第41話 強欲の村
ルキアス村の中に入っていくと、以前訪れた時とは比べ物にならない程の村人が俺達を出迎えてくれてた。ざっと見積もっても四十人以上は居るだろう。流石『トルネアの宝物庫』と呼ばれているだけはある。
そんな俺の関心をよそに、ルキアス村の人達が盛大な歓迎の言葉を述べてくれた。
「よくも顔を出せたなこの野郎!俺達の事馬鹿にしやがった癖に!!」
「なにが新領主よ!どうせアンタも前の領主と同じで、自分の事しか考えてないんでしょう!」
「そーだそーだ!あんた等は俺達の心まで踏みにじったんだ!!」
先頭に立つハイネさんに向かって、ありとあらゆる暴言を吐きまくる村人達。その状況でもハイネさんは眉一つ動かすこともしなかった。
「この度は皆様を傷つけてしまい、申し訳ございませんでした。先代のしたこととはいえ、その責任は全てこのハイネ・トーレがとらせて頂きます」
そう言って深々と頭を下げるハイネさん。領主が直々に頭を下げるとは思っていなかったのか、思わずたじろぐルキアス村の人々。だが彼等にもプライドがあるのか、一人の屈強な男がハイネさんに向かって言葉をかける。
「せ、責任を取るって、一体どう責任を取るつもりなんだよ!俺達がどんだけ傷ついたか分かってるんだろうな!!」
「皆様のお気持ちは十分理解しております。通達した通り、買取価格を今までの価格に戻します。そして、見舞金として金貨四十枚をルキアス村へ贈らせて頂きます」
ハイネさんがそう口にすると、ガストンさんが少し大きめの布袋を持って来て、男に手渡した。その中身を確認した村人達からどよめきの声が上がった。信じられないといった表情で固まる村人達。
「金貨四十枚!?ほ、本気で言ってるんですか!?」
「勿論です。皆様が負った傷の深さを考えれば、当然の金額ですわ。ですので皆さま、どうかこれからもトルネアの民として、私にお力をお貸しください」
再び村人達へと頭を下げるハイネさん。一連の彼女の態度を見て村人達も納得したのか、それとも金に目が眩んだのかは分からないが、村人たちは笑顔になった。
「しょ、しょうがねぇなぁ!皆納得したよなぁ?」
「ええ勿論!新領主様は素晴らしいお方でしたのね!我々の事をこんなにも大切に思って下さるなんて!新領主様万歳!!」
一転してハイネさんを称え始める村人達。俺は自分で納税したことが無いので、その思いが分からないのだが、彼等にとってはかなりの大金であることは間違いない。
だからこそ、そんな大金をポットだしてしまうハイネさんが心配になる。
「確か、大人一人の納税額が金貨一枚とかでしたよね?金貨四十枚って、この村の納税額くらいになりません?そんな大金、パッと渡しちゃって良いんですか?」
金を渡し終えて俺達の所へと戻ってきたガストンさんへこっそりと尋ねる。ガストンさんは村人達に聞こえないよう、静かに教えてくれた。
「問題ありませんよ。たかが村一つ分の税金ですから。ルキアス村との取引を正常化させる方が重要なのです。金貨四十枚でそれを買い戻したとすれば安いものです」
「へぇーそうなんですね。ハイネさんの評価も上がってるみたいですし、良いこと尽くしですね」
新領主として民に認めて貰うのには時間がかかるとハイネさんは言っていたけど、今の対応を見ればそんなことは無いと断言できる。きっと立派な領主になるだろう。
「ナオキ様!ご紹介いたしますので、どうぞこちらへ!」
殺伐とした空気から和やかな雰囲気へと変わったところで、ようやく俺の紹介の時間がやって来た。俺はハイネさんの元へ進んでいき、村人達の前に出る。事前に通達しておいてくれたらしいが、村人達の俺を見る目は少し疑いの籠ったものだった。
「こちらが新しくトルネアの土地神になられた、ナオキ様です!」
「初めまして!トルネア領の筆頭土地神をやってるナオキです!皆初めは信じられないと思うけど、何か困ったことが有ったら言ってください!一度だけそれを解決してみせます!」
考えていた挨拶をしっかりと決め、村人達の様子を伺う。だが俺の予想とは裏腹に、ルキアス村の人達はより一層疑惑の目で俺を見つめてきた。
「話は聞いてたけどよぉ……一度だけって、なんだかけち臭くねぇか?」
「そうねぇ。領主様が仰るのであれば、本物なのでしょうけど、胡散臭いわよねぇ」
「そういやー神を自称する男が居るとか噂があったじゃねぇか!確か凄腕の治療使いだとか。アイツがその男なんじゃねぇか!?」
コソコソと話している内容が聞こえてくる。いつしかのエイリスさん達の姿が思い浮かぶ。彼女達もこんな風に、俺の事を疑っていたっけ。
「あのー、何か困ってることありません?」
「あ、えっと、少し待ってください!……おい、どうする!」
「こうしましょう!今の薬草より効果のある薬草を生やしてもらうのよ!そうすれば、今以上にお金を稼げるわ!」
「おお、それがいい!……実はですね、今採っている薬草の効果が薄れていて、出来ればより効果のある薬草に変えて頂きたいのです!」
強欲な村人たちの願いに、俺の後ろに立っていたシズクちゃんが大きなため息を零した。俺も顔には出さなかったものの、内心呆れていた。
ミモイ村の人達だったら、絶対にこんな願いはしないだろう。人は今の生活に満足すると、より良い生活を求めるとはよく聞く話だが、まさに目の前の奴等がそれだ。
「分かりました。やれるだけやってみましょう」
俺はそう答えると、村に生えていた薬草の地に向かって歩いていく。その一角に立ち、俺はスキルを発動させた。
「『植質改善』発動!」
スキルの発動と共に、薬草が淡い光に包まれていく。土地レベルが3に上がったことで、自分の管理地以外でもスキルが発動できるようになった。『種生成』で作った種や、『土地結界』など一部例外はあるが、このスキルは発動できる。
現状よりも効果が高くなるようなイメージを浮かばせながらスキルを発動させたことで、薬草は今よりも大きく青々強いモノへと変化した。
「おおお!これは凄い!!ほんとうに『月魔草』に変わったぞ!」
薬草を見た人々が次々に声を上げていく。俺は無言でその場から離れ、シズクちゃんの元へと戻った。俺の行動に不満そうに頬を膨らませるシズクちゃん。だがそんな心配はいらないと、彼女の頭を優しく撫でてやる。
「大丈夫だよ。一度きりって言ったろ?あの薬草を採取したら、また元の薬草に戻るさ」
『植質改善』は今その場で生えている植物にしか影響を与えない。つまり、一度摘んでしまえばその後に生えてくるのは元の薬草だ。そんな事を知らず、大喜びする村人達。
「よいのか?薬草を変えるという願いだったじゃろ?」
「だから変えてやっただろ?『今』生えてる薬草をさ!」
俺に願いを述べた男の言葉を持ち出してニヤリと笑って見せる。シズクちゃんも分かっていたのか、ニシシと笑っていた。
◇
神の御業を目にした私は、そのあまりの凄さに思わず身震いする。この力があれば、私の願いはもはや叶ったも同然。
「あの力があれば、お嬢様の悲願も叶う事でしょう」
「ええ……分かっているはね、ガストン?」
「は!全てはお嬢様のために!」
ガストンが居なくなった後、私は空に浮かんだ月へと目を向ける。勝負は今夜。私は全てを手に入れる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます