第3話 一年生 入学式
*入学式の話
入学式前日、ぼくは近所の公園で小学校に入るために修行を行った。と言ってもそんな大層なものではなく、ブランコを蹴ってはね返って来ると、それを避けたり、また蹴り返したりするというものだった。
別に小学校に闘いに行くわけではないのだが、当時は戦隊もののヒーローとか、ジャンプで連載されていたものがアニメ化されていたりとかで、強い男へのあこがれみたいなものがあった。
「おれも一緒にやっていい?」
見ると少し暗そうな男の子が隣でぼくの修行を見ていたようだ。
「いいよ。じゃあそっちのブランコ使ってよ」
「サンキュー」
その公園には隣り合わせで二基ブランコがあり、ぼくはもう一方を指差した。
それから二人で『修業』を行っていたのだが、6時くらいになると辺りが暗くなってきて家に帰ることになった。
「ぼく、明日入学式なんだ」
「そうなの?おれもだよ」
よくよく話してみると二人は同い年で、明日から同じ大葉小学校に通うことになっているようだった。
「おれん家ここなんだ」見ると彼はぼくの家の2件隣の家の前で立ち止まっている。
「ええ~そうなんだ!全然知らなかった。こんな近くに同い年の子がいたなんて」
その男の子も嬉しそうに笑いながらぼくに質問して来た。
「お前、なまえ何て言うの?」
「ぼく?おかもと けんたろうだよ。きみは?」
「おれは、はたの こうじだよ。明日からよろしくな」
「うん、よろしくね」
ぼくは新しい生活に少し不安があったのだが、小学校に入る前に友達ができたので“これから安心して学校に通えるな”と思った。
そして迎えた入学式当日、学校に着いて両親に見守られながら入学式を終えるとクラス分けが行われた。ぼくは2組で、2年生になってもクラス替えはなく、2年間このメンバーで過ごすことになるという。
「けんたろう!」
見ると秦野も同じクラスになったようで、ぼくに向かって手を振ってくれていた。ぼくらは偶然同じクラスになって凄く喜んでいたのだが、今思えば家が近いということで先生たちが気を利かせて同じクラスにしてくれたのであろう。
それから、クラスごとにぼくらを整列させ、教室まで誘導してくれたのは40代くらいの女の先生であった。教室に入るとオリエンテーションが始まり、
「今日からみんなの担任になる高田です。上から読んでも下から読んでも、たかたです。よろしくね」
そう言うとたかた先生は優しく笑って黒板に『たかた』と名前を書いて見せた。
その後、一人ずつ自己紹介をして行くのだが、大葉小学校は出席番号の決め方が少し変わっていて『誕生日順』であった。4月12日生まれのぼくは出席番号が2番になった。
「おかもと けんたろうです!好きな食べ物は肉と魚です。よろしくお願いします」
そう言って自己紹介を終えた後、少ししてから、とても元気な子が自己紹介を始めた。
「ながみね しょうたろうです。な、が、み、ね、し、よ、う、た、ろ、うで名前が10文字あるのが自慢です。よろしくお願いします」
“ほんとだ!ぼくより一文字多い。いいなぁ”そんなことを思いながらも全員が自己紹介を終え、これから新しい生活が始まると思うとなんだかとってもワクワクした。
*たかた先生の話
大葉小に入学してから担任になってくれた、たかた先生からは、あいさつや友達との接し方など、いろいろなことを教えてもらった。
その中でも特に印象に残っているのが、一番初めの授業で教えてもらった『一度間違って覚えたことを覚え直すには、その3倍の労力が掛かるから、最初に間違って覚えないようにしないといけない』ということだった。
これは、大人になった今でも確実に役立っていて、勉強する時に“これは間違っているのでは?“と感じた場合には、ちゃんと検索して裏を取ってから覚えるようにしている。
また、学校では忘れ持ち物チェックをやってくれていて、ハンカチとティッシュを持って来ているかだとか、爪を短く切っているかを見てくれていた。特にペナルティがあったわけではないのだが、毎日チェックしてくれていたお陰で、日を追うごとに忘れ物をする回数は減って行った。
たかた先生はいつでも優しくて、誰かと誰かが喧嘩しても必ず両方の話をきっちり聞いてくれていた。それから悪い所をちゃんと教えてくれて、お互いに謝るべきところを言って仲直りさせてくれていた。決してぼくたちを責めたりせず、諭すような話し方で教えてくれた。
ぼくたちはそんなたかた先生が大好きで、何か困ったことがあったらいつでも先生に相談できていた。その『安心感』があったからこそ学校生活が楽しかったし、今でもいい思い出として記憶できている。
*大葉小についての話
ぼくが通い始めた大葉小学校は普通の小学校とはちょっと違っていて、将来的に老人ホームになるからと、教室と廊下の間に壁がない作りになっていた。最初はちょっと不思議な感じがしたんだけど、教室が広く感じてぼくは好きだった。
また、クラスには『日直』と呼ばれる仕事があって、クラスで当番制で回して行き、男女一人ずつのペアで毎日担当が代わって行った。クラスの男の子と女の子の人数が違うので、毎回違う子とペアになっていたのだが、ぼくはこの頃から人見知りしない質だったので誰とでも普通に話せていた。
大葉小にはたくさんの遊具があって、日本の小学生は授業と授業の間に10分間の休み時間があるので、その時によく遊んでいた。その中でも特にぼくが好きだったのが、どこの小学校にもわりとあると思う『のぼり棒』だ。1じあけできてない。
大葉小ののぼり棒は普通の学校のものより大きく、8本の列が二つあって16本、高さは7、8メートルくらいはあった。そしてそこで、のぼり棒のテッペンまで登って飛び降りるという『のぼり棒ジャンプ』という遊びを友達とよくやっていた。
今思えばかなり危ない話なのだが、当時のぼくは着地の時に足がしびれる感覚が好きで、休み時間になると友達と一緒にこの、のぼり棒ジャンプをやっていた。
それと、学校には横並びに6つの鉄棒があって、そこで逆上がりの練習を頑張ったのもよく覚えている。ぼくは運動が得意だったけれど、逆上がりは小学校2年生の時にかなり練習した。
学校には逆上がりを補助する『反り返った器具』があり、それを駆け上がって成功する感覚をつかんで行った。放課後に友達と2ヶ月くらい練習してやっとできた時はかなり嬉しくて、学校が終わる度に何度も繰り返し逆上がりをやっていた。
それと、これは少人数でしかできないのだが、ジャングルジムから降りてはいけないというルールで鬼ごっこをやっていたこともある。
これはかなり盛り上がって、追いかけられて思わず飛び降りてしまったりとか、中に入って行った子をなかなか追えなかったりして楽しかった。いずれにしても、仲良くなった友達と遊ぶのは嬉しいものであり、いい思い出になっている。
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