47:急展開

「それにしても、さっきは思わず笑っちゃった。セラっておとなしそうな顔して、人前で堂々とイチャつくような人だったのね。全く予想外だったわ」

「ち、違うの、あれはイチャついてたわけじゃないの!!」

 私は赤面して両手を振った。


「じゃああれは何なの?」

「…………」

 改めて問われると困る。


「ふふ。学校ではいつも暗い顔をしていたセラがいま幸せそうで良かったわ。多分もう二度と会うことはないと思うけれど、元気で」


 ココは手を差し出した。


 私が魔女と手を繋ぐ危険性を知っていながら、リュオンもノエル様も何も言わない。私の意思に任せてくれている。


 ほんの少しためらいはあったものの、手を握り返すと、ココはすぐに自分の魔力量の大幅な上昇を認識したらしい。翡翠色の目が丸くなった。


「……ああ、なるほど……これは確かに危険な力だわ。セラを巡って戦争が起きるというのも、決してありえない話じゃないわね」

 握手を終えたココは自分の手を見つめて呟き、私のすぐ傍にいるリュオンを見た。


「でも大丈夫ね。セラには素敵な騎士様がついてるみたいだし?」

 リュオンが命懸けで私の身の安全を保障してくれたことを知っているらしく、ココは反応を試すような悪戯っぽい眼差しを投げてきた。


「……ええ。私にはもったいないくらいの騎士様だわ」

「まあ、惚気られてしまったわ。あなた本当に変わったわね。まるで別人みたい。良い変化だわ」

 吹きつけてきた風に髪を押さえ、ココは優しく笑った。


「じゃあね。身体には気を付けて」

「ありがとう。ココも元気で」

「ええ。――お二人とも、この度はご協力本当にありがとうございました」


 ココはノエル様たちに挨拶し、それから踵を返した。

 一度だけ振り返った彼女に手を振り、その姿が見えなくなってしばらくすると、ノエル様は自分の腰に右手を当てた。明るい声で言う。


「一件落着かな?」

「はい、きっと。ココは優秀なので、イノーラたちを逃がすような失態を演じることはないでしょう。いざというときのために一応これも持ってきたのですが」


 私はポケットから赤い護符を取り出した。

 アマンダさんから貰った謎の護符。


「どんな効果があるのかもわかりませんから。一か八かを賭けてこれに縋らなければならないような事態が起きなくて良かったです……リュオン? どうしたの?」

 リュオンが愕然と護符を見つめていることに気づいて、私は首を傾げた。


「……それ……どうやって手に入れた?」

 護符を指さすリュオンの手は震えている。


「一か月くらい前かしら。酔った女性を介抱したときにお礼として貰ったの」


「…………できればもっと早く言って欲しかった……」

 頭痛でも覚えたのか、リュオンは左手で頭を抱えている。


「どうして? この護符が何か知ってるの?」


「それは護符じゃない、魔法を発動させるための巻物スクロールだ。魔力がない人間でも扱えるよう、特殊な巻物に自分の魔力を編み込んで、自分の血で魔法陣を描き、その血を媒介にして自分を召喚させる――そんなふざけた真似ができる魔女が世界に二人もいて堪るか。間違いない。それを渡したのはドロシー・ユーグレースだ」


「えええええ!!? アマンダさんがドロシーだったの!?」

 素っ頓狂な声で叫んでしまう。

 ノエル様も目を見開いて硬直していた。


「……これがあれば、兄さんに変身魔法をかけたドロシーを召喚できる? つまり――」

「ああ、ユーリにかけられた魔法が解けるってことだ!! 急いで帰るぞ!!」

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