剣試合
第2話
「ミラ! ミラ!」
「うう……」
少年シーヤはベッドで苦しげにうめく少女の名前を呼ぶ。しかしそれで少女の体調が戻るはずもない。
「これは、セキア病かもしれない」
ベッドの傍らに立つ村長の言葉だ。
「そんな」
ミラが体調を崩したのは春となって暖かくなった時期だった。寒い冬は元気だったのにと、最初はただの風邪だと笑っていたが、だんだん症状が重くなるとベッドから起き上がることもできなくなった。
「セキア病の薬はあるんだよね」
「あるが高価だからな。とうてい買える値段ではない」
「…………」
シーヤはうなだれた様子でミラの家から出ると、力なく歩きだした。村のなかをトボトボと歩きやがて周りに家の姿がなくなる。ここは村の外れで、目の前には木々で見通しが悪い細い山道だけがあった。シーヤはそのまま山道を歩いていく。
しばらくすると、そこだけ木がない空間があった。それほど広い面積ではないが、そこに小屋のような家が一軒見えた。
「どうした」
ノックもせず扉を開けたシーヤに、家の住人はしわがれた声で言った。
狭い部屋で椅子に座っていたのは白髪の老人だ。髪の毛は耳が隠れるほどで、前髪は長く目が隠れてしまっている。
「師範……ミラがセキア病だって……薬もないって」
「セキア病か。わしが若い頃にはやり多くが死んだ病だな」
「なんとかできないかな……」
シーヤ自身もできることはないとわかっていた。それでも言わずにいるきとはできなかった。そのままシーヤは立ち尽くす。
「剣を振れ。その間は無心になれる」
師範は剣を放り投げ、それをシーヤは両手で受ける。しばしそのまま動かなかったが、背中を向けて力ない足取りで歩いていった。師範はその背中を見て小さくため息をついた。
「フッ! フッッ!」
シーヤは何度も剣を振る。上から下に、そこから斜めに切り上げると剣を寝かして腰の横に構え横へ。流れるような動きは、師範である老人から教えられた剣術の型だ。十歳の頃から五年間何度も繰り返したその動きは、シーヤが十分な実力を持つ剣士であることが見てわかるほどだ。空を斬る剣先は鋭い音をたてる。
「はあ、はあ」
いつの間にか日が落ちようとしていた。周囲を木々に囲まれたここはすでに地面が見えにくいほど暗い。
シーヤは師範の家へ向かおうとしたが、一歩踏み出した足を止めた。そのまま硬直していたが、足の向きを師範の家から村の方へ向けると歩き始める。師範に返さなければいけないはずの剣を持ったままで。
次の日の早朝、太陽がほんの少し顔を見せただけでほとんどの人が寝ているなか、一軒の家の扉が開いた。出てきたのはシーヤだ。小さな袋を背負い、所々に穴の空いたマントを着ている。
「いってきます」
シーヤは静かに扉を閉める。
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