第39話 五年生 明石海峡大橋

*5年のクラス替えの話

 5年生になるとクラス替えがあり、4年生の時の校舎とは少し離れた校舎に通うことになった。『1、2組は1階』『3、4組は2階』という風に分かれており、プリントを見て確認すると、ぼくは2組になったようだった。担任の先生は永谷先生という女性の先生で、明るくて面白そうな感じの先生だった。

新しく同じクラスになった子たちは、見たところ明るそうなタイプの子が多いようだった。前のクラスで一緒だった子が今度のクラスでは何人か一緒だったので、最初から知っている子が何人かいる分4年生の時のような不安はなく5年生をスタートできた。


 そんな5年生のある日、担任をやってくれた、ながたに先生から、面白いものを見せてもらったことがある。小学生の時には、落し物があるとみんなの前で誰のものか確認するのだが、その時に誰も名乗り出ないということがたまにあった。

 日本人特有の気恥ずかしさからなのか、単に不要だと判断したのか、教室に落ちているということは確実に誰かのものだと思われるのにだ。


そんな時にながたに先生が、「もし今、言いにくかったら、後で先生のところに言いにきてね」と前置きをした。

まず、エンピツの後ろの方を持って上下に揺らしてフニャフニャに見えるというものを見せてくれ、みんな興味を持って次々に自分のエンピツでマネをしていた。

 次に、ハサミを空切りして見せて「これはハサミの刃に悪いからホントはやっちゃダメやからね」と教えてくれた。


 それと、分度器が落ちていた時、もし道に迷った時に方角が分からなくなったら『南』がどっちか知るために『時計の短針を太陽の方に向けて、文字盤の12との間が南』だというちょっとしたウンチクを教えてくれたりもした。

 あと、定規と言えば、5年生の時には『定規プロレス』という定規をペンで押さえつけてはじいて机から落とす遊びをよくやっていた。定規がくるくる回転したり、定規の下にペンを入れて自分の定規を叩いて、相手の定規を飛ばすというのもOKで、皆でかなり盛り上がっていた。



*明石海峡大橋についての話

小学校5年生の1998年4月に兵庫県神戸市垂水区と淡路市岩屋を結ぶ明石海峡大橋が完成し、当時世界最大のつり橋であったため、世間的に大きく話題になった。その際に約10万人が、その橋を歩いて渡れるというビッグイベントが行われ、抽選の結果なんとうちの家族4人もそれに参加できることになった。

当日は車で行くのは近隣の迷惑になるということで禁止されていたため、電車でJR垂水駅まで行って橋へと向かった。いざ橋の前に立ってみると、その壮大な規模に思わず圧倒されて感動した。


実際に橋を渡ってみると、1時間くらいで4キロの道のりを歩いて淡路島まで行くことができ、それから一息ついて本土まで戻って来た。大勢の人が一斉に歩いている様はなんだか滑稽で面白く、みんな笑顔で活気があって楽しかった。

この頃は『関門海峡』が1973年11月に山口県下関市と福岡県北九州市とを結び、『青函トンネル』が1988年3月に青森東津軽郡と北海道上磯郡を結び、『瀬戸大橋』が1988年4月に岡山県倉敷市と香川県坂出市とを結んだりと、社会にかなり伸びしろがあった。


九州、北海道、四国、淡路島の順に本州と繋がって行き、少し暗い雰囲気が漂い始めてはいたものの、チャレンジできる精神を持った人が多かった。だが、ぼくはこれからの日本も負けてはいないと考えている。『東北新幹線』や『九州新幹線』、『リニアモーターカー』など交通網の発展は目覚ましく、技術革新も日進月歩で行われているのだ。


「日本は終わった」と言って嘆いているよりは、これからできることに目を向け、追い抜かれてしまった中国、昔からの憧れである米国を、追い抜く日が来てもおかしくはないと思っている。

大切なのは現状を悲観するのではなく、しっかりと知力・体力を整えて成長し、時代遅れの集団とは離別して、金銭を稼ぐために自ら身を立て、捨て身の覚悟を持って明日への活力を見出して行くことではないだろうか。



*イトマン兄弟の話

ぼくと妹は神戸に引っ越してからすぐに、千葉で通っていたスイミングスクール『キッコーマン』の系列である『イトマン』に通うことになった。だが、これには問題があり、このイトマンはぼくの住んでいた東灘区から車で40分ほど離れた灘区内にあって結構遠く、いつも母に車で送ってもらっていた。


仲スポやJSSといったスイミングスクールが近くにあって、どちらもレベルが高く、イトマンに引けを取らないのだが、母は要領が良いタイプではなく、前にもらっていた級をそのまま使えるからと言ってイトマンを選んでいた。

大葉小で参加していた『ミニバス』を続けたかったのだが、母が探し方が分からないと、この地域にはないと思い込み(本当はあった)、結局続けることはできなかった。そのこともあり、その頃は水泳一筋で熱心に週2回ほとんど休まず通っていた。


ぼくはこの頃から指が逆に曲がって手の甲まで着き、腕が背中の後ろにベッタリ着くほどに体が柔らかったので、イトマンでできた友達に見せては驚かれたりしていたのだが、そこではイトマンに長年通っている兄弟が居て、その二人はぼくの1コ上と1コ下の年であった。

毎回進級テストがある度に兄の方とタイムを競い合っていて、千葉で通っていたキッコウマンでは負けなしだったので、彼はぼくにとって初めてライバルと言える存在だった。ライバルがいた方が記録が伸びるというのをこの時ぼくは実感できたこともあり、この二人とは仲良くしてもらっていたのを覚えている。


 弟の方はプールに来る前に遊んでいたと言う『遊戯王カード』を見せてくれ、ぼくたちの地域ではまだやっている子が少なくて珍しかったので凄く興奮したことや、学校でのいろいろな出来事を話してくれて、他校の生徒と交流することで自分の世界が広がって行くのも楽しかった。

 結局1級の上の特急になるのは先を越されてしまったものの、彼が卒業して中学に通うようになる時にはタイムで勝てていたので、水泳に対する自信は失わずに済んでいた。


 また、プールに関する思い出はもう一つあり、一度だけ母が「今日だけね」と言ってプールを休むことにしてボウリングに連れて行ってくれたことがあった。父に言うとプールを休んだことをかなり怒られてしまうと予想されたため絶対に内緒という条件付きであり、普段厳しい母親に甘やかされたことがかなり嬉しかった。

そして、この時初めてスコアが150を超えたこともあり、幼少期の楽しかった思い出として今でも脳裏に焼き付いている。



*家庭科の授業の話

 体質が古い時代には、男子は工具を使って『技術科』、女子は裁縫道具や調理器具を使って『家庭科』の授業を受けていた。だが、ぼくらの時代にはそれはもう古いということで、小学生の間はその二つを合わせた『生活』という授業を受けていた。


 5年生の時にはわりと本格的に料理をやって、昼食としてそれを食べるようなことがあった。どんなやり方で料理を作ったかは大人になったら忘れてしまったが、コンロに火を点けてフライパンを熱して使うという『経験』をすることによって、料理をすることに対する抵抗が薄れたという効果があったように思う。


 同じクラスの小坂は家でよく料理を教えてもらっているということで、卵の溶き方などもかなり洗練されていて凄いと感じた。後で知ったことだが、自然学校で一緒だった三村も家で料理をやっているらしかった。それを知って、“ええとこの子はテニスと料理をやっているんやな”と妙に納得したのを覚えている。小坂は、


「こんなん簡単やん」と言っていたが、

ぼくは慣れていなかったので、結局、目玉焼きだけできるようになった。それからは家で目玉焼きを焼くのが習慣になり、片面焼きの『サニーサイドアップ』や、両面焼きの『ターンオーバー』など色々な焼き方を試して行った。


 また、裁縫の授業では、泊りがけで行く自然学校で使う布製の『ナップサック』を作るということをやった。ぼくはわりと手先が器用な方なので、裁縫は苦にならずむしろ楽しいと思うくらいだった。『ニードルスレイダー』と呼ばれる銀色で女性の顔が彫られている糸通しを使って糸を通すのが、洗練された仕事をこなす熟練工のようで好きだった。


 ここでやった『返し縫い』というやつが後々かなり使える方法で、要領としては2マス進んで1マス戻るというような手法であった。こういう授業はかなり実用的で大人になった今でもかなり役に立っているので、これからも変わらず教え続けてほしいと思う。


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