第7話 『水生成』と『成長促進』

「おおお!!!」


 音を立てながら水瓶に貯まっていく水を見て、歓喜の声を上げるトールさんとフランクさん。俺の手からはとめどなく水が流れ出ている。それから程なくして水は止まり、水瓶の中に一杯の水が溜まっていた。


 俺は二人に飲ませる前に、毒見係となって自らが出した液体を含んでみる。


「うん、ただの水だな」


 飲み慣れた味にほっとしながら、トールさんに柄杓を渡す。トールさんは恐る恐るといった様子で水を汲み、それをジッと見つめた後、口へと流し込こんだ。喉がゴクリと音を立て、彼の眼がカッと見開く。


「うまぁぁぁい!!!なんだこれはぁぁぁ!!」


 トールさんの叫び声に思わず身体をビクリと震わせる、俺とフランクさん。そんな俺達をよそに、柄杓に残っていた水を全て口の中に入れ、一瞬の内に飲み干してしまったフランクさんに問いかける。


「そ、そんなにですか?普通の水だと思うんですけど」

「これが普通の水?そんなわけありません!ほんのりしたに残る甘み、スッと喉を通る爽やかさ。これは『神水』と呼ぶに相応しいものです!」


 俺が生み出した水の味に興奮が抑えきれないトールさん。彼の様子に居ても立っても居られなくなったフランクさんがトールさんから柄杓を奪い取り、急いで口の中へと水を流し込む。そして数秒前のトールさんと同じように、雄叫びをあげていた。


「……これはまさしく『神水』だぁぁ!!!」


 そのせいで休んでいた村人達が何の騒ぎだと駆けつけてきて、結果的に全員が水を味わうこととなった。そして全員が『神水』だと言い始め、水が注がれたこの水瓶を『神の水瓶』と呼びだした。


 彼らの様子を見ると、俺が生み出した水はどうやら身体に害を与える事は無いらしい。問題は味の方で、村人達がここまで喜ぶ姿を見るとこの水のせいで暴動が起きそうな気がしてならない。


 この家の水瓶だけに『神水』があるのは不公平だと言うものが出てくることは予想できる。信仰Ptは後3Pt残っているし、他の家の水瓶にも補充することにしよう。


 本当は残しておいて『成長促進』に使いたかったのだが仕方ない。『神の水瓶』をどう扱うか議論している村人達に俺は声を掛ける。


「あのー後三回程これと同じ量の水が出せるんですが、どこに出します?出来れば全員で飲めるよう、共有の水瓶に入れておきたいんですが」

「なんと!では村の中央に三つ予備の水瓶を設置致しましょう!バハムにルルエ!予備の水瓶を空き家から持ってきて村の中央に設置しておくのじゃ!」

「はい!」


 ザイルさんが二人の名前を呼び指示を飛ばす。二人は目にも止まらぬ速さで水瓶を取りに駆けて行った。俺は二人の背中に「気を付けてー!」と声援を送り、残った村人達と一緒に村の中央まで歩き始めた。


 俺達が到着すると既に三つの水瓶が用意されており、その傍らで息を荒げ腰を下ろして休んでいる二人の姿があった。俺は村人たちが見守る中、一つ目の水瓶の前に歩み寄り、掌を水瓶の中へとかざす。


「それじゃあいきます。……『水生成』発動!」


 手のひらから噴出される大量の水。二度目ということで何とも言えない感覚にも慣れたが、村人達の盛大な感性には未だに体が慣れていない。


「おおお!ナオキ様の手から水が!!」

「これが『神水』……奇跡だ」


 そう言って拝み始める村人達の姿に少し照れながらも、俺は淡々と作業をこなしていった。三個目の水瓶に水を補充する間も、感謝の言葉を述べ続ける村人達を見ていると、本当に神様にでもなったような気分だ。


 全ての水瓶に水を放出し終えた俺は、水瓶から離れた位置へと移動し、村人達の様子を見守っていた。水瓶の中を確認し、涙を流すお婆さんや、「美味しいねー!」と喜ぶ子供の姿を見ていると、日本に帰れない不安な気持ちが少し無くなった気がした。


「これで水の問題は当面大丈夫そうだな。後は畑の方なんだけど……」


 俺はそう言って畑がある方へと身体を向ける。地質も改善したし、水やりについても最初は俺が管理すればいい話。問題は収穫までの間の食い扶持だ。村人達の食料に手を出すわけにはいかない。ひとまず森で木の実でも探すとするか。


「『成長促進』が使えれば良かったんだけどなぁ」


 俺は『水生成』を発動したことをほんの少し後悔しながら、信仰Ptの残高を確認する。何かが起きて増えていないかと思ったのだが──


――――――――――

『信仰ポイント』

土地神ナオキを信仰する者から貰えるポイント。20Pt保有中。

――――――――――


「嘘だろ!?今朝確認した時は5Ptだったはずだ!」


 目の前に浮かび上がってきた文字に動揺しつつも、俺は喜んでいた。今日過ごした中で、このPtを貰える要因があったということになる。20と言う数字が村人の人数と同じことを踏まえると、村人全員がやった行いと考えるのが妥当だろう。


「ひとまずPtの事は置いておいて、今は『成長促進』だ!トールさん、フランクさん!一緒に畑に行って貰えますか!?」


 村人達と嬉しそうに会話をしていた二人に声だけかけると、二人がついてくるのも確認せず俺は畑の方へと走り出した。畑に到着した俺は急いでピーマンの苗を植えた場所へと移動していく。遅れて到着したフランクさんとトールさんに、俺は支柱を立てるように指示を飛ばす。


 もう少し成長したらと言っていたのが気にかかったのか、二人は首をかしげていたが俺の言う事ならと直ぐに支柱を持ってきてくれて、一緒に設置してくれた。


 準備が完了すると、俺は畑の中央に向かって歩き出す。


「『成長促進』の効果範囲は『土地改善』と同じだから……ここだ!」


 目印をつけておいた場所へと移動し、『成長促進』の効果を再確認する。


――――――――――

『成長促進』

信仰ポイントを5消費して発動することが出来る。自分の管理する土地で育てている物の成長を速めることができる。発動範囲は自分を中心にとした10m四方。

――――――――――


「よし、問題ないな!成長を速めるって書いてあるけどどの程度なんだろう……まぁ物は試しだ。せめて実がなるくらいまでには成長してくれよ!『成長促進』発動!」


 俺は期待に胸を躍らせながらスキルを発動する。光が畑を包み込んだその瞬間、さっき植えたばかりだったはずの苗が、みるみる背丈を伸ばし始めた。支柱に絡みつく高さまで成長すると、その枝から小さな実が生まれ、やがて実は大きなピーマンへと成長していった。


「おおおお!」


 その様子に、俺だけでなく傍で見ていた二人も一緒に声をあげる。光が収まったときには、全ての苗が収穫できる状態にまで成長していた。


 俺ははやる気持ちを抑えて、近くに実っていたピーマンを一つ手に取り口の中へと運ぶ。幾ら成長が早かろうと、味が悪かったら意味が無い。だが俺の心配も杞憂に終わった。


「……美味い。美味すぎる!!」


 俺はピーマンの美味しさに打ち震えながら、抱えていた食料問題の悩みを解決したことに胸を撫で下ろしていた。

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