消えた記憶とまた巡り合う恋
ぺんなす
第1話
……一人。また、一人。窓から目をそらす。
隣にいてほしい人のいないベッドの上。また、一人。もう、嫌なのに。
「ちょっと、起きてるなら早く朝ごはん食べてよね」
ドアが開く。あの子がいる。朝に見えるお月様。あぁ、うれしい。
「おはよう、うん。行くよ、今」
朝ごはんを食べる。美味しい。続けばいい、ずっと毎日。
照らしてくれる光があるから、怖くない。怖くない…はずなのに、不安になるのは──。
「ぼーっとしてるけど、朝練行かなくていいの?」
「あ。行かなきゃ。忘れてた」
「行ってらっしゃい」
「行ってきます。うん」
手を振って外に出る。また後で会うのに寂しい。学校では、ほとんど喋らないから。
学校に着いて着替えてグラウンドに行く。
「叶人!おはよう!」
「おはよう。夕弥」
同じサッカー部。友達、俺の。サッカーが上手い。俺も上手いって言ってくれる。いい奴。
「叶人!今のシュートすげぇ良かったぞ!」
「ありがと。うん」
ふと、視界にあの子が入る。校舎に向かう途中の。気づいてくれるかな。
「叶人?」
「もう一回、夕弥」
「おう!」
ふと、グラウンドが視界に入る。確かサッカー部の練習まだしてるはず。気まぐれで立ち止まってみる。あ、いた。……なんだ、ちゃんとできてるじゃん。かっこいいなんて言ってあげないから。
「叶人、今のトラップ超すげぇー!」
見てたかな、うん。見てたきっと。かっこいいって、言って。いつか。もうあの子のいない場所に心を奪われた気がして、練習は終わる。着替えて教室に行く。授業は眠い。友達と話してるあの子の後ろ姿をじっと見つめる。羨ましい。俺も会話したい。ずっと見てたら怒られそうで、外を見る。蒼、空。いい天気ってやつ、これが。空を見てるだけでお昼休み。
「叶人ー!お昼一緒に食おうぜ!」
「うん」
ひときわでかい声。名前を呼ぶ、俺の名を。本当は、あの子と一緒がいい。無理だからそれは、でも。
「なぁ叶人、今度の試合なんだけどさ」
サッカーの話に戻る。サッカーは好きだ。楽しいから。生きがいだから俺の。ないから、これしか。
「そういえばずっと気になってたんだけど、叶人のお弁当、毎日美味しそうだよなー。自分で作ってんの?」
「違う。…………作ってる、友達が」
「へー、いい奴だな!その友達!大切にしろよ!」
「うん」
する、大切に。存在意義だから、俺の。
消えた記憶とまた巡り合う恋 ぺんなす @feka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。消えた記憶とまた巡り合う恋の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます