14. 初めての感覚
王宮に到着すると、侍従達の盛大な歓迎……ではなく、騎士団に属する王室親衛隊による出迎えを受けることになった。
「お待ちしておりました、ソフィア様」
「今日は貴方達ですのね」
お父様が副官を務める魔導省と騎士団を管轄する兵部省は古くから深い関係があって、元々は平民だった騎士の方にも私のことはよく知られている。
偽者が現れても対処できるように、王室親衛隊の方々は貴族の子女も含めた全員の名前と顔が一致しているけれど、私のことはそれ以上に知られているとか。
王宮に来た時は騎士団の方々にも良くしてもらっているから、私も彼らの顔はある程度把握している。
「はい。本日は来賓の方がいらしていますので、侍女達が動けなかったのです。女性騎士を近くに付けますので、その辺りはご安心ください」
「そういうことだったのね。配慮に感謝しますわ」
お互いに顔は知っているから、手短に挨拶を済ませる。
それから、私達は王宮内にある応接室……ではなく、国王陛下の執務室に通されることになった。
……陛下はこの事態を重く受け止めていらっしゃるのね。
少し考えれば分かることだけれど、次期王妃の異変は国を揺るがしかねない一大事。それも他人の悪意によって引き起こされたものなら尚更だ。
もう、学院内のいざこざ、友達同士の行き違いでは収まらなくなっている。
そんな私の推測を裏付けるかのように、陛下の執務室には王国の重役が集まっていた。
兵部卿に宰相様、お父様や魔法省のトップまで。
私が状況を把握し終えるのにやや遅れて、レオン殿下が口を開いた。
「ソフィア嬢、急な呼び出しになってしまってすまなかった。先にこれを読んでほしい。
アリスがさっき書いた手紙だ」
「アリスが……?」
あれだけ私を拒絶していたアリスからの手紙。内容は正直見たくない。ここでも拒絶されたら、立ち直れなくなりそうだから。
でも、見ないと絶対に後悔する気がする。
そんな気もしたから、覚悟を決めて封を開けた。
『お昼にあんなことをしまって、ごめんなさい。どういうわけか、ソフィアの近くにいると得体の知れない恐怖に襲われるようになってしまったの。トラウマを抱えているかのようにね。
でも、これを書いている今はいつもと同じだから、安心してほしいわ。直接は会えないけれど、手紙は問題ないからこれからも親友でいて欲しいわ。
あんなことをした身で言えることではないけれど……。
本当にごめんなさい。もし貴女さえ良ければ、私を助けて』
手紙を読み終え、顔を上げようとした。
でも、それはできない。目頭が熱くなってしまっていたから。
こんなみっともない顔を見せるわけにはいかないもの。
「大丈夫か……?」
「ええ」
なんとか涙を堪えて、顔を上げる。
「お待たせしてしまい申し訳ありませんでした」
「気にしなくて良いぞ。では、話を始めよう」
私の言葉の後に、そう続ける国王陛下。
「今回集まってもらったのは、アリス嬢が何者かにトラウマを植え付けられた件についてだ。
手を出した者についてはレオンの証言から予想がついている。しかしことの解決にはアリス嬢に植え付けられたトラウマを解く事が必須だ。
……そこで、諸君の知恵を借りたい。
レオン、詳しい状況の説明を」
陛下の言葉が終わり、レオン殿下が口を開く。
そこで語られたのは、私が遭遇した状況に加えて、殿下がアリスから直接聞いたであろうトラウマの影響についてだった。
トラウマの内容はアリスが「これ以上意識したくないの」と言って語らなかったみたいだけど、あまりにも酷すぎる内容に胸が締め付けられるような気がした。
「……以上が、現時点で分かっていることです。このような恐ろしい事態を引き起こせる魔法と解除の方法に心当たりがある方は、挙手を」
殿下がそう問いかけると、私のお父様と魔導省トップのアルカンス公爵様が手を挙げた。
「アルカンス殿。発言を」
陛下がそう告げると、アルカンス公爵様は重々しい口調でこう語った。
「結論から申し上げますと、想定される
その言葉に頷くお父様。
まさか、解除出来ないだなんて……。
もう二度と、アリスと直接会って談笑することは出来ないというの……?
こんなことって……酷すぎるわ。
この時初めて、沸々と何かが込み上げてくるような、不思議な感覚に襲われた。
こうまでして、私達の仲を切り裂きたいのですか? セレスティア様。
私達は貴女に何もしてないというのに。
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