第19話 おじいちゃんとおばあちゃん

*千葉の家での思い出の話


 ぼくが小学校低学年生だった頃、あすみが丘では『住宅ブーム』が巻き起こっていて、横にたくさん列がある緩い坂道の両側に、『黒い家と白い家が交互に並んで』建っていた。ぼくらはその中の1件を借家として借りていて、『坂の下から5番目の屋根が黒い方の家』だった。日本の家屋には珍しく1階2階両方にトイレがあり、1階には風呂、キッチン、リビング、畳が敷かれている寝室があって、ぼくはそこで母と妹と3人で寝ていた。


2階には父の寝室、ぼくの部屋、妹の部屋があって、それぞれが自分の趣味の物を置いていた。外にはレンガ作りの駐車場と、車2台分くらいの芝生の庭があり、そこで父とサッカーをしたりキャッチボールをしたりしていた。たまにボールが母の家庭菜園に入ってしまって怒られたり、冬になると芝生の上に綺麗に雪が降って、それを使って雪だるまや雪うさぎを作ったりしていた。


 また、ぼくがとても気に入っていて、この庭でよく遊んでいたのが、『竹馬』と『ホッピング』だった。『竹馬』は身長と同じくらいある2本の棒に突起がついていて、そこに乗ることでバランスを取りながら自分の足のように使って歩くという乗り物だった。


『ホッピング』は、工事現場にあるドリルのような形をしていて、バイクのハンドルのような部分を持って、下側にある横に広がっている乗る部分に足を掛けて、そのさらに下にある大きめのバネを使って1本足でジャンプする、という乗り物であった。どちらもバランス感覚をやしなうのに適しており、『竹馬』で片足でジャンプしたり、『ホッピング』で庭を一周したりして楽しんでいた。



*おじいちゃんとおばあちゃんが泊まりに来てくれた話


 小学校2年生の冬、おじいちゃんとおばあちゃんが、ぼくら家に泊まりに来てくれた。その日はみんなで夕飯を食べて普通に寝たのだが、次の日起きてからが大変だった。朝起きて長袖のトレーナーを着ると袖の中が動いていて突然腕に痛みが走った。

 理由は取り込んだ洗濯物の中に『スズメバチ』が入っていて、ぼくの腕を刺してしまったからだ。ぼくは痛みで泣いていたのだが、お母さんが服を脱がせてスズメバチをティッシュの箱で叩いて潰してくれた。


「けんちゃんごめんね」

 事情を知ったおばあちゃんはぼくの顔を真っ直ぐ見て、ちゃんと謝ってくれた。その後、ぼくは病院に行ってワクチンを打ってもらい、1日安静にしていた。その後はスズメバチに二回刺されるとワクチンを打っても死ぬというデマを信じて、ハチの巣には絶対に近づかないようになった。



*しょうちゃんの引っ越しの話

2年生の終わりに、とても悲しいことがあった。それは、1年生の時から仲良くしてくれていて、一緒に遊んできたしょうちゃんが、なんと転校してしまうことになったのだ。


それを聞いたぼくは凄く残念に感じて、泣きそうになってしまったのだが、

「大丈夫、5年生になったら戻ってくるから」と言ってくれたので、

「なんだ、それなら良かった。また会えるんだね」


と言って二人で笑い合っていた。よくある親の仕事の都合での転校というやつで、3年限定の、期間が過ぎれば東京の本社に戻って来れるというものであった。

だが、いざその時を迎えると、また会えると分かってはいても、なんだかとても寂しい気持ちになった。引っ越し当日、はたの、おおのくん、もっちゃんでしょうちゃんを見送ることになった。引っ越しのトラックがどんどん荷物を飲み込んでいき、いよいよお別れの時がやってきた。


「しょうちゃん、元気でね」

「うん、おおのくんも」

そう言って二人は、がっちりと握手した。


「また、マリオカートしようね」

「うん、それまでにもっちゃんに勝てるようになっとくよ」

この二人も笑いながら、固く握手をした。


「5年生になったら、絶対に戻ってきてよね」

「うん、約束する。必ず戻ってくるよ」


そう言って泣きそうになりながら握手したしょうちゃんの手は、柔らかくて暖かかった。しょうちゃんが窓から顔を出しながら手を振っているタクシーを見送ってから、ぼくらはそれぞれの家へと帰っていった。これはぼくにとって初めての、仲の良い友達との別れであった。


だが、“5年生になればまた会えるんだし”と考えてどこか楽観視していた。家に帰ってからは、これまでしょうちゃんと過ごした日々を繰り返し思い出していた。ぼくたちはずっと友達で、いつだって繋がっているんだ。また会えるよね、しょうちゃん。

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