第23話 土地神先輩は許さない
第二の壁調査隊出発の日。俺達三人は浮かれに浮かれていた。だって仕方ないだろ?俺は今から未知の地へと向かうんだ。遠足気分になって眠れなかったことはどうか内緒にしておいて欲しい。
「ナオキ様、シズクちゃん様!どうかお気を付けていってらっしゃいませ!!」
「おおー!俺達が居ない間、畑の管理とか頼んだぞー!!」
村人達に見送られながら、俺達は第二の壁に向かって進み始めた。シズクちゃんが居てくれるお蔭で、手に持つような荷物は無い。念のために、エイリスさんが貸してくれた短剣を腰に下げてるくらいだ。
「それじゃあまずは、北へ向かって進みましょう!壁に到達したら、壁沿いに歩く形で範囲を調べるという事で良いですね?」
「大丈夫です!宜しくお願いします!」
俺は地図を広げて目的地を確認しているミリアさんに向かって頭を下げる。今回は先の依頼に引き続き、彼女達『戦乙女』のメンバーが同行してくれた。しかも、依頼という形ではなく、暇だから付き合ってくれるとのこと。
勿論、本音はそうではない。
「いいか、エイリス!ナオキの移動可能な範囲が分かれば、ウチらが依頼を受けるときに協力して貰えるかどうか分かるって事だ!分かってるよな!?」
「ええ、分かってますよ!ボブゴブリンの攻撃を無効化する存在ですからね。囮としても壁としても、治療役としても彼の存在は大きいです!」
「今後も移動可能な範囲が広がるわけですから、その内正式なメンバーになって貰うのも有りなのでは無いでしょうか!?そうしたらパーティーの名も帰る必要があるでしょうけど……」
昨晩、村を出発する前にルーシーさんとエイリスさんとミリアさんが蔭でコソコソ話していた内容がこれだ。要するに、俺をパーティーメンバーの一員として、引き入れたいがために、今回の調査を手伝ってくれている。
まぁ理由がなんであれ、調査に協力してくれるのはとてもありがたい。それに、移動可能な範囲が広がった際には、彼女達と行動を共にするのも悪くないと思う。大分親しくなれたし、それに美人だし。ただし、俺を囮にするとか壁にするとか言ってたエイリスさんだけはマジで許せない。
微かな怒りの矛先をエイリスさんへと向けていると、先頭を歩いている二人の方から和やかな雰囲気の声が聞こえてきた。
「へぇー!じゃあシズクンは元々、ハウレスト山脈付近に住んでたんですかー!」
「うむ!あそこは景色も良いし、良くしておった村落から近かったからのう!そこに『神殿』を置いて、暮らしていたのじゃ!」
「そうなんですね!それじゃあシズクンはナオキと違って、その付近からこの辺りまで移動できるということなんですか?」
フレイの質問に、シズクちゃんは頭を抱えて悩み始めた。ハウレスト山脈とやらがどこにあるかは知らんが、彼女の移動可能な範囲を知っておけば、今後の計画を建てやすくなる。
俺は慌てて二人へ近づき会話へ参入した。
「そう言えば俺も気になってたんだ。シズクちゃんて、元はトルネア領の筆頭土地神だよな?土地レベルはいくつなんだ?」
「元とは何じゃ、元とは!!……まぁよい!聞いて驚け!!」
俺の問いかけに一瞬ムスッとして見せたものの、直ぐに開き直ってニヤリと笑って見せるシズクちゃん。どうやら相当自信があるようだ。
「ワシの土地レベルは、なんと17じゃ!!」
「レベル17!?俺の8倍以上あるじゃないか!!」
「なははは!!これでもワシはトルネア領のほぼ全域を管理しておったからのう!まぁ管理と言っても、名ばかりじゃったが……」
何故か自爆してしょんぼりと肩を落とすシズクちゃん。俺はそんな彼女の隣で、今後の自分の伸びしろの大きさに期待で胸を膨らませていた。
「17もあれば移動範囲はかなり広かったんじゃないのか!?バハマの街なんて余裕で超えられるだろ!?」
「そうじゃのう。今まで生きてきた中で移動に困ったことは無かったかもしれん!」
誇らしげに胸を張るシズクちゃん。これは後でエイリスさん達に地図を借りて、何処まで移動できるか確認しておこう。
それにしてもレベル17か。一体何処まで移動できるようになるんだろうか。折角この世界で過ごしているのだから、帰れるようになるまでに色々な所へ行ってみたい。
「いつかは俺もそのくらいになるって事かー!そうなれば他の領地に移動できるかもな!」
「そうなったらフレイ達と一緒に色んな所へ行けますね!楽しみです!!フレイのおすすめはですね──」
フレイが嬉しそうにお勧めの観光地を俺に教えてくれる。彼女の話に耳を傾けながら、シズクちゃんの方へと顔を向けると、何故かシズクちゃんは険しい表情をして俺を見つめていた。
「どうした?俺、なんか変なこと言ったか?」
初めて見る彼女の表情に俺は思わず足を止めてシズクちゃんへと問いかける。すると、シズクちゃんは静かに話し始めた。
「他の領地へ往くのは構わん。じゃが、絶対にそこの土地神達とは会ってはならぬぞ」
「なんでだ?普通挨拶に行くのが常識ってもんだろ?」
勿論何か菓子折りを持って行くつもりだ。その位しておかないと、スムーズに土地の管理を譲ってくれるとは思えないからな。
そんな俺の安易な考えを吹き飛ばすかのように、シズクちゃんの怒号が響き渡った。
「馬鹿者がぁぁ!自分が管理している土地に、他の土地神が侵入してくるのじゃぞ!?殺されても文句は言えぬぞ!!」
「殺されるってそんな大袈裟な!というか、それならシズクちゃんだって俺の事殺そうとするはずだろ?」
俺はシズクちゃんに問いかけながら、この世界にやって来た日の事を思い出していた。
何の前触れも無くこの土地に現れて、今ではトルネア領の土地神ナオキとして崇められている。シズクちゃんの言う通りであれば、俺は殺されて当然の存在だ。
だがシズクちゃんは首を横に振ってそれを否定した。
「同じ領地を管理している土地神を殺せば、その土地の力は弱くなるのじゃ!だから普通の土地神はそんなことはせん!じゃが、他領の場合は違う!殺した土地神の力を奪う事だって出来るのじゃ!」
「そうなのか。そりゃ気を付けていかないとなー」
シズクちゃんの言葉に軽い返事で済ませた俺に対し、彼女は眉間にシワを寄せながら俺の胸倉を掴んできた。俺が真面目に考えていないと思っているのか、少し怒り気味だ。
「何を呑気に言うておるのじゃ!!殺されるかもしれぬのだぞ!?」
「それは分かったってば!だけど俺にも叶えたいものがあるの!それには土地レベルを上げなきゃいけないから、どのみち他の領地には行くことになるんだよ!」
シズクちゃんが心配してくれているのは分かるが、俺にも譲れないものはある。命を懸けても元の世界に戻りたい。祖父母が遺してくれた畑を見捨てるわけにはいかないんだ。
俺の覚悟を知らないシズクちゃんは、俺の放った言葉のせいで益々怒りを増して俺に詰め寄ってきた。
「土地レベルを上げるじゃと!?まさかお主、他の土地神が管理しておる土地を奪う気なのか!!?馬鹿な考えはよすのじゃ!本当に殺されてしまうぞ!!」
「あーもう分かったって!!殺されないように何とかするからそれで良いだろ!?今は調査に集中させてくれよ!!」
力づくでシズクちゃんを払いのけ、俺は一人で歩き始めた。後ろから叫び声が聞こえるが、俺は両耳を塞いで黙々とどのまま進み続けたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます