第46話 どこへ
「ハイネさ-ん!いませんかー!いたら返事してくださーい!」
「おーい小娘よ!さっさと返事をせんかぁ!サツマイモを食べれぬではないかー!」
「お嬢様―!どうか返事をしてください!お嬢様―!!」
村の中を必死に探し回るもハイネさんの姿は何処にも見当たらない。陽は殆ど沈みかけており、このまま時間が経てば捜索は難航するだろう。誰もが諦めかけた時、村人の一人が馬が一頭居なくなっていることに気づいた。ついでに馬具も一式無くなっている。
「お嬢様……何処に行ってしまわれたのですか」
それを聞いたガストンさんは、その場に崩れ落ちて呆然と空を見上げた。俺はガストンさんの元へ駆け寄り、ずっと脳裏に過っていた事を伝える。
「ハイネさんはきっと、純血の吸血鬼が住む場所に向かったんだと思います!」
「純血の!?なぜお嬢様がそんなところへ行くのですか!純血の吸血鬼に会う事がどれだけ危険なのか、お嬢様が一番分かっているのですよ!」
ガストンさんは俺の話を聞くな否や、怒りを露にして俺の胸倉に掴みかかってきた。半血のハイネさんが自ら純血の吸血鬼に会いに行くなど、自殺行為に等しいのだ。そんな行動を彼女がするはずないと、ガストンさんは口にする。
そこで俺はシズクちゃんに目配せをして、昨日ハイネさんから取り外した指輪をガストンさんに見せた。
「ハイネさんはこの指輪をお母さんの形見だと言って俺達に見せてきました。この指輪、何か変な感じがしませんか?」
「それはヘレナ様の形見の指輪!!なぜナオキ様がそれを!?いやそれよりも、変な感じなんて、私にはそんな……」
指輪を目にしたガストンさんの瞳が段々と虚ろになっていき、話すことを止めてしまう。俺は慌てて指輪を手で隠し、シズクちゃんに渡す。一瞬視界に映っただけでも、吸い込まれてしまいそうな程魅力を感じてしまった。
指輪をしまったシズクちゃんが、静かに語り始める。
「この指輪には強い魅了の力が施されておるのじゃ。恐らく、小娘に母親が死んだと思わせるために作られた魔道具じゃろう。現に、指輪を外した小娘は母の死に違和感を覚えておったのじゃ」
「そんな馬鹿な!ヘレナ様は確かに死んだと、我々もそう聞かされて……」
ガストンさんはそこまで口にして言葉を詰まらせた。
「誰に聞かされたのじゃ?小娘か?それとも父親か?」
「いや……分かりません」
この状況に理解が追い付かないのか、ガストンさんは口を開いたまま固まってしまう。俺とシズクちゃんは目を見合わせて頷く。俺達が向かうべき場所はただ一つだ。
「お母さんが生きている可能性があると分かった今、ハイネさんは恐らくデリエル家の住処へと向かったはずです!俺達もそこへ向かいましょう!ハイネさん一人では危険だ!」
「仕方あるまい!小娘を純血にしてやれぬ代わりに、これくらいはしてやらんと!」
「流石シズクちゃん、話が分かる奴だぜ!さぁガストンさん!俺達をデリエル家の所へ案内してください!」
ガストンさんに向かって叫んだあと、俺達は馬車の扉を開けてそこへ乗り込む。しかし一向にガストンさんが乗りこんでこない。異変を感じた俺が外へ出ると、ガストンさんは絶望の顔を浮かべていた。
「無理です……私はデリエル家の住処を知らないのですから」
やっとの思いでその言葉が口に出たかと思うと、ガストンさんはその場で泣き崩れてしまった。
「あああお嬢様あああ!役立たずな私をお許しください!神よどうかお嬢様の命をお救い下さい!」
涙を流しながら天に祈る様に叫ぶガストンさん。残念ながら神はここに居るのでそこに祈られても無駄な気がするのだが。今はそんなツッコミをしている暇はない。
俺は慌てて馬車の中へと戻ってシズクちゃんと話し合いを始めた。
「どうするよ、シズクちゃん!なんかいいスキル無いのかよ!俺よりも土地レベル高いんだろ!?」
「馬鹿者が!そんな都合の良いスキルがあるわけなかろう!!ワシだって吸血鬼に会ったのは小娘が久しぶりなのじゃ!純血の者達が何処に住んでいるかなど、覚えとるわけないじゃろ!!」
「はぁぁ!?お前、数百年間ここの筆頭土地神だったくせに、そんなことも分からねぇのかよ!ただの飲んだくれババァじゃねぇか!!」
「なにをぉ!?言わせておけば小僧めぇ!ワシがこの領地にどれだけ力を尽くしてきたと思っておるのじゃ!領主の屋敷に行ってみるがよい!ワシの肖像画が飾られておるわ!!」
そう言って自慢げに胸を逸らすシズクちゃん。領主の屋敷に肖像画が飾られているからってそれが何だと言うんだ。有名な映画の用に、その肖像画が目的地へ案内してくれるとでも言うのか!?
苛立ちと共にそんな馬鹿な事を考えていた時、ふと一つの疑問が思い浮かぶ。
ハイネさんは一体どうやって、デリエル家の場所を知りえたのかという事だ。
「な、なぁシズクちゃん!ハイネさんはどうしてデリエル家の住処へ向かえたんだ?俺達と一緒で、場所なんて知らないはずだろ?」
「ああぁん!?……確かに、言われてみればそうじゃな。となると、小娘は別の場所に行ったのかもしれんということになるのか!?」
そう言って安どの表情を浮かべるシズクちゃん。だが俺はその逆だった。
ハイネさんは確実にその場所を知っていたのだ。俺達では知る事すら出来ない情報源も、彼女にとっては身近な話だったのだから。
「違う!ハイネさんはきっとお母さんから聞いていたんだ!自分の娘に、自分が生まれ育った場所の話をするのは自然な事だろ!?」
「待て待て!それはあくまでお主の推測じゃろう!?もしかしたら、別の場所で情報を集めているかもしれんぞ!」
「だとしたら、こんなに急に行動すると思うか!?情報が足りないなら、ガストンさんや護衛の皆に協力して貰うべきだろ!でもそれをしなかったって事は、彼女は間違いなくデリエル家の住処に直行してる!」
俺の話を聞いて、顎に手を当て始めるシズクちゃん。そのあと困ったように話し始める。
「だとしたら、ワシ等には打つ手は無いぞ!!情報源となる小娘の母がこの場にいなければ、ワシ等はそこへ向かうことすら出来ん!」
彼女の言う通り、ハイネさんのお母さんに会えない以上、俺達はデリエル家の場所へは行けない。今から情報収集を始めたとしても、到着する頃にはハイネさんが殺されてしまう可能性もある。
八方塞がりかに見えたこの状況で、俺はニヤリと笑みを浮かべて見せた。
「情報源ならあるさ!ちょっとここで待っててくれ!」
シズクちゃんにそう告げると、俺は『管理地間移動』のスキルを発動させその場から消えた。
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