20. 予想よりも早く
「今はこの場を離れた方がいい」
「そうみたいですわね……」
今も誰かに魔法でトラウマになりそうな記憶を送り込まれている。
だから、最後の光属性の防御魔法を使い終えた私は足を前に進めた。
その瞬間、嫌な想像がピタリと止まった。
動いたから? それとも、光の防御魔法で防げるものだったから?
どちらかは分からないけれど、トラウマのようなものは残っている。
でも、これ以上恐怖心が増すことはなかった。
「アルト様、そちらの方は?」
学院内にある騎士団の詰め所に着いた私達は、早速そんなことを問いかけられた。
ちなみにだけど、学院に騎士団が常駐しているのは、外部からの襲撃に備えるため。
貴族子女が集められる場所だから、警備もそれなりのものになっている。
ただ、内部での事件については基本的に任務外になっている。
さっきのイレーネ様のように他人に危害を加えようとする人は基本的に現れないから。
「ソフィア嬢を切り付けた罪人だ。拘束を」
「はっ」
手早くイレーネ様を拘束していく騎士さん達。
イレーネ様はていこうしなかったから、拘束はすぐに終わった。
そして、騎士さんの1人が私の方を見てきて、固まった。
「ソフィア様、お守りできず申し訳ありませんでした……」
「気にしないでください。私は大丈夫ですから。
それに、この傷を治す手立てもついていますわ」
正義感の強い彼らが気に病まないように、笑顔を浮かべる私。
そんな私の様子に安心したのが、騎士さん達は顔を上げてくれた。
「ですが、一歩間違えればソフィア様の命がなかったかもしれません。今後は学院内の警備も行わせていただきます」
「それは心強いですわ。でも、外の警戒は怠らないでくださいね?」
「承知しております」
そんなやり取りの後、私達はこの場を後にした。
午後も講義はあるけれど、こんな状況では講義どころではない。
だから、今は玄関前にある馬車寄せへと向かっている。
でも、その途中で移動中だったアリスとレオン殿下に鉢合わせてしまった。
「ごめんなさい、すぐに離れますわ」
アリスが嫌がると思ったから、レオン殿下は視界に入れずに足早に通り過ぎようとする私。
でも、アリスに行く手を阻まれてしまった。
「その傷、どうしたの……?」
「ちょっと色々あって……。私が近くにいると辛いと思うから、あとは手紙で話すわ」
アリスのトラウマはまだ消えてないはずだけれど、すごく心配そうな口調だった。
でも、私の方に伸ばされた手は恐怖心のせいか震えている。
「心配かけてごめんなさい。私はもう大丈夫よ。
まだ嫌な記憶は残ってるけど、事実じゃないって分かってるから」
「もう克服したの?」
あの時みたいな違和感は全くなかった。
本当に、植え付けられたトラウマに勝ったのね。
「ええ。最初は突然のことだったから耐えられなかったけど、今は何ともないわ」
「でも、手……震えてるわよ?」
「頭では大丈夫だって分かってるのに、身体が言うこと聞かないのよ……」
悔しそうに、そう口にするアリス。
まだ完全に戻った訳ではないけれど、安堵を覚えた。
「ところで、その傷は誰の仕業なの?」
「イレーネ様よ。セレスティア様に洗脳されてたみたいだけれど……」
「また彼女の仕業なのね……。許せないわ……」
自分のことではないのに、怒りを
怒ってくれるのは嬉しいのだけれど、今度はアリスが標的になってしまうかもしれないと思うと、複雑な気分だった。
「レオン、ソフィアのこの傷を治せるか方って王宮にいるかしら?」
「王宮にもいるが、必要かどうかは怪しいな。詳しいことは王宮に戻ってから話すよ」
「機密なのね……」
ちょうど2人の会話が途切れるタイミングを見計らって、私はトラウマを植え付けられたこと、今日はもう屋敷に戻ることを告げた。
私の家の馬車は待機していないから、アルト様の家の馬車で帰ることに決めていたのだけれど……。
「そういうことなら、私達も帰りましょう」
「そうだな。このことは父上に早急に報告する必要もある。
ソフィア嬢、証人として王宮まで来てもらえないか?」
「ええ、大丈夫ですわ」
……王家の馬車で王宮へと向かうことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます