第二章 南西の都市"エトカルディス" ~戦争編~

二章一話 「計画は実行しなければ意味がない」



 日記



 冒険者として活動し、一カ月が経った。E級からのスタートで、白色の丸板身分証を貰うことができた。初めは野草摂りに介護、家事手伝いなどの危険度ゼロの依頼しか受けることができなかったが、数日前に昇格試験を受け・・・見事、D級への進級を果たす。試験といえど、軽く知識を問われたりスポーツテストを行うだけの簡単なものだった。



 D級へ上がって初の救助依頼は、高所へ上ってしまった子どもの救出。討伐依頼は害虫駆除や小さな獣一匹と、今までの危険度+1程度のもの。食べていけるわけもなく、依頼終了後にトウガと合流し奢ってもらったり、そこらの獣を焼いたり、飲食店の接客業も行って生計を立てている。トウガに金を借りてる場面が多く感じたが、実際は2,3万なので案外すぐに返すことができるだろう。



 ならもっと高難易度を受けろって?無理無理。D級冒険者の数が多すぎて、依頼が張り出されたと思ったらものの数秒でもぬけの殻なのだ。悠々と選別するC級以上を見て恨めしくなるも、彼らも同じ経験を何倍もしたのかと考えればどうしようもない。



 ただ邪縁の森と比べれば生活レベルは格段に上がり、毎日浴場へ行ったり甘味も味わえたりと至れり尽くせりの日々。エトシアには徒手空拳を教え込まれたため武器の扱いは慣れていないが、短剣一本あると便利との情報により、軽い装備とともに中古で買った。




 という感じで、順調に馴染んではいる。三日に一日単位で日記をつけていたが、そろそろ面倒くさいのでやめようと思う。





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 ここは森の一部。地面が若干湿っているここで、初の合同依頼。メンバーは頬のやけど痕がポイントの金髪少年"アメル"と、緑の肌に白銀の髪をした小鬼ゴブリン、"トウガ"。そしてもう一人いた。




 「罠の確認は済んだ。愚直に通れば音の鳴る仕掛けがあったが、知能は低いようだな。解除済みだ。」




 木の陰で報告を済ます同じくらいの背丈の少年は薄い迷彩服を着ており、モコモコのマフラーで鼻から下を覆い隠す。耳さえ隠れていて目から上、レッドブラウンの髪は見えていた。




 「おし!でかした!暴れまくってやるぜ。」



 剣のつかを握り今にもさやから剣を抜き出したいトウガは、それでもしっかりと機をうかがう。





 「おいおい。思い切って滑らせた~なんてやめてくれよ。目的はあくまで生け捕りなんだ。」



 「大丈夫。わかってる。剣の扱い初心者の方が俺は不安だがな。」




 そう、実は短剣を買ってまだ十回も使用していないのだ。扱い方など知らずただ振るのみ。殺して終わりならまだ楽な方だが、こと今回はそうはいかない。なぜなら




 「目標は魚の亜人。ならず者通しで徒党を組み、近辺を荒らしていた。今になって捕縛依頼が出たのは、まぁ噂が発端だな。頻度が減った代わりによくない行動が示唆された。」



 「よくない行動?」




 「都市、"エトカルディス"の破滅。その計画への加担だ。」



 すでに情報を取得済みの迷彩男は、今回の依頼内容を簡潔に説明した。相手は獣や虫ではなく"人"なのだと。ゆえに殺しは控え、噂の全容を聞き出す方向で行くのだそうだ。なにやら壮大なようだが、ただのチンピラ退治ってやつである。所詮D級ですから。




 「あの個体が水辺を離れたら一斉に行くぞ。俺とアメルは周りを蹴散らす。トウガはふんぞり返るボスを沈めて来い。」




 魚の顔をして鱗付きの体、手足が生えた彼らを魚の亜人、通称魚人と言い、見たところ20人前後がこの湿地にいるようだ。それらで一番近い魚人が池で水分補給を済ませており、離れた瞬間を合図とするらしい。



 短剣を鞘から抜き、自分の体に俊敏上昇初級をかけておく。呼吸を整え臨戦態勢に入る。黄昏ているのか、なかなか魚人は離れようとしない。焦りが出そうなところで動きを見せ、




 合図が出た。




 「サンダーボール!!」


 「樹印ヴームマーク。流星月下。」


 


 電気がバリバリとうなるものを一人に放ち、もう一人の急所を避けて短剣を差し込む。視界の端では手裏剣が縦横無尽に駆け回っており、間を縫うようにトウガが突っ込む。



 「なにギョとだ!?音もなかったぞぉ!?」




 一回り二回り巨漢の魚人はどっかりと座った重い腰を上げ、その体ほど大きい斧を拾う。直進してくる剣士に迎え撃つように斧を振りかぶり、唸り声を上げつつ遠慮なく叩き込む。





 「刀 ・ 迅断じんだん ・ 馬閃墜期ばせんおとしご!!」



 ガギイイイイイィィィィィン!!!!




 体格の倍以上ある斧を剣一本で受け止めた。その力はとんでもないが、本人はとどめのつもりだったため、不服から舌打ちがでる。



 「ギヨッ!ギヨッ!ギヨッ!うおの斧は重かろう!?お前のような脆弱な肉体を持った力自慢など、いくつもこれで潰してきた!!ギョミに過ぎぬのだぁ!!」





 8人ほど縛り上げると、周りにほぼ残党は残っていなかった。変わった笑い声と喋り方が聞こえた方では、まだ鍔迫り合いは終わっていない。手助けに向かうか迷いもしたが、迷彩少年が静かに見守っていた。




 彼は昔からトウガの友であり、一か月間は用事で出張だったらしい。その名を




 「サリート。怪我はないか?俺は何か挟まったと思って靴脱魚ギョうとしたらすっころんで擦りむいた。」



 「引っ張られてるぞ。あと単純にダサい怪我をしたな。気をつけろ。」




 10人強をすでに捕えていたサリートは、友の強さを理解しているのか、心配のそぶりも見せない。直接ぶつかり合った俺もあいつの強さはよく知っている。




 「なんだぁ!?恐ろしくて声も出ないか!!命知らずのバカ野郎がぁ!!・・・ムッ、にしてはなかなか押し切れんな。なんなら、ものすギョく押されているような?」




 「・・・・あっ。悪い。考え事しちまった。たまにあるよな、集中してたはずなのに急に別のこと考えちまうの。気を付けねぇと。で、なんか言ったか?」



 ボーっと虚を見てたトウガがふと気づく。その顔は余裕そのものであり、巨漢魚人の神経を逆なでた。




 「ガアアアアァァ!!なめ腐りやがってぇ!!このゴミやろ・・・ギョミ野郎がぁぁ!!!」



 「普通に、言えてんじゃねえかあぁ!!」




 剣をそらして斧の軌道を変え、大きな図体を力任せに叩き切る。赤い鮮血が舞った後、声もなく地面に倒れ伏した。その場のノリで攻撃したトウガはやり過ぎたかと心配になるも、しぶとく息が残っていたため、縛り上げて依頼完遂である。





 「お疲れ~!サクッと終われてよかったな!・・・え、これ全部街まで引っ張るの?」



 依頼完遂までにはもうひと仕事あるようで、縛り上げた魚人20人強と巨漢をまとめて引っ張っていかなければならない。本当なら馬車持ちに頼むのだが、すっかり頭から抜けていた。サリートも考え忘れていたようで、勝ったのにお通夜ムードだ。




 「ま、、まぁ、何とかなるだろ!自分の倒したやつらをそれぞれ引っ張って・・・。」



 「「お前だけ楽しようとすんな。」」



 この中で俺が一番総重量が少ないのを利用しようとしたが、うまくいかなかった。結局均等に分けることになったが、




 「・・・心なしか俺重くないか?」



 「楽しようとした罰だよ。いや~決め手を勝手にくれてよかったぜ!誰かがその巨体を持ってかなきゃいけないからな。」




 ちくしょう。





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