第27話 やり直しの誕生日

 レオガディオ様が練りに練った『誕生日やり直しプラン』に口出ししまくって、今日はレオガディオ様のお家=お城でお茶会をすることにしてもらったわ。


 全面的に私の味方となったお父様が「プレセアの要求を一つでも飲まなければ即婚約破棄だ」なんて言うものだから、お供にルシアが同席する事も容易だった。

 ルシアのメイド服のポケットには、ティナとスズキさんが入っているの。

 予定通り皆で来られて良かったわ。

 あ、でも予定通りで無かったことが一つ…


「ねぇ、やっぱりこのドレス大人っぽすぎない?」

「大丈夫ですよ。プレセア様は大人びたお顔立ちですし、よくお似合いです。」

「…」


 前丈が短く後丈が長い、背中が大きくあいたアシンメトリードレス。

 今日の装いは、何を言ってもアンナがこれを譲らなかった。

 ウエディングドレスの様なボリュームあるロングドレスが主流の世界では異端的なこのドレス、足元が心もとないというか何というか…ドレス考案者、転生者なんじゃないかしら?


「城へ出向くのですよね? なら、存分に着飾って行くべきです!」って問答無用で着せて来た訳だけど、多分アンナではなくルシアを連れて行くって言ったのを根に持ってるんだわ。


 今回は目的の一つがレオガディオ様が飼っている魔物探しなんだもの。

 ティナたちを連れて行く手前、仕方なかったのよ。

 ルシアは護衛も兼ねているって説得したら、すんなり引き下がっていたけれど、心境は複雑みたいね。



「あ、そうだプレセア様。少しの間目を瞑って居てもらえます?」


 馬車に向い合せに座っているルシアに言われたままに目を瞑ると、何やら呪文が聞こえてく来た。これは古代語ね。

『声無き…モノ…?』 駄目だ。全く聞き取れない。

 多分、「声無き人たちの声もちゃんと聞いて真実を見なさい!」みたいな事を言われているような…え? なんで私、馬車の中で説教受けてるんだろう。


「もういいですよ!」

「うん。なんかごめんなさい。」

「え? 何がですか?」

「私、ルシアの気持ちに添えてなかったかも。あなたの意見を蔑ろにしたつもりは無いんだけど、良かったら思っている事をもっとぶつけてくれて構わないのよ!」

「…何の話です?」

「だって今、声なき者の声をちゃんと話を聞けって…」


 あれでしょ。

 外国人バイトさんが、母国語で店長の悪口を目の前で言いながら笑ってる、あの恐ろしいやつでしょ?


「あ、凄いですねプレセア様! 古代語のお勉強の成果が出てるんですね。そうです。今、ちょっと特別な魔法を掛けさせてもらいました。ちょっと待ってくださいね…ティナさん!」

「は~い!」


 ポケットの中からティナが飛び出す。


「プラチナのくれたお布団柔らかくてすべすべで気持ちい!」


「ありがとっ」とティナが頬にキスをしてくれたわ。 

 ポケットの中がうっかり見えても大丈夫なようにと、ティナ達を包み隠すハンカチは高級シルクで出来た逸品ものだもの。おかげで快適な旅を送っている様ね。何よりだわ。

 

「ティナさんとプレセア様は本当に仲が良いですね。…じゃなくて、ティナさん。例のアレを。」

「あ、うん。」


『プレセアー、聞こえる~?』


 わぁ、ティナの口は動いていないのに、なんだろう、頭に直接語り掛けられるように声が聞こえるわ。


『喋らなくても喋れる方法をルシアちゃんに教えてもらったのー。これでね、ポッケからでもプレセアに話しかけられるんだよー!』

「え、凄い! これ、ルシアの魔法?」

「ラッソに伝わる秘術で、魔物同士が話す会話を波長を合わせる事で拾う事が出来るんです。まぁ、私たちは聞き役にしかなれませんし、時間制限もありますけれど、お茶会の間くらいなら持つと思います。」

『ティナ、何か見つけたらすぐプレセアに言うからね!』

『俺もいるからな! 忘れんなよ!』


 ポケットに入ったままのスズキさんの声も聞こえて来る。これはなかなか良いチームプレーが期待できそうね。


「みんなありがとう! じゃ、名付けて「お城に潜入してレオガディオ様お抱えのドラゴンと接触する作戦」頑張りましょうね!!」

「お~!!」

「やってやるぜ!」

「プレセア様…作戦名何とかならないんですか? そのままじゃないですか。」

「ならないわ。私、名づけセンス皆無だから。」

「みたいですね。」


 そんな雑談をしていたら、馬車がキュット音を立てて止まったわ。

 ティナがサッとルシアのポケットに隠れる。


 今日のお茶会は、先日の声の主と話をするのが目的よ。

 面白い話が聞けると良いわね。

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