第6話 必殺のアレンジャー

 5月21日の火曜日、本日の対戦相手である名古屋アレンジャーズは、全国出場常連チームであるため、本拠地である名古屋市中村区まで車で乗り合わせての対戦となっていた。ポニョの中は仕事、美奈は従妹が遊びに来るから欠席となっており、6人乗りの車2台で現地に向かってピッチに着いた。


アレンジャーズは白と赤の縦縞が激烈なチームで恋人同士で仲が良く、男衆は黒髪に女衆は茶髪にしており髪の長い子が多かった。そしてこのチームには、『糸偏コンビ』と呼ばれる綴(つづり)、綻(ほころび)という選手が在籍しており、見事なコンビネーションで、対戦相手を圧倒するのであった。その綴と綻が試合前に話をしていた。


「勝てるかな?今日の試合。強いんだよな~バランサーズ」

「フォースと共にあらんことを」

「聞けよ!それに、映画の見過ぎだろ」

「いいだろ?だって面白かったんだもん、エピソード1」


「そうみたいだな。俺も見ときゃよかったな」

「え~まだ見てないの?遅れてる~。レンタルビデオでいくらでも見れるんだよ」

「社会人は忙しいもんなんだよ。それに『見られる』だろ?ら抜き言葉は良くないぞ」


「そんなの面白ければ関係ないよ。あーあー早く見たいな~エピソード2」

「7月に公開だろ?もうちょい待てば見られるよ」

「う~ん、待ちきれない!」


綴は言葉遣いに凄くうるさく、綻はミスに対して厳しいようだ。

試合が始まると案の定この糸偏コンビが前衛で縦横無尽に活躍し、他のプレーヤーを活かしながら、自分たちも得点を決められるという有能ぶりであった。このチームのプレーは創意工夫に溢れており、そのインテリジェンスなプレースタイルは見るものを魅了するだけのものがあった。


だがこの日この二人に対抗することを想定し、バランサーズはピヴォに塩皮を据え、アラとしてプレーする昴と蓮のコンビネーションで乗り切る作戦にしていた。

特にマッチアップなどは決めていないため、綴、綻の両名と流動的に対峙する。

「うっ、強いな。このプレスに耐えきるとは」


 昴のボディバランスはプロに匹敵するほどのものであると言え、その体躯は28歳となった今でもさほど衰えてはいなかった。綴は、昴のポストプレーに押し切られ、あっさりと点を決められてしまった。

「おっ、巧いな。騙されちまったよ」


 昴のフェイントは他を圧倒できるほどのキレがあり、その技能もやはりプロに匹敵するものがあった。綻は、抜かれた後で必死に追いかけたのだが、昴はこの場面でもあっさりと得点を決め切った。


この攻防にアレンジャーズ側が奮起し、精度の神であるピヴォの繊細、孤高の殿であるフィクソの網綱、統率の鬼であるゴレイロの組織など中心となるプレーヤーたちが試合を盛り立てた。だが、それでも昴と蓮にはある程度の余裕があった。


だが、全国常連チームのアレンジャーズがここであっさり勝たせてくれる筈もない。

綴、綻は相当に『抜ける』のが上手く、綴は『フロントカット』いわゆる表抜けで敵の前を通って攻め、綻は『バックドア』いわゆる裏抜けで敵の後ろを通って攻めることで次々にチャンスを演出していた。


そして、二人合わさると更に協力で、『ブッロク&コンティニュー』と呼ばれる技で、片方がディフェンスをさえぎり、もう片方がディフェンスの先に抜けることによってフリーになるという連携技を駆使していた。


ベンチウォーマーたちも元高校応援団団長の紛糾が全力で大声を出してチームの指揮を高め、そこに絹綿のムードメーカー的な存在が加わり、その絶妙に緩い感じで皆を癒しながらもチームを鼓舞していた。


一方のバランサーズは 即席コンビではあったがレベルの高い昴のオフェンスに対し、蓮はしっかり合わせることができていた。だが、蓮の体重が軽すぎて度々吹っ飛ばされることと、時折見せる昴の態度にチームメイトたちは少々思うところがあり、そのことに業を煮やした保は昴に一言釘を刺した。


「おい、昴。今の追えばまだ防げたんじゃないか?お前なら置いつけただろ?」

「う~ん、まあそうかもね。けど、いいよ。そんなムキになっても仕方ないし」

 それもまた一つの正解なのだが、保は昴に『変わってほしい』と願うのであった。


 その後も試合は粛々と展開され、際どいところではあったが、バランサーズは辛くも勝利することができた。僅差ではあったが、全国常連チームのアレンジャーズに勝利したことで勢いに乗れた昴たちは、更なる進化を求めて、25日のアルフレッド戦に向けて気を引き締めるのであった。


続く25日の土曜日、昴は集合時間の30分前ゆっくりと家を出て、試合が行われるテリフィックへと向かっていた。中はやはりこの日も仕事があるようで、莉子は仕事のための勉強をするからと、練習には参加しないようであった。

いつもの道を歩いていると、偶然にも通りがかった友助と出くわした。


「あっ、昴さんじゃないですか!」

「おおっ、友助!また会ったな。どこ行くんだ?」

「どこって、これからサッカーしに行くんですよ」

「そうなのか?奇遇だな。俺も今日ちょうど練習があるんだよ」


 そして雑談しながら歩いていると、川の向こう側から二人を見つけたマネージャーの美奈と、その従妹の澄玲が手を振って来た。

「お~い、本郷く~ん!!」

「室井くんも~。なんだ~友達だったんだ、二人!!」


 それを聞いた昴と友助は、まじまじと顔を見合わせた。

「本郷――?」

「室井――さん?」

 本郷 友助。アルフレッド新潟の、エースプレーヤーである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る