第31話 冬支度

 エッケンが村から帰って五日が経った。あれから領主の使いを名乗るものが来ることは無かった。これで魔法薬の買取価格を戻してくれると良いのだが、こればかりは祈ることしか出来ない。


 それに加え、エイリスさん達が依頼達成の報告をしにバハマの街へと帰ってしまった。フレイは寂しそうにしていたが、ルキアス村の件もあるため少ししたらまた戻って来るらしい。彼女達にしか出来ない仕事も幾つか頼んでおいたから、帰って来るのが楽しみだ。


 という事で、少しの間やることが無くなってしまった俺は、村の環境改善に取り組むことにした。もう少し経てば秋になり、肌寒い季節となるだろう。冬を越すためにも、気合を入れて色々とやるつもりだ。


「それじゃあ皆、冬越しに向けて頑張るぞー!!」

「オー!!」


 熱のこもった俺の掛け声と共に、村の環境改善へ向けた取り組みがスタートした。子供から大人まで、皆それぞれがチームに分かれて作業を行う。


「よーし、皆いくぞー!チルチル様も、宜しくお願いします!」

「チルルル!!」


 フランクがチルチルの傍に立ちながら、周りに立っている大人達に檄を飛ばす。彼等は皆の家を建て直す、建築チームだ。俺が適当に作った土の家だと、冬を越すには心もとない。そこで、周辺の森から木を刈り取って、木造建築の小屋を建てることにした。


大人の男達が総出で木を伐採し、それをチルチルの糸で縫い付ける。暖炉の部分や煙突部分は俺のスキルで補うつもりだが、八割は彼等の力で建てられるだろう。


俺は大人達を横目に見ながら、自分のチームにも気合を入れるために作業者たちへと声をかける。


「よーし!俺達も頑張って集めまくるぞー!!」

「おー!がんばるぞー!!」


 あちらとは対照的に、子供達のコロコロとした明るい声が響き渡る。俺のチームは綿集めチームだ。幾ら家が木造になって暖炉を使うようになったとはいえ、寝るときは冷え込んでしまうだろう?そこで俺は真っ先に羽毛布団を思い付いたのだが、俺の能力では羽毛を集めることは出来なかった。


 代わりに考えたのが綿花だ。俺のスキルで栽培が可能だし、加工もそう難しくはない。糸にするには専用の機械が無いととてつもない時間がかかるが、布団の中身として使う分には軽く叩いてゴミを取り除けば問題ないだろう。


「よーし、『種生成』発動!」


 スキルを発動させて綿花の種をどんどん生成していく。それを子供たちに取り分けて、地面へ等間隔に埋めさせていく。


「ナオキ様―!全部埋め終わりましたー!!」

「おー、ありがとう!それじゃあ畑から離れてくれー!」


 子供達は俺の指示通り畑から少し離れた場所でしゃがみ込む。それを確認した後、俺は畑の中央へと歩いていき、スキルを発動させた。


「『成長促進』発動!!」


 スキルの発動と共に、ぐんぐんと成長していく綿花。実がはじけ、中から白い塊が現れた。暫くするとその白い塊がフワフワとした綿のボールへと変わる。この状態がコットンボールというらしい。


「よし、完璧だ!それじゃあ摘み取りチームの皆!怪我をしないように注意しながら綿を摘み取って籠に入れてくれ!」

「分かりました!」


 今度は大人の女性軍団に指示を飛ばして、綿花からコットンボールを摘み取っていく。この摘み取られた綿の事を『実綿』と呼ぶらしい。


実綿は日差しの良い場所で乾燥させた後、『綿取り機』と呼ばれる専用の機械で、種と繊維に分けることでその後の加工へ繋がっていく。だがこの世界にはそんなもの無いので、手作業で取り分けていくしかない。


 この作業を繰り返して、人数分の布団用の綿を確保するのだ。


 俺が二度目の種生成に取り掛かろうとした矢先、ミィミィに乗ったシズクちゃんが俺に声をかけてきた。後ろにはレインとオレット、それにマルクスも同席している。以前バハマの街へ行った三人だ。それに加え、最後尾には主婦代表のエレナさんも座っている。


「ナオキよ!お主に言われた通り、蔵にあった野菜とリンゴの半分を持ったぞ!!」

「おー、助かる!それと合わせて、壁の調査中に食べる予定だった食料も売ってきてくれれば助かる!」

「任せるのじゃ!その金で、布団に使う布と、裁縫用の糸と針を買ってくればよいのじゃな!?」

「そうだ!金が余ったら好きなものでも食べて来てくれ!」


 俺がそう返事をすると、シズクちゃんはとても嬉しそうに笑っていた。後ろに座る四人も心なしかちょっぴり笑っている気がする。まぁ街へ行くという大役を任せるのだから、それくらいの御褒美があっても良いだろう。


「ナオキ様―!もう摘み終わりましたよー!」

「ああごめんごめん!それじゃあ次の分行こうか!」


 お姉さま方から催促の声がかかり、俺は慌てて『種生成』のスキルを発動させた。


 こうして三つの村の環境改善作戦がスタートしたのである。

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