19. 守りはあるけれど
「ソフィア、大丈夫か? とりあえず、今はこれで止血を」
「ありがとうございます。でも、これくらい魔法ですぐに治せますわ」
イレーネ様を拘束しながら真っ白なハンカチを差し出してくくれるアルト様。
汚すのを躊躇ってしまったけれど、使わないという選択は出来なかった。
ハンカチを受け取り、血がドレスに付かないようにハンカチで押さえながら治癒魔法をかけていく。
治癒魔法の使い手は限られているけれど、幸いにも私はそこに含まれている。
治癒魔法の使い手は基本的に王家や騎士団に仕えることになっていて、高位の貴族でもなかなか雇うことができない。
ちなみに、大抵の治癒魔法では傷跡を消すことは出来ないけれど、幸いなことに私は傷跡も消すことができる。
だから、セレスティア様の思惑通り、私が一生の傷を負うことは無いのよね……。
「とりあえず、イレーネ嬢は騎士団に引き渡す。
また誰かが襲ってくるかもしれないから、ついてきて欲しい」
「分かりましたわ」
「外は冷えるから、これを羽織ってくれ」
そんなことを言いながら、フード付きの上着をかけてくれるアルト様。
傷を隠せるように気遣ってくれたのね。
「ありがとうございます。ハンカチは洗ってからお返ししますね」
「いや、それは元々怪我の手当に使うものだから、捨ててもらって構わない」
「分かりました」
アルト様は戦うことがお好きだから、きっと何度も怪我を負ってきたのね……。
彼に傷跡が見当たらないのは不思議だけれど。
「では、行こう」
「ええ」
頷く私。
ふと、ここから離れたいと強く思ってしまった。
学院にいたらまた襲われるかもしれない。
次は命を狙われるかもしれない。
そんな、良くない想像が次々と頭の中に流れてくる。
……いえ、違うわね。さっき、頭の中に植え付けられた感じがする。
考えようともしてないのに、アルト様が私を無残な姿にする様子が浮かんでくる。
これがトラウマを植え付けられるという感覚なのね……。
アルト様は確かに戦うのが好きみたいだけど、こんな酷いことはしない人だって、今まで接してきた中で分かっている。
でも、彼の姿を目の前にすると、背筋が凍るような感覚に襲われるようになってしまった。
だから、彼を直視しないようにして、私は口を開いた。
「アルト様、お願いがあります。私にお姿が見えないようにしつつ話を聞いてください」
「…‥分かった」
アルト様は何かを感じ取ったのか、少しだけ気配が変わった。
真剣な時の、氷のような気配。
少し怖く感じてしまったけれど、偽りの感覚だと自分に言い聞かせて説明を始めた。
「今さっき、トラウマを植え付けられました。切りつけられた事自体は恐ろしく無かったのですけれど、今はとても怖く感じています。もう学院に留まりたくないと感じるくらいに。
それに、アルト様が私を無残な姿になるまで暴力を振るう様子も想像させられています」
なんとか、言い切ることができた。
けれど、恐怖心や不快感はますます強くなるばかり。
私が使える限りの防御魔法を使って、大丈夫だと自分に言い聞かせているけれど、これで恐怖心を抑えられる自信は無かった。
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