第6話 『土地改善』
作業開始から半日後、村人全員の協力があったおかげで、予想よりも早く二つ目の畑が出来上がった。畑の長さは縦横共に俺の三十歩分である。俺の歩幅が約1mなので、面積は900平方メートルといったところだろう。
「皆さんお疲れ様でした!ひとまず休んでください!」
俺がそう言うと村人達は地面に腰を下ろして休み始めた。ぐったりしている村人達の姿を見ると、やはり今はこの畑を全面使うより、スキルを使って食料の確保を急いだほうが良い気がする。
俺は村人達と共に少量の野菜を食べながら、午後の活動について思案していた。
「『土地改善』をしてから種を植えて、その後に『成長促進』を使ったほうが良いか。残りの信仰Ptは5Ptだったはず。そうなると『土地改善』をやったら『成長促進』が使えなくなる。どうするか……」
水やりの事を考えると、『水生成』も使う必要が出てくる。きっと村人達も自分たちの分の食糧は確保していることだろうし、ここは消費Ptが多い『成長促進』は使わずに、『土地改善』を使うことにしよう。
「『土地改善』のスキルは……自分を中心に10m四方が範囲か」
スキルの内容を確認し、畑の端から歩数を数えながら歩きだす。そして畑の端がスキルの範囲である四方の四隅になるように調整し、俺はスキル発動を試みた。
「『治療』の時は頭に思い浮かんだら文字が浮かび上がってきたけど、口に出すだけじゃだめなのか?『土地改善』発動!とか──」
発動と口にした瞬間、俺の目の前に文字が浮かび上がってきた。
『改善内容が想像されていません。それでも実行しますか? はい/いいえ』
「おおっと危ない。自分が改善したい内容を想像しながら発動させなきゃいけないのか。信仰Ptの無駄遣いをするとこだったぜ」
俺はフランクさんが持ってきた野菜の種類を思い出し、それに見合う土質を記憶の中から探りだす。
「ジャガイモは収穫に時間がかかるし、トマトは少し面倒だ。やはり安定のピーマンで行くか」
ピーマンは多湿を嫌う野菜のため、水はけの良い土で育ててやる必要がある。後は有機肥料に含まれる炭素、ケイ酸や石灰、リン酸にマグネシウムにマンガンといったところか。
「うろ覚え過ぎてあってるか分からないけど、まぁこんなところだろ。含有率までは覚えてないからそこは良い感じで頼む……『土地改善』発動!」
今度はしっかりと改善内容を想像しスキルを発動させる。すると俺を中心とした10m四方の地面が光だし、瞬く間に元の地面へと戻っていった。
「おおお!!」
周囲で休んでいた村人達が光を見て騒ぎ出す。俺はその間に土の感触を確かめたり、範囲外の土との差を確認していた。
「……よさそうだな!トールさん、フランクさん!ちょっとこちらへ来ていただけますか!」
二人を呼びつけた俺はピーマンを育てるための指示を出す。
「ここにピーマンを植えようと思うのですが、苗はありますか?」
「ピーマンですね!丁度植えようとしていたものがあります!」
「ではフランクさんはそれを持ってきてください!その間にトールさんに説明をしますから」
「分かりました!」
こうしてフランクさんが苗を取りに村へ向かい、俺はトールさんにピーマンの育て方の指導を開始した。本来であれば黒マルチといった乾燥防止するものが欲しかったのだがそれは無いので、諦めることにする。
「畝の幅は80cmくらいで、苗の間隔は50cmくらいの等間隔になるようにします。苗がある程度成長してきたら支柱を設置しましょう。それと水やりについてですが、ピーマンは多湿を嫌うので地面が乾燥しきってから水をやるようにしてください。それと──」
「ちょ、ちょっと待ってください!80cmとはどのくらいなのでしょう?」
長さの説明に戸惑うトールさんを見て、この世界ではcmの概念が通用しないことを理解した。
「えっと、俺の歩幅が1mくらいですのでそれよりも短いくらいです。大体で良いのでこのくらいと覚えておいてください。因みに50cmは俺の歩幅の半分くらいのことです」
「わ、分かりました!ナオキ様の歩幅の少し短いくらいと半分くらいですね!」
ひとまず納得して貰えたみたいなので説明を続行した。指導を終え、トールさんと話してみたところ基本的な育て方は俺がしっていたものと合致していた。しかしここで問題に上がったのが、水のやり方についてである。
どうやら彼等は水のやりすぎというモノを知らなかったようで、これでもかという程あげていたらしい。しかも、水は村から離れた森の中にある泉から汲んできていたそうなのだ。村にあった井戸が枯れてしまったせいで、生活水もそこから汲んできているとのことだった。
「水やりは土の湿り気が無くなってからでいいんです!あげすぎると逆に成長を妨げてしまいますよ!」
こうして激しめの指導が無事終了したところで苗を持ったフランクさんが帰還した。俺達は三人で畝作りと苗植えを開始し、二時間後には完璧な畑が出来たのだった。流石に疲れてしまった俺は休憩を取ろうと二人に提案する。
「水分補給しましょうか。なにか水を溜める物ってあります?」
俺が発動しようと考えている『水生成』は手の平から10リットルの水を排出するらしい。だから何もない所で発動してしまうのは勿体ない。
「それでしたら近くの家に水瓶があります!」
トールさんの案内の元、畑の近くにあった家に歩いて行った。家の脇に置かれた水瓶の蓋をトールさんが持ち上げる。中を覗くと、そこにはほんの少しの水しか入っていなかった。
「さぁナオキ様!どうぞお飲みください!」
笑顔のフランクさんから、ひしゃくのような物を渡され、水瓶の中から水を抄うと、残りはホンの僅かになってしまった。とてつもない罪悪感が身を襲い、スキルを使おうと手の平を水瓶へと向ける。スキルを発動しようとした寸での処で、一つの不安が頭をよぎった。
「あのぉ……俺の手から水が出たとしたら、それ飲めますかね?気持ち悪くないですか?」
幾ら土地神様だと言ってくれていても、流石にそれは無理があるだろうと不安になる。もし拒否された場合、水調達の件を考え直さなければいけないのだが。
「ナオキ様の手から出た水!?そんな神々しいもの我々が頂いても宜しいのですか!?」
「寧ろ飲んで貰えると有り難いんですが……抵抗感とかないです?」
「全くございません!ナオキ様が生み出された水という事は『神水』ということ!それを頂戴できるなど、身に余る光栄でございます!」
「そ、そうですか。それじゃあ……『水生成』発動!」
瞳をキラキラさせながら詰め寄ってくるトールさんに若干引きながら、俺はスキルを発動させる。その瞬間手の平から大量の水が勢いよく噴出された。何とも言えない感覚に、思わず苦笑いを浮かべる。
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