一章一話 「覚えている」
ーーーあっさりとした蹂躙であった
都会とは言えないが、そこは確かに栄えていた。道は整備され、周りには建造物があり、モノを売る商人に買う住人の声が、確かにそこにあった。
・・・あったはずだ。
見渡す限りの異空間。もともとそこにあった家屋は丸ごとなく、目を凝らせば木材の破片が散らばっている。国がいくつか滅ぼされているとは聞いていた。名のある手練れが討たれていることも知っていた。
だが、ここには来ないと思っていた。大人が心配の声を日々挙げている中で自分は何をしていた?
「・・・なにもできていなかったな。」
黒いフードを被った男と対面している自分は、無様にもおもちゃのシャベルを右手に持ち立ちすくんでいる。
「"力"が欲しいか?街を滅ぼした、本人から・・・。」
わかっている。何もできない。でも何かしたいと、何かしたかったとそう思って。シャベルの手持ち部分を両手で握りしめて顔の前に突き出すように構える。緑色をした弱弱しい手に力を込めて。目の前の男に向けて、
目の前の魔王に向けてーーー
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時々、過去が脳内に呼び起こされる。魔王に故郷を壊された過去。
息を切らして茂みの中を歩く人影があった。体躯は人間では16,7歳付近の白髪の少年。少しぼろい薄着を着ている彼の肌は緑がかっている。首には花の絵があしらわれた丸い銅板を下げており、それ以外の持ち物はない。
「ハァ、、、ハァ、、、くそっ!!見誤った。大失敗だ。」
剣も服も、そして体内も何者かに蝕まれていた。使い物にならない安い剣はすでに捨てた。
ふらふらと蛇行しながらも前に進む少年は、そこら中に生えている木の一本に両手をついて休憩の姿勢をとろうとするも
「・・・ッ!?痛ってぇ!?・・・ったく、注意力もなくなってきやがった。」
左手に毛虫のような虫がピンポイントに刺さってしまい、今の自分がどれほど冷静さを欠いているか理解するも、そう簡単に落ち着けるものでもない。
ーーーまだ覚えているーーー
一度開けた場所に出ようと試み、ただまっすぐ突き進む。運のいいことにすぐ近くにそれらしき場所があるようだ。
日の光が直接目に届き、急いでその目を慣らしていくと草の生い茂る中心に2人、人がいる。
ーーー忘れたくても忘れることができないーーー
一人は長身の女性だ。頭部に2本の歪な角が生えており、片方は半ばから破壊されたように折れている。露出は少ないが妖艶な雰囲気を纏い、それでいて殴り合ってもかなわない強者の風体がうかがえる。
ーーー己への未練ーーー
もう一人の顔はいたって平凡で、なよなよしい金髪の少年。体躯は自分と同じような
ーーー俺はこの顔を覚えている。ーーー
「ガアアアアアアァ!!!!」
その姿を互いにとらえた瞬間、白髪緑肌の少年は金髪の少年へ向けてそのこぶしを振り下ろす。普段であれば見惚れるやもしれない女性はすでに眼中にない。
突然襲われた少年はうわぁ!?と情けない声を上げるも直撃を回避する。いや、回避させられた。服の後ろを引っ張られて宙を舞い、木で作られた高台へと引き上げられる。引き上げたのは角のある女性だ。
数メートルの高さのその高台は目に移っておらず、上に放り投げられたターゲットを見て初めてそれを視認し、なおも雄たけびをあげて直進するも、
「があぁ!?」
先ほどと同じ種類の毛虫が10匹、背の高い草むらから飛び出してきた。天然トラップだ。大した痛みではないと振りほどきなおも進軍する。横から丸太が飛んだり、浅めの落とし穴に落とされたり等の罠が次々と襲い来る。冷静さを欠く今の彼では頭が回らず、
「まじめにやりやがれぇ!!」
奇襲を仕掛けた自分が言うことではないと気づくこともできずにただ本能で進む。その瞬間に、金髪の少年に異変が起きた。
「・・・んぁ?・・・えっ?な、なんだこの状況おぉ!?」
あまりにも反応が遅い。だが細事だ。足を止める理由にはならない。
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