第4話 土地神の力

 部屋の中で一人、俺は覚悟を決めていた。今から問いかける質問の返答次第で、俺の未来が全て決ってしまうのだから。


 宴がお開きになり、そのままザイルさんの家で休ませて貰うことになったのだ。先程の奇行は神託があったと、でまかせを言ってなんとか納得して貰えたので、村人達は俺の事を土地神様と認定してくれたままである。


 一人きりになり冷静になった俺は、静かに願いを口にした。


「日本へは帰れるのか?」


 俺の予想が合っているのであれば、文字は答えをくれるはずだ。その答えがどちらであったとしても、俺は受け入れなければならない。その覚悟を決めるために、数時間もかかったのは言うまでもない。


 俺の目の前にゆっくりと文字が浮かび上がってきた。


『日本への帰還について:可能』

「よっし!!」


 その文字に俺は思わずガッツポーズする。不可能だと思っていた日本への帰還が出来ると知れただけでも、今の俺には最高の知らせである。


「次は、どうやって日本へ帰るかだが……」


 方法が分かりさえすればその手順を追っていけば良いだけ。だが、浮かび上がってきた文字は、俺の望みを拒絶するものだった。


『帰還方法について:現在の土地レベルでは閲覧不可』

「また土地レベルかよ。はぁ……どうやれば上がるのかねぇ」


 俺の言葉に見慣れた文字が浮かび上がる。『一定の条件』というモノが何なのかわかりさえすれば、頑張り甲斐もあるのだが。


「まぁとにかく日本へ帰れるって分かっただけでも良しとしよう。後はこれからどうするかだなぁ」


 堅い床に寝そべり、天井を見つめながら一人呟く。街への移動に制限がある以上、しばらくの間、俺の活動拠点はミモイ村という事になる。


 正直不安で一杯だ。今ですら村人達が十分な栄養を取れていないというのに、そこに育ちざかりの男がもう一人加わると言うのだから。


「自分の命も大事だけど、だからってあの人達の生活を苦しくしちゃだめだよな」


 食事状況を圧迫させず、尚且つ俺の目的を遂行させる。そのためには村の状況を知らなくてはならない。そうなると、村人達が俺の事を土地神だと思ってくれてラッキーだったな。怪しい男が村を見て回りたいと言っても、絶対に案内して貰えないだろうし。


「野菜が有るってことは多分畑があるだろうし、俺の知識も役に立てられるだろ」


 男子高校生だと言うのに、爺ちゃんの畑仕事ばかり手伝わされていたのが功を奏した。この世界の野菜について教えて貰えば、もっと立派な物を育てられるハズだ。


 問題は野菜が育つまでの間の食糧問題。そこは明日、村の人に聞いて主食をどうしてるいのか確認しなければ。俺が役に立てないようなら、別の方法を探さなくちゃならないし。


「そうだ! この村の人の主食は?」


 俺はさっきまで使っていた文字の事を思い出し、空中に向かって問いかけた。しかし、文字は浮かび上がることなく、誰も返事を返すこともなかった。


「この質問には答えられないってことか。じゃあ俺には何が出来るんだ?」


 文字が浮かび上がらなかったことに対し、少し悲しくなりつつも、俺はめげずに問いかけを続けた。そして今度の問いかけには、文字が浮かび上がってくる。その多さに、俺は驚愕した。

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発動可能スキル

治療(信仰Pt5)

土地改善(信仰Pt1)

種生成(信仰Pt5)

水生成(信仰Pt1)

成長促進(信仰Pt5)

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「なんだこれ!これが俺に出来ること……いや発動出来るスキルってことか!?」


 浮かんでいる文字に目を通す。俺が発動できるスキルは全部で五つ。治療は子供を直した時に使ったやつだろう。後のスキルは、見るからに農作業に関係してそうなスキルなんだが。


「まぁ一個ずつ聞いていけばいいか」


 俺はそう言うと治療のスキルから頭に思い浮かべ始めた。


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『治療』

信仰ポイントを5消費して発動することが出来る。怪我や病気を治すことが出来るが、肉体から欠損した部位は治すことが出来ない。発動範囲は自分を中心にとした10m四方。

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『土地改善』

信仰ポイントを1消費して発動することが出来る。自分の想像した地質に改善することが出来る。発動対象は自分が管理する土地のみ。発動範囲は自分を中心にとした10m四方。

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『種生成』

信仰ポイントを5消費して発動することが出来る。自分の想像した種を5個生成することが出来る。なおこのスキルで得た種は、自分が管理する土地以外に植えても育たない。

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『水生成』

信仰ポイントを1消費して発動することが出来る。自分の手のひらから水を10リットル生成することが出来る。

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『成長促進』

信仰ポイントを5消費して発動することが出来る。自分の管理する土地で育てている物の成長を速めることができる。発動範囲は自分を中心にとした10m四方。

――――――――――


 全部のスキルを確認し終えると、俺は安心してホっと息を吐いた。


「なるほど。このスキルがあれば食糧問題は解決出来そうだな。それに水も全員にあげられるぞ」


 誰かが怪我をしても、俺が治せてやれるのはかなり使える。気になるのは信仰ポイントというものだが、どのスキルを発動させるのにも必要になっているし、その消費量はスキルによって違うようだ。


「信仰ポイントってなんなんだ?」


 そう口にすると、スキルの詳細が書かれていた文章が消えていき、新たに文字が浮かび上がってきた。


――――――――――

『信仰ポイント』

土地神ナオキを信仰する者から貰えるポイント。5Pt保有中。

――――――――――


「……やっぱり俺は土地神なのか。まぁその方が過ごしやすいから良いんだけどさ」


 俺を信仰する者から貰えるってことは、今日何かしらの形で村の人から貰ったってことになるな。今保有している5Pの使い処もしっかりと考えないと。もしかしたら頻繁に手に入らないポイントかも知れないしな。


「ふわぁ……眠くなってきたな。明日に備えて寝るとするか」


 ザイルさんから頂いた布を身体にかけ、瞼を閉じていく。


「なんで俺がこんな目に合わなきゃいけないんだ。俺に何しろって言うんだよ」


 不安が頭を過り、俺は愚痴を漏らしながら夢の中へと落ちていく。その問いかけの答えが、目の前に浮かび上がっているとも知らずに。

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