将軍の死
旗尾 鉄
第1話 近衛隊長の日記
紅鹿の月 十三日
将軍が、死んだ。
ありえない。そんなことは信じられない。認められない。
遠征の途中、東の国の待ち伏せに遭ったという。東の国の兵は卑怯なやつらだ。待ち伏せ、罠、ゲリラ戦、そんな方法を好むやつらだ。
なんということだろう。将軍はもうこの世にいないのだ。
あまりにも悲しい。将軍は私にとって、まさに敬愛する方だった。師と仰ぎ、父とも慕う方だった。射撃術、馬術に優れ、そしてなによりも用兵の術に関しては他者の追随を許さなかった。
それでいて奢ることなく謙虚。まさに武人の鑑と呼ぶにあいふさわしい方だった。この国の危難を、いったい何度救ってこられただろうか。将軍あってこそのこの国だったのだ。
ああ悲しい。もっと将軍の下で学びたかった。射撃の技を、用兵術を、そして武人とはいかにあるべきか、その心を学びたかった。だが、もうあの声を聞くことはできないのだ。
思えば、私を近衛隊長に推挙してくださったのも将軍だ。まだ未熟だった私を要職に就けることで、無言のうちに育ててくださったのだ。
そう、今の私があるのは将軍のおかげだ。こうなれば、私は将軍の遺志を継ぎ、恩返しをしなければならない。
将軍はこの国を愛しておられた。即位して一年あまり、王はまだお若い。若き王を支え、将軍の愛したこの国を守ることが我らの務めだ。
そしてもう一つ。憎き東の国へ、復讐しなければならない。わが軍だけで兵が足りなければ、南の国の傭兵を雇えばいい。そうして、自分たちがいかに愚かな過ちを犯したのか、自らの流れる血をもって知らしめてやろう。
将軍よ、ご覧あれ。
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