第30話 仲山第一小学校

*仲山第一小学校の話

 神戸にある小学校は他の地域とは少し違っていて、それは『校舎に土足で入る』ことだった。これは今まで上履きを履いて生活していたぼくにとってかなり衝撃的だった。


母が言うには震災前までは神戸は世界一の貿易港で、外国人が多く出入りしていたため、靴のまま家に上がるという欧米の文化がそのまま根付いたんじゃないかということだった。


 ただし、体育館だけはロッカーに入れてある『体育館シューズ』を使っていて、マット運動とか、バスケットボールをやる時には普段履ている靴から上履きに履き替えていた。

そして、これは大葉小が特殊であっただけなのだが、出席番号が誕生日順から『名前の順』になったことにも戸惑っていた。


だが、土足で校舎に入るのは最初ためらったものの、名前が『お』から始まるので番号が5番になったこともあり、出席番号が変わったことにはそれほど戸惑いはなかった。


それよりもここへ来て一番ためらったのは『方言の違い』だ。標準語圏の人間からすると『関西弁』というのはかなり異質なものに聞こえ、子供だったぼくは転校してからの3ヶ月くらいはずっと“千葉に帰りたいと“思っていたものだった。


転校初日、クラスの係を決める時にみんなが『ニチバン』という聞き慣れない係の取り決めを話し合っていて、それが終わるまで何のことか分からなかった。後日実際にやってみるとそれは『日直』のことで、関西ではそれを『日番』と言うらしい。


当直と当番のような言葉の違いから、連想できそうな話ではあったが、まだ人生経験の浅い少年には、少々難しい話であった。同じ日本なのにこうも違うのかということを子供ながらに感じる日々であった。



*ドッヂボールの思い出の話

 大葉小にはクラスのボールというものがなかったのだが、この仲山第一小学校には『ドッチボール』と『バスケットボール』が1個ずつ各クラスに割り当てられていた。これはぼくにとってはとても嬉しく、『ドッチボール』をやったことがなかったぼくは転校2日目にみんながやっているのに混ぜてもらうことができた。それは、初日に話した虎山くんが声を掛けてくれたらだ。


「この子も寄したろうや」

 この『寄せる』というのは関西特有の表現で、『仲間に入れる』という意味で使われていた。ぼくはこの言葉を教えてもらってからというもの、授業の間にある10分の休み時間の時には、


「おれも寄して!」と言って『ドッチボール』の輪に入れてもらっていた。消極的な子はこの一言が言いにくいと聞くが、当時のぼくはあまり深く考える方でもなかったので、『拒絶されたらどうしよう』とかは考えず普通に言えていた。この『ドッチボール』を通して友達の輪が広がり、ぼくはこの遊びが凄く好きになって行った。


休み時間の間は毎回クラスの子とやるようになっていて、普段の授業の時よりも運動をやっている時の方が友達とも仲良くなりやすかったので、この学校でボールがあって遊べたことは、ぼくにとってかなり大きくてありがたいことであった。



*馬が合わない奴の話

4年生になって仲山第一小学校に通うようになり、麻木という子と同じクラスになったのだが、この子とはどうしても反りが合わなかった。この子は左利きでドッヂボールが強く、野球をやっていたので足が速かった。


 そして家庭環境がよくなかったようで、4年生になる時に母親が再婚しており、前の苗字である平川と呼ばれることと、左利きに対する差別用語である『ギッチョ』と呼ばれることを酷く嫌っていた。タイプが似ていたことで仲良くなる場合もあるのだろうが、ぼくらの場合はライバル意識が強く、事ある毎に喧嘩になっていた。

彼とは今でも記憶に残っている出来事があり、


「次って音楽やっけ?」

「いや、体育じゃん」

「じゃんってなんやねん!!」

「え、普通にしゃべってるだけなんだけど――」


「お前のその関東弁ムカつくんじゃ」

「そんなこと言われても――」

「うるさいんじゃボケ」

「なんだよ、殴ることないだろ!ぼくが悪いんじゃないんだ!!」


という具合で殴り合いの喧嘩に発展し、彼とは犬猿の仲になって行った。そして、このことがあってからぼくは“このままではマズイ”と感じ、『標準語』から『関西弁』に直すことを決意した。


だが、誰かが教えてくれるというわけでもないし、みんなが話すのを聞きながら直していくのは思いのほか難しかった。特にイントネーションが難しく、5年生になる頃までは『標準語』と『関西弁』が混ざった変な話し方になっていた。


それでもその甲斐あってか、5年生になるころには一応ちゃんとした『関西弁』と言えるものが話せるようになっていて、胸を張って5年生を迎えることができた。人と仲良くなるにはまず自分から歩み寄ることが大切であるが、そのことがこの年頃の時には分からないものであった。




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