11. 一人でも、独りじゃない

 アルト様と決闘する。

 そうなってしまいそうな今の状況に、目の前の殿方達は恐怖したらしい。


「あ、アルト様と戦うことは望んでいませんので……」


 小さく震えながら、そんなことを口にしている。

 いくら殿方でも、戦闘狂の相手はしたくないわよね……。


「ならソフィア嬢との決闘も無しだな。分かったらすぐに離れろ」

「「分かりました。すぐに離れさせていただきます」」

「ソフィア、後で覚えていなさい!」


 殿方は潔く頭を下げ、セレスティア様は不穏な捨て台詞を残して私から離れていった。

 流石は宰相の息子といったところかしら?


 私も……アルト様ほどではなくても、もう少し強気に出れていたら……。


 弱気な自分が少しだけ恨めしかった。





 それから少しして、私はアリス達と一緒に昼食をとっていた。

 例の騒ぎのおかげで料理は冷めかけてしまっていたけれど、これくらいのことで不満を漏らしたりはしない。


「先ほどは助けて頂きありがとうございました」

「礼は不要だ。俺は欲望のままに動いただけだ」

「それでも、感謝の気持ちは変わりありませんわ」


 斜め前のアルト様に頭を下げる。

 けれど、感謝されることに慣れていないのか、こんな言葉が返ってきた。


「だから礼は不要だ。早く食べないと冷めるぞ?」

「そうですわね……」


 これ以上お礼を言ったら無礼になってしまう。

 そう思ったから、一度置いたカトラリーに手を伸ばした。



 ちなみに、今の私達はアリスを中心にテーブルを囲っている。

 アリスの左隣に殿下が、その向かい側にアルト様、アリスの右隣に私という並びになっている。


 こうすれば私はアリスとだけ隣り合うことになり、アリスは殿下とだけ隣り合う。そしてアルト様は殿下とだけ向かい合う形になるから、「浮気していた」といった類の噂は立ちにくくなっている。


 私は婚約破棄されたばかりの身。余計な勘繰りをされるような行動は慎まないと。

 本音を言えば殿方が近くにいるだけでも不安なのだけれど、さっきのことがあったから一人で行動するには心細いし、かといってアリスを殿下から引き離すわけにもいかない。



「不安だったら、別のテーブルにする?」

「そこまでしなくても大丈夫よ、多分……」

「でも不安なのよね?」

「そうだけど、迷惑はかけられないわ」


 こんなやり取りもあったけれど、結局は今の形に落ち着いた。


 問題は……殿下が恐れ多くて私達の周りに誰も寄りつかないことなのだけれど、こればかりはどうにもならない。

 目立ってしまっているけれど、悪い意味ではない。


 むしろ、殿下の最愛であるアリスから信頼を得ているとアピールする機会だ。

 これで私を貶めようとする人は減るはず。


 相手が常識の持ち主なら、という条件はつくけれど。




   ☆  ☆  ☆




 昼休みからしばらくして、私は帰路につくために学院内の廊下を一人で歩いていた。

 でも、寂しくはない。


 今の私は一人だけれど、孤独ではないから。


 不安は消えていないけれど、今ならきっと逃げずに戦える。そう思うこともできた。

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