カクマラソンすきま埋め日記

沢田和早

3月1日

 西暦2023年 3月1日


 先月は某コンビニで「盛り過ぎチャレンジ」なんてイベントが開催されていましたね。冷静に考えれば元の値段がそれほど安くもないので盛り過ぎだからといってたいしてお得でもないのですが、


 こーゆーイベントは大好き!


 な性格なので、全ての商品をゲットするつもりで開催初日の夕方にコンビニへ行きました。

 ガトーショコラ235円(税込み)は思ったよりも小さくて少々ガッカリ。


「1.5倍でこの程度なのか。定価なら買わないだろうなあ」


 とつぶやきながら購入し自宅で食べてみると高級感漂う味わいと濃厚さで200円超え納得のウマさでした。


 翌日は朝早くコンビニへ行き、おにぎり、焼きそばパン、ナポリタンを購入。一度に全部食べるのは絶対不可能な量なので、昼におにぎり、夕方にナポリタン、翌朝に焼きそばパンを食べてようやく始末できました。味はともかく量は堪能できました。


 次の週はロールケーキ。お値段は167円(税込み)とお手頃価格。楽しみにして夕方行ってみたら、


 すでに完売!


 仕方ありません。明日は買えるだろうとその日は何も買わずに帰宅。翌日の夕方行ってみると、


 やはり完売。


 結局ロールケーキは買えませんでした。人気のほどがうかがえますね。次の第3弾は普通のシュークリームだし、今回食べられなかった分も含めて大量に買って食べてやろうと月曜日の夕方行ってみたら、


 すでに完売!


 弁当やパンは朝行けばほぼ買えるし、昼まで残っていることもあるんですがスイーツは本当に入手が困難です。一応、3件ほど回ってみたのですが全て売り切れでした。


「こうなると是が非でも手に入れたい!」


 という情熱がムクムク湧き上がってきました。確実に入手するには商品が配送された直後を狙うしかありません。で、店員さんに仕入れの時刻を教えてもらい、祝日に店へ行くことにしました。


「まだ来てないようだな」


 スイーツの棚はカラッポですがその前には人が立っていました。明らかに仕入れ待ちです。その威風堂々とした姿は歴戦の猛者と呼ぶに相応しい風格が漂っていました。きっと第1弾が始まった時から毎日この店のこの時刻にこの場所で己の哲学を貫き通していたのでしょう。私のような新参者がその横に並ぶのはおこがまし過ぎるので外で待つことにしました。


「おっ、来た!」


 待つこと十数分、ついに配送車がやってきました。商品を入れた通い箱を台車に積んで店内に運んでいきます。一緒に中へ入ってみると、威風堂々さんの他に2名の同志が盛り過ぎシュークリームを待っていました。私を含めて4名です。


「みんな、考えることは同じだな」


 私もその横に並んで待つことにしました。しかし通い箱は店内に積まれたままで店員さんは一向に商品を並べようとしません。しかも狭い店内に4名も突っ立っていては他のお客様の邪魔になってしまいます。威風堂々さんは平然と待っていますが、小心者の私は居心地が悪くなってきました。同時に喉も渇いてきたのでマチカフェドリンクを買って外で待つことにしました。


「4人しかいないんだから少し遅れても買えるだろう」


 ドリンクを飲みながら待つこと数分、威風堂々さんが外に出てきました。ようやく商品を並べ終わり購入が可能になったようです。ドリンクを飲み干して入り口に向かおうとした時、


「ふっ……」


 威風堂々さんが憐れみを含んだ眼差しを私に向けました。なんとなくイヤな予感がします。急ぎ足で店内に入りスイーツの棚を見ると、


「な、ない!」


 そこにあるはずのシュークリームはひとつもありませんでした。代わりにもう見飽きてしまった「お詫びとお知らせ」のポップが立てられていました。並んで待っていた3人が全て購入してしまったのです。


「……終わった」


 私の盛り過ぎチャレンジはこの時点で終了しました。きっと店に納入される量が少ないのでしょう。威風堂々さんが持っていたレジ袋の大きさはせいぜい3個程度しか入っていない感じでしたから。


 自分の欲求を叶えるためにはなりり構っていてはいけないのでしょうね。威風堂々さんのように他人の視線をモノともせず己の道を突き進む、その覚悟が必要なのです。

 これは盛り過ぎに限りません。カクヨムコンテストだって読者選考突破のためには形振り構わず他の作者と触れ合い、馴れ合い、己を売りまくる覚悟が必要なのでしょう。それができなければ落伍者としての人生を歩むよりほかにありません。盛り過ぎシュークリームを手に入れられなかった私のように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る