俺は愛美ちゃんを愛してる

充滞

第1話 彼女との出会い

俺が愛美ちゃんに出会ったのは、電車で通勤していた時だった。ぎゅうぎゅうに詰められた満員電車の中で、その女の子は痴漢に遭っていた。徐々に顔色を悪くし、誰かに助けを求めるような顔をしていた。そんな彼女を見た俺は遂に堪らなくなり、痴漢男とその子の間に体を割り込ませることで妨害し、その子を助けてあげた。俺は痴漢を通報しようとしたが、次の駅に停車すると小太りの痴漢男はあっという間に人混みをすり抜けて下車した。痴漢男を追おうと思ったが、人混みの多さと、始業まで時間に余裕がなかったことから通報は諦めた。痴漢男の薬指には指輪が嵌められていたので、おそらく既婚者なのだと思う。妻帯者が娘のような年齢の女の子に痴漢するなんて、社会の屑も同然だ。その後、俺が助けたその女の子は振り向いて、小さく会釈をした。目と目が合った瞬間、恋に落ちた。


その女の子と偶然乗り合わせたのは最初の一回だけ。それ以降は偶然を装って自ら彼女の乗る車両に乗り込んで通勤をするようになった。手放しにするには、その女の子は可愛いすぎた。魅力的なあまり、悪い男によってまた嫌な思いをするだろう。だからこそ、俺が守ってあげなきゃいけない。俺が守るんだ。そう心に誓った。


その女の子の名前は小野愛美だということをある日知った。普段つけていない高校の名札が、その日はたまたまジャケットの胸元につけられていた。外すのをたまたま忘れていたのだろう。全く、不用心だ。もし悪い大人に本名を知られて、個人情報を調べられたらどうするのだろう。そう思いながら、帰宅したその日に俺はパソコンでその名前を検索した。


「小野愛美…小野愛美…」


ゆっくりとキーボードにタイピングをして、そのキーワードで検索をかける。だが、同姓同名の人物の情報が載っているだけで、彼女の情報は見つからなかった。情報探しに難航している時、ふと思い出した。そういえば、彼女の制服から通っている高校がわかる。ということで県内にある高校の女子制服画像を色々見てみると、見覚えのある制服イメージが出てきた。これだ。愛美ちゃんはこれを着ていた。


それからは芋づる式に情報が出てきた。通っている桜陵さくらおか高校の生徒のSNSアカウント、そのアカウントがフォローしているアカウントのフォローしているアカウントのフォローしている…_そして見つけた彼女のアカウント。マナミという名前、画像に映っている髪の長さ、バッグにつけている飾り。間違いない。愛美ちゃんだ。


いくつかの画像や、コメント欄での友達とのやりとりが読める。覗き見している感覚を味わった。おとなしめな彼女が意外と派手な可愛らしいミニスカートを履くこと、実は最近柴犬を飼い始めたこと、お気に入りのブレスレットを失くしてしまったこと。


知らない彼女を見つける度にもっと知りたくなる。もっと、もっと。どんどん渇望していく。もっと可愛い彼女を知りたい。愛美ちゃんがどんな子なのか知りたい。全く接点のない俺でも、可愛い愛美ちゃんの一面を知れているという悦に近い感覚が襲った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る