電波ヒロインには楽しいお誘いを③
俺達は、今日の本来の目的と言っても過言ではないともいえる王宮図書館に訪れていた。
王宮図書館は、この国で最も蔵書数が多い、研究者ならだれもが訪れたいと願う場所の一つだ。
そんな場所に俺とミアは足を運んでいた。
〈えっと?目印の本棚はどこに……!〉
〈確か目印の本があったはず……!〉
俺とミアは、隠し部屋を見つけるために本棚を歩き回っていた。
〈あ、これじゃない!?〉
〈これだ!〉
ミアが静かに俺を呼ぶ。
俺もノートにあった通りの本棚であることを確認する。
〈えっと、この本棚を動かせばいいんだよね?〉
〈ノートにはそう書いてあったな!〉
俺は本棚をゆっくりと押す。
ズズズ……と静かに本棚は動く。
それと同時に隠されていた入り口があらわになっていく。
〈おぉ、あったな……!〉
俺は感嘆の声を上げる。
それと同時に、ミアは駆けこんでいく。
〈あ、おい、俺も!〉
俺も本棚を押し切ると、ミアの後に続いて扉に入った。
中はほこりっぽかった。
どうやらずっと使われていなかったみたいだ。
……それもそうか。
だって、こんなもんが放置されるはずもないもんな……。
俺は目の前にあった剣を拾い上げる。
剣は、ずっと放置されていたとは思えないほどの光沢を見せている。
どう考えても魔剣や聖剣の類だ。
それ以外にも、色々な物が転がっている。
ミアは、その中の一つを手に取り、じろじろと眺めている。
〈これ、これ!このアイテムが欲しかった!〉
〈それは……あれか、好感度アップとか書かれてたネックレスか〉
ノートに、《好感度が上がりやすくなるネックレス。しかし、入手できるのは終盤なので、あまり活躍できる場は無い》と書かれていた代物だ。
……まぁ、道具一つで周りの人間から好かれやすくなるのは意味が分からないが。
〈俺は……この剣と、後はそこの腕輪にしとくかな〉
〈あぁ、あれでしょ、全ステ二倍のやつ〉
どうせ誰も気づかないのならば、貰っておいても問題は無いだろう。
俺が手に取ったのは、ノートには書いてなかった剣と、ノートに〈全ステータスが二倍になる。終盤装備としては最強格〉と書かれていた腕輪だ。
ミア曰く、〈このゲームのRPG要素はほとんど乙女ゲーム側に関わってこないから必要がない〉らしい。
RPGについて聞いてみたら、〈戦いを通してどんどん強くなる物語〉と言われた。
乙女ゲームとは今のミアがやっている方の物語らしい。
〈それにしても、この部屋って何なんだろうな?置いてあるものが、まぁ、よく分からないが、やばい代物が多いし〉
俺は剣を眺めながら呟く。
〈さぁ?でも前世の考察では《前作の勇者の残した遺産じゃないか》って言われてる〉
〈勇者?〉
……話には聞いたことが有る。
大昔、といっても今からおよそ200年ほど前に、勇者が魔王を倒したという伝説がある。
今となっては、それが本当だったのかわからずじまいであるらしい。
なんせ、昔の勇者の痕跡が全くないから。
……前作?
〈……ミア、もしかして、この物語って何かの続きだったりするのか?〉
〈え?あぁ、言ってなかったか。このゲーム、《マジカル・ノブレス》は、
〈……そうなのか〉
まさか、200年前の勇者の話も物語としてミアの世界に存在するとは。
一体ミアの世界は何なのだろう?
ミアが他の道具を吟味する中で、俺はふと、部屋の中にあった本棚に目が付いた。
その中から、一冊を手に取って、本を開く。
《俺は、この国を絶対に許すことは無いだろう》
《この国に復讐してやる》
《滅亡のその時まで——》
……っ!?
そこには日本語で、呪詛とも言える文章が書き込まれていた。
なんだ、これは!?
俺は恐る恐るページをめくる。
《俺は見つけた。日本に戻る方法を》
《この世界の人間など、存在する価値も無い》
《呪ってやる》
俺は本を閉じる。
俺は、ミアの方に顔を向ける。
ミアは、楽しそうに〈あ、コレ!魔法が使いやすくなる杖じゃん〉と物色している。
俺はミアに慎重に尋ねる。
〈な、なぁ。この世界に日本語は存在するのか?その、ゲームの中にも〉
ミアは、顔を上げると、首を傾げて答える。
〈それは無いよ。だって、ゲームのスチル、あ、これは一枚絵ね、に出てくる本全部が不思議な記号列で埋め尽くされていたからね〉
〈そ、そうか……〉
〈何?もうちょっと日本語の勉強がしたいの?〉
〈あ、いや、そうだな〉
〈まぁ、また時間のある時にね〉
そう言って、ミアは荷物を整理する。
それが良いかもしれない。
今の俺ではこの本をまだ正確に読めない。
まだまだ日本語の勉強が必要だ。
そう思っていると、ミアがぼやく。
〈あぁ、ストレージとか、そういうのあれば便利なのにな〉
〈あ、ほら〉
俺はミアに向かってカバンを投げる。
〈なにこれ?〉
〈魔術でたくさんの物が入るようになったカバンだ。使え〉
〈え、いいの?〉
〈あぁ。第一、剣なんてもって外に出れるわけないだろう?〉
〈あぁ、確かに〉
そう言ってカバンに荷物を詰めるミア。
俺はそんなミアを眺めながら「これは何かやばい匂いがするな……」
と不安を募らせた。
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