16. どちらを選んでも

 会談が終わり、参加していた公爵様達が部屋を後にしていく。

 けれど、私はレオン殿下とアルト様からお願いされてここに残っていた。


「私に直接したいお話について、お願いしてもよろしいですか?」


 少し穏やかな空気が流れ出した時を見計らって、質問を投げかける私。


 すると、アルト様が「他言はしないで欲しい」と前置きしてから、こんなことを口にした。


「聞いた話から推測しただけだが……アリス嬢は貴女がレオン殿下との関係を得ようとしていると思わされているらしい。

 殿下以外の誰かと貴女が仲を深めれば、多少は気持ちが楽になるだろうと思うのだが、どうだ?」

「もちろん強制するつもりはないから、よく考えてから答えを出して欲しい」


 アルト様の言葉に続けて、レオン様がそんなことを付け加える。



 真意はわからないけれど、会談の場で提案されなかったのは、私に対して圧力がかからないようにという配慮の結果に思えた。


 アルト様の提案した方法は確かに有効かもしれないけれど、私自身の評判のことを考えると飲み込みたくはなかった。

 けれど、セレスティア様に目をつけられている今の状況を考えると、早いうちにアリスと共に行動できた方が良いというのも分かっている。


 私一人なら家格の問題で抵抗もできないけれど、アリスがいれば立場が逆転する。



 正直に言って、すごく難しい提案なのよね……。


「確かにアルト様のおっしゃる通りだとは思います。ですが、私は婚約破棄されたばかりの身です。

 これでは良くない噂を立てられてしまいますわ」

「そのことだが、政略によるものだと偽れば噂は抑え込めるはずだ。

 常識の持ち主なら、グレン殿がソフィアに次の婚約者を宛てがわない方がおかしいと考えるからな」


 私が不安を口にすると、殿下からそんな言葉が返された。

 確かに、お父様が私に次の婚約者を……と考えていても不思議ではない。


 このまま何もしなかったら、私が行き遅れになってしまうから。

 そのリスクを避けるのは、貴族なら当然の行いだ。


「そうですわね……。ですが、学院の中での居場所が無くなってしまいますわ」

「例外はあるが、あの大馬鹿者達……いや、学院に通う者達からの評価を気にしているのか?」


 そんな失礼なことを口にするとアルト様。

 彼からの問いかけに、私は少しだけ目を伏せながら口を開いた。


「学院の方々からの評価など社交界では意味を成さないことは存じておりますわ。

 ですが……好奇の視線に晒されるのは避けたいのです」


 それに、他の問題もある。

 私の知る限り、婚約者役をしてくれそうな方はいない。


 だから、そもそもが無理な話なのよね。


「それに、婚約者役になってくれるような方はいませんから……」

「目の前にいると思うんだけど……アルトとは関わりたくないかな?」


 無理です……と続けようとしたのだけど、殿下に遮られてしまった。


「いえ、そういう訳では……。

 アルト様は女性がお嫌いと聞いていたのですけど……」

「ああ、確かに嫌いだよ」


 はっきりと口にするとアルト様。

 噂は本当だったのね……。


 私がそう思ったていると、彼はこんな言葉を続けた。


「宰相の息子の婚約者という立場欲しさに色仕掛けしてくるような女性はね。

 顔が良いからって理由で迫ってこられたこともあったな。

 あとは……」


 そこで語られたのは、耳を塞ぎたくなるような酷い状況ばかりだった。

 殿下が頷いているから、どれも事実に違いないわね……。


 アルト様が女性嫌いになるのも理解できた。


「そんなことがありましたのね….。

 それでは、私の婚約者役もお辛いと思うのですけれど……」

「貴女なら適度な距離を置いてくれると信じているから、大丈夫だ。それに、多少の接触くらいは問題ない。

 一応これでも宰相の息子だ。演技には自信があるぞ?」


 そこまで言われれば、私に断るという選択肢は無かった。

 悪意は籠もってないはずなのに、アルト様の笑顔が怖かった。


 

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