第26話 帰りは空飛ぶ絨毯でした

「遅ればせながら、お誕生日おめでとうございます。プレセア様!」


 アンナとルシアが誕生日を祝ってくれた。

 他の使用人たちも、仕事の合間にお祝いの品をくれるし、本当にありがたいわ。


「それじゃ、ルシア。後は宜しくね。くれぐれも、プレセア様から目を離さないでように!」

「はい。アンナさん!」


 暫くして、アンナも仕事へと戻っていく。

 二人きりになると、ルシアがウキウキと身体を揺らし、植木の中に手を突っ込んだ。


「よし、もういいですよー!」


 その声に合わせて、植木の中からティナが飛び出す。

 地面からピョンピョンとスズキさんもファミリーと一緒に姿を現した。


「ティナにスズキさん!」

「プレセアのお誕生日! お祝いするの~ 見てて見てて~」


 ティナが指を振り、螺旋状の光の粒子を花壇に降らせる。

 ポンポンポンっと次々に花が咲き、殺風景だった花壇が華やかになったわ。


「凄いティナ! 綺麗なお花。」

「お花の種もらったの~」

「チコさんに頂いたんですよね。で、スズキさん達からはこれですよ。プレセア様。」


 ルシアの手にあるのは、チーズタルト(ホール)!!!


「先のお店のチーズタルト、随分気に入った様子だったってスズキさんが教えてくれたので、アンナさんに買いに行きたいって相談したら…なら、プレセア様はホールでかじりつきたいんじゃないかって。」

「わぁ! ティナ、スズキさん、ルシアも、ありがとう!!!」


 ここに居ない、アンナもチコもその他の使用人の皆も、本当にありがとう!!!

 幸せだわ。後で皆にお礼をしなくっちゃね。


「ところでプレセア様、先程アンナさんに怒られてたっぽいですけど、何したんですか?」

「ん? 熱で1週間も休むほど体力が無いとは思わなかったから、走り込みでもして体力付けようかなって。」

「病み上がりに?」

「そう。そうしたら、怒られたわ。」

「それは、怒りますね。プレセア様が休んでいる間、屋敷の中はお葬式みたいでしたよ? 旦那様は親の仇でも取るのかってくらい怒りに燃えていましたし。オーロ様も、邪気のあるニコニコ顔が張り付いていましたし。おかげで、オリバレス家に危害を加えようと画策していた賊が根こそぎ捕まったそうですけどね。」

「それはお気の毒様。」


 虫の居所が悪いお父様とお兄様の相手なんて、絶対したくないわ。

 まぁ、捕まったって事は、命があるだけ良かったわよね。


「でも、プレセア様がお倒れになったのは、私は別の要因があると考えています。」

「あら、何?」

「プレセア様、強い魔法をお使いになられませんでしたか?」


 魔法…魔法ね。

 それは多分、町から帰って来る時の手段として使った、アレのことかしらね。


「使ったかも…しれないわ。」

「あのね、プレセアはね、布に乗ってビューンって、窓から帰って来たのよ!」


 あぁ、ティナ。説明ありがとう。でも、今はあまり嬉しくなかったわ。

 だって、ルシアがスンとした表情で「ご説明をどうぞ」って首をかしげてる。


「その…着飾った令嬢が一人で町を歩くのは危険でね? 乗合馬車に乗って帰って事件に巻き込まれても困るでしょう? かといって、馬車に乗せてくれる知り合いなんていなくて…ワンチャン、行けるかな~って、ちょっとストールに乗って歌ってみたの。「みせてあげよ~♪」ってね。本当は絨毯が良かったんだけど、絨毯は持ち合わせてなかったからね。そうしたら、あら不思議、空飛ぶストールの完成よ! という訳で、町から空を飛んで家まで帰ってきましたとさ。」

「な・な・なんて危険な事を!!! 落ちたらどうするつもりだったんですか!?」

「ごめんなさい。」

「歌魔法は未知な事も多く、まだ実践で使えるレベルではないと教えたはずですけど?」

「はい。ごめんなさい。」

「…まぁ、今回は事情も事情ですからね、無事で良かったです。しかし、これで仮説が立ちました。」


 良かった。とりあえず許して貰えたみたい。でも、魔法を無暗に使うのは止めましょう。

 で、仮説ってなぁに?


「魔法を使うには魔力が必要です。そして、魔力量は生まれつき決まっています。研鑽を積んで増やす事は可能ですが、大幅に増やす事は出来ないとされています。が、プレセア様はそもそも魔力をお持ちでは無いんですよね。歌に魔力が宿るので。」

「そうらしいわね。」

「だからその分、体力の消耗が激しいのではないかと考えます。身に覚えは?」

「…あるかも。」


 確かに、感情も込めて歌うのって結構体力が必要だから、途中呼吸が苦しくなったりしたわ。

 飛びたいのに、落ちるかもって思うと身体が変に緊張したりして、リラックスできなかったし。


「私も魔法で無双したいわけではないし、もし次があったなら、身を削ってでもやらなきゃいけない事かどうか、ちゃんと考えるわ。」

「そうしてください。では、最後に、私からもお誕生日の祝の品を。」


 何やらぎっしりと文字の書かれた報告書をくれたルシア。

 レオガディオ・ルイス身辺調査報告書とかかれていた。


 そういえばこの間の話し合いの後、魔物の声の事を相談したら、ちょっと調べてみるって言ってたっけ。

 にしても、内容はレオガディオ様の詳細な行動3日分からお城の隠し通路まで、「ちょっと」じゃすまなそうな内容なんだけど。ルシア、ちゃんとメイド仕事もしてたわよね? いったいどうやってこの情報を手に…?

絶対敵に回しちゃ駄目なタイプね。


「結論から言えば、あの王太子はやはり魔物を囲っていますね。ただ、契約や意思疎通はしておらず、懐いているだけみたいですけど。」

「そんな事かできるの?」

「正直、ラッソの民でもない人間に前例はないかと。しかも囲っているのはドラゴンの幼体てすから。」


 ちょっときな臭くなってきたわね。心なしかルシアも黒いオーラを纏っている気がするし。


「よし、なら確かめに行きましょう! 皆で。」

「みんなって…私もですか?」

「ティナも行く〜」

「えぇ、もちろん、ルシアもティナもスズキさんファミリーさんは…代表して数名に絞ってもらえたら嬉しいけど。この間こっちに語りかけて来たし、近くに行けばまた意思疎通出来るかもしれないわ!」


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