第3章 領地開拓
第37話 我復讐す
七日後。久しぶりに浴びた日差し。痛い程の眩しさに、俺は思わず瞼を閉じる。
『祝福の儀式』などという地獄のような七日間を乗り越えた俺は、最早なる事も無くなった胃袋と共に、ミモイ村へと帰還した。朦朧とする意識の中、『管理地間移動』のスキルを使って村へと帰ってきたのも、全ては復讐のため。
「あー!ナオキ様だ!!皆、ナオキ様が帰ってきたよー!」
外で遊んでいた子供らが、帰ってきた俺を見つけて村の大人達に報告しようと駆けだしていく。俺は子供達に手を振りながら、血眼になって彼女の姿を探す。
しばらくすると子供達が、村で作業をしていた大人を連れて戻ってきた。
「ナオキ様!お戻りになられたのですね!街での『儀式』、お疲れ様でした!」
「ありがとう、ケイン。シズクちゃんと話がしたいんだけど、何処にいるか分かるか?」
「シズクちゃん様ですか?作業があるとかで、確かルノ村におられると思いますが」
「そっか。ありがとう」
折角迎えの挨拶をしに来てくれたのに、俺はシズクちゃんの居場所を聞くと、さっさとスキルで移動してしまった。きっとケインは驚いている事だろう。だが今はどうか許してほしい。この怒りを、この憎しみを、一刻も早く彼女にぶつけなければならない。
ルノー村に着くと、村の中から彼女の騒がしい声が聞こえてきた。
「もうちょっと大きい方が良いのう!!ワシが住むのじゃから、3階建てくらいにはするのじゃ!」
「わ、わかりました!!おい皆、午後は木を伐りに行くぞ!!」
やけに大きな木造の家が建っていると思ったら、俺が居ないのをいい事に村人達を扱き使っていたようだ。俺は彼女に悟られぬよう、心を静めて普段通りの表情で近づいていく。
「何やってんだよ、シズクちゃん!そんなに大きい家要らないだろ!」
「ぬぉぉぉ!!な、なんじゃお主!もう帰ってきたのか!!」
不意に声をかけられた事で、飛び跳ねて驚くシズクちゃん。その声の主が俺だと気づき、より一層目を見開いて見せる。そのあとすぐに、俺から身を隠すようにチルチルの後ろへと回り込む。そこから顔半分だけ見せる形で、怯えながら話しかけてきた。
「ワ、ワシは悪くないぞ!!元はと言えば、教会に協力を頼んだお主が悪いんじゃからな!」
「いやだなーもー分かってるって!怒ってないし、寧ろ感謝してるくらいだよ!」
汚れない眼で、シズクちゃんの顔をジッと見つめながらニコリと微笑みを浮かべる。まるで小動物と接するために自身が敵ではなく味方だと偽るかのように
「そうなのか?それなら良いんじゃが」
「でも、だからって俺が居ない間に、村の皆を扱き使うのは駄目だろ?あんなに大きな家作って貰えればそれで充分だ!」
「むぅ……そうじゃのぉ。皆の者もうよいぞ!自分の仕事に戻るのじゃ!」
俺が敵ではないと錯覚したシズクちゃんが、チルチルの後ろから出てきて村人達に声をかけていく。俺は糸にかかった得物を捕獲するべく、慎重に言葉を選びながら話し始めた。
「そう言えば、『儀式』が終わってすぐここに来たから何も食って無いんだった!シズクちゃん、『神の引き出し』に何か食べるモノとか入ってない?」
「この前街に行った時、中にあった食材は全て売り払ってしまったからのう!!中身は空っぽなのじゃ!!」
テヘッと舌を出して申し訳なさそうに笑うシズクちゃん。その言葉を聞いて、俺は勝利を確信した。思わず笑いそうになるのを堪えながら、俺はその場にしゃがみ込み右手を地面へと触れさせた。
「そっか!それを聞いて安心したよ!」
「ぬ?なぜ安心するのじゃ?」
俺の言葉の意味が分からないシズクちゃんは首をかしげながら不思議そうな顔をしている。その顔が絶望に染まる瞬間を見れないのが本当に残念で仕方ない。
「『地形創造』発動!!」
彼女のお蔭で土地レベル3へと上昇した結果取得した新スキルを使い、シズクちゃんの周囲に土の壁を造り上げていく。そのままシズクちゃんを取り囲むように土を移動させ、一瞬の内に土の箱で彼女を覆ってしまった。
「な、なにをするのじゃ!!ワシを閉じ込めてどうするつもりじゃ!!」
事態が呑み込めていないのか、シズクちゃんが土を叩きながら声を上げる。俺はわずかに作った隙間から、優しい声で彼女に話しかけた。
「シズクちゃん。俺はね、『祝福の儀式』を経験して、あることを思ったんだ。それは何だと思う?」
俺の問いかけに対し、シズクちゃんは「ま、まさか」と小さな声で呟いた。壁一枚隔てているが、今シズクちゃんが抱えている感情を俺は手に取るようにわかる。何に怯え、それから逃れる術はもう無いという事を。
「お、お腹が空いたら、辛いという事かのう!?」
「あーー惜しいなぁ!!正解は……この地獄を君にも味合わせてやりたいって思ったでしたぁ!!」
「ぬおぉぉぉぉ!!そんな事だろうと思ったのじゃぁ!!だせぇぇ、出すのじゃぁ!」
土の壁をどんどんと叩くシズクちゃん。だが俺のスキルで作られた壁はそうやすやすと破れるモノではない。今日から七日間、俺が味わった地獄の日々を彼女にもプレゼントしてやるのだ。
「あー久しぶりのご飯なに食べようかなぁー!!そういえば、街で大鍋を買ってきて貰ったんだっけ!!折角だし、今夜は肉野菜炒めでも作りますかぁ!!」
「な、なんじゃその食べ物は!!ワシにも食べさせるのじゃ!」
口角が上がるのを我慢できない。今この瞬間のためだけに地獄の生活を乗り越えたと言っても過言ではないのだから。
「あのぉ、ナオキ様……シズクちゃん様はどうすればよろしいでしょうか?」
俺の異変に気付いた村の皆が、少し怯えながら近寄ってきた。だが復讐を果した俺の心は、雲一つない綺麗なお青空のように澄み渡っていた。
「七日後に解放してやるから、それまでは放っておいていいよ!そんなことより、皆で宴会でも開こう!!俺の出所祝いだ!!」
刑期を終えた受刑者が、現世に出て初めて口にする物は何だろうか?俺は今から肉野菜炒めを食べながら、りんごをすり下ろしたジュースでも飲むとしよう。
彼女の家の前という特等席でね。
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