メタルーズ"でどうだ?」
「却下。」
奇をてらいたくない。言うほどサリートの髪色は銅でもないし。
「シンプルに"討伐隊"でいいだろう。」
「シンプルすぎるだろ!いざ討伐隊に参加したらどうするんだ!?討伐隊の討伐隊って言うのか!?」
シンプルでいいとは思ったが、シンプル過ぎても個性がないと思われる。なんならそれは奇をてらっているんじゃないか?
「名前の頭文字とって"トサア"ならいいだろ!?」
「よくないだろ!?なんだそれ誇張した効果音か!?軽めのもの落として「トサアァ・・・」ってか?やかましいわ!!」
さっきからトウガのネーミングセンスが皆無すぎる。万人に言う名前なんだから技名で使ってるリソースをもうちょっと使ってほしい。
「"馬の耳に念仏"」
「・・・今のチーム名!?工夫もへったくれもねぇな!!」
誰もまじめに考える気がない。暑さでやられてるだけなのか。まぁ、今すぐ考えることでもないためこの話題は置いておくことにする。
「・・・あー。頭痛くなってこないか?暑さで。」
「あぁ。視界もぼやけてはきたが、休憩して少しはましになった。」
「ここまで歩いたんだ。もう少しの辛抱。そろそろ出発するか!」
「水筒の中身はあるか?ないのであればその先に川があったはずだ。汲むといい。」
「お、ありがとな。だけどまだ半分以上あるから大丈夫だ。・・・いや、一応汲んでおくか?」
「・・・・」
「アメル?チーム名なら帰ってから考えるよ。まずは帰ろう。」
・・・・・
「・・・アメル?」
「動くな。トウガ。」
「サリート?どうしたんだ。急がねぇと日が」
「アメルが交戦中だ。こちらには気づいていない。察知されるなよ。」
「・・・は?」
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