第42話 ベリーパイが食べたい

 一日の大半を森で過ごし、屋敷に帰り付いた私は夕食をとって就寝自宅をする。

 お父様はこの屋敷に執事とシェフを手配してくれたし、私と一緒にアンナも残ってくれたから、生活には全く不自由していないわ。

 むしろ快適過ぎて、恵まれすぎじゃないの? と思うけれど、「彼らはプレセアの監視役として私が置くのだ」とお父様に言われちゃったら無碍にも出来ないしね。


「プレセア様。体調は崩れていませんか?」

「アンナは心配性ね。私なら大丈夫よ。」

「だってプレセア様、村に来てからずっと、昼食の時間にもおやつの時間も帰って来ないじゃないですか! 同行もさせてくれないし。」

「それはだって、使用人を連れ歩く平民なんていないでしょ。それに、やる事があるから昼食は屋敷でとらないと最初に決めたじゃない。あと、おやつを食べなくても人間は死なないのよ。」

「でも…主人を差し置いて私達だけ豪華な昼食を食べるなんて…」

「いいのいいの。私の我儘で皆に残って貰っちゃってるんだから。私の昼食分を、あなた達のランチ代に充ててって、頼んだのは私なんだし、遠慮せず美味しいものを食べて頂戴。」

「でも…」

「村に早く溶け込むためにも、昼食は村民と囲みたいのよ。だから本当に気にしないで。それに、アンナは私に何処までもついて来てくれるんでしょ?」

「勿論そのつもりです。」

「だったら、この先いつ食事がとれなくなるかも分からないのよ? 食べられる時に、美味しいごはんを沢山食べておいて欲しいわ。後から文句言われたら困るから。これ、命令ね。」


 きょとんとするアンナにウィンクを一つ返すと、アンナは少しだけ両の頬を緩ませた。


 部屋を去っていくアンナに「お休み」と告げてベッドに入る。

 

 腕時計を見るように腕にかかっているバングルを眺めると、目が合ったスズキさんがフルフルと首を振る。


「ティナ…まだ怒ってるのね………。」


 この村に残ることを決めてお父様達を見送った後、ティナにしばらく帰れない旨を伝えた所、「もうプレセアなんて知らない!!」と怒って、それから連絡をくれなくなっちゃったのよ。


「スズキさん。ティナは元気してる?」

「あぁ。いたって普通だな。今日はベリーパイをおやつに食べてゴキゲンだったぜ。」


 スズキさんは離れているファミリーと視界の共有が出来るから、話は出来なくてもティナの様子は教えてもらえる。


「いいなぁ、ベリーパイ。」

「な。チビどもも食ってた。俺も食いてぇ。」

「………そうよねぇ。」


 1人?1匹? だけ、私に付いてきちゃったばっかりに、目の前で皆がワイノワイノやってる様子を見るだけになっちゃってるんだもんねぇ。

 スズキさんは貧乏くじを引かされてるわよね。

 いつもお世話になりっぱなしだし、叶えられる事は叶えてあげたいわ。


 ベリー…確か森にも数種類あったけれど、数少ない商品だから貰えないわね。

 あ、でも、1種類、酸味が強すぎて鳥も食べない実ってのが、沢山実っていたわ。

 見た目は楕円形のブルーベリー…あ、前世のハスカップみたいな感じだったけど…あれ、食べられるかしら?


「ジャムやソースにして商品展開…それこそベリーパイにして、食用花を飾ったら素敵かも。でも、砂糖をふんだんに使うとなるとコストが掛かる。その分単価が上がってしまうから、何か代用品を………」


 ブツブツとつぶやきながら、出て来たアイディアを即座に紙に書き起こす。

 商品イメージのイラスト、制作コスト予想、販売価格………


 そんな事で頭がいっぱいになっていたから、ため息交じりにスズキさんが吐いた、「嬢ちゃんに期待しても無駄だよなぁ………」の声は全く耳に入らなかった。

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