土地神に転生した俺、最強領地を築く!〜弱小領地から始まる異世界建国記〜
宮下 暁伍
第1章 土地神に転生したんだけど
第1話 土地神なんかじゃない
「お助け下さい土地神様!貴方のお力が必要なのです!」
目の前が真っ暗になって急に明るくなったと思ったら、今にも死にそうな表情をした爺さんが俺の前に膝をついて座っていた。その爺さんの後ろには何人もの人が同じように座っている。
その人達が俺の顔を見るや否や、涙を流しながらそんなことを言い始めた。土地神様?なんだそれは。俺は後ろへと振り返り誰かいないか確認するも、俺以外の人間は誰もいない。
「あーっと……すいません!俺行くとこありますから!」
俺は右手を前に突き出し、その場を後にしようとする。ここがどこだかは分からないが、変な宗教に捕まるのは御免だ。こいつら、俺を教祖にしてなんか悪いことしてくるに違いない。もしかしたら幸せになれるツボとか買わせられるかもしれない。
そうなる前に、一秒でも早くこの場を切り抜けねば。
「お待ちください!どうか我等をお助け下さい!このままでは、皆がしんでしまいます!」
逃げ出そうとした俺の服を土下座をかましていた爺さんが鷲掴みにする。その爺さんに続き、後ろで傍観していた婆さんや大人達も俺の体を掴み始めた。
「放せぇぇ!俺は教祖にはならないぞ!幸せになれるツボも買わないからなぁぁ!」
身の危険を察知した俺は、火事場の馬鹿力を発揮して拘束を振りほどく。と言っても、予想よりも大人達の力が弱かったために、簡単に振りほどくことが出来た。
「きょ、教祖?幸せになれるツボ?なんですかそれは?」
俺の言葉にキョトンとする大人達。
「とぼけたふりするな!そうやって俺をだますつもりだろ!」
「滅相もございません!我々は土地神様のお力で、村に居る子供達を救っていただきたいだけなのです!」
爺さんがそう言うと、大人達は再び膝をついて涙を流しながら地面に頭をつけはじめた。
「土地神様、どうかお願いします!子供達をお救い下さい!!我らの命を使っていただいて構いませんから!」
彼らの必死の形相に、どうやら彼らの言っていることは本当のようだと理解した。教祖にされなくて済むと安堵したのと同時に、申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになった。
「申し訳ないんですけど、俺は土地神様じゃないです。橋本尚季、十八歳。花の男子高校生です。もしかしてここは群馬県ですか?それとも日本じゃないとか?でも日本語は通じてるし、ここは日本か……とにかく、すいませんが俺は土地神様じゃないです!」
自己紹介と共に、俺は頭を下げた。彼らが言う土地神様ではないのだと。とにかく俺は一刻も早く自宅に帰らねばならない。畑仕事がまだ済んでいないのだから。
頭をあげ、彼らの方へ視線を送ると全員が口を開けてポカーンとした表情を浮かべている。
「あのぉ、聞いてます? ここはどこでしょうか?」
俺は目の前に居た爺さんに再度問いかけた。爺さんはハッとして俺の質問に答えてくれた。
「ここはミモイ村です」
「ミモイ村?聞いたことないですね。どこの県でしょうか?」
「『けん』というモノが分かりませんが、ここはダルフェニア王国のトルネア領でございます」
老人の口から出た言葉に、俺は苛立ちを覚えた。自分達が切羽詰まった状況にいるというのに、俺が目的の神様でないと分かったらそうやって意地悪をしようとする。なんて酷い奴らなのだ。
俺は少し声を荒げながら再度爺さんに問いかけた。
「そういう冗談とか良いですから!ここは日本のどこですか?」
「『にほん』?なんですかそれは?」
それでも冗談をのたまう爺さんに、我慢の限界が来た俺は彼の胸倉を掴みながら声を荒げた。
「だからぁ!良いですってそういうの!早く教えてください!俺はさっさと家に帰りたいんですよ!!」
「お、落ち着いてください!本当に知らないんです!私共が今居る場所はダルフェニア王国の領土であり、ミモイという名の村なんです!」
爺さんは俺の言動に困惑しながらも、再び『にほん』の存在を知らないと述べた。そんな馬鹿なことがあるかと、後ろにいる大人たちへと視線を向ける。すると彼らも爺さんと同じように、俺の言動がおかしいという表情を浮かべていた。
先程まで向けていた『敬い』や『期待』と言った視線ではなく、狂った人間を見ているかのような視線を向けられた俺は、自分が置かれている状況を理解した。
「嘘だろ……」
爺さんの胸倉を掴んでいた手を放し、一歩二歩と後ろへ下がる。
「意味わかんねぇ。なんだよ、これ……」
想像したくもない現実を目の当たりにし、俺は膝をついて固まった。夢であってほしいと、何度も何度も頬をつねる。だが一向に眠りから覚める気配は無い。
激しくなる胸の鼓動と、足に伝わる地面の冷たさが現実であることを俺に教えてくれた。
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