電波ヒロインにはロジハラを②
——そこから俺が彼女から聞いた話は到底信じられるような物ではなかった。
彼女は、異世界からやってきたらしい。
で、この世界はその異世界の恋愛物語なんだと。
彼女は、元の世界に戻るために、物語を完結に導く必要があるそうだ。
「正直、信じられない話だな……」
——彼女の頭がイッてるとしか形容できない話だ。
でも、その話を語っている彼女の顔は真剣そのもので。
「……そうでしょ?信じられないでしょ。私が突然こんな話をされたら絶対信じられないもん」
「そりゃそうだな……」
「でも、本当なの!信じて——」
「あぁ。とりあえずは信じるぞ」
「——え?」
信じてと嘆願する彼女に俺はあっけらかんとそう言い放った。
「……なんで?」
「何でって……面白そうだから?」
「面白そうって……」
「だって現状根拠は無いからな。でも、実際本当だった時、面白いじゃないか!」
無言になる少女。
「でもどうやって元の世界に帰るんだ?どうやってきたのかもわかってないんだろう?」
俺は彼女にそう尋ねる。
少女はぎゅっと握りこぶしを作った。
「でも、ここはゲームの世界だよ?ゲームの世界ならクリアすれば元の世界に戻れるんじゃないの?」
「でも、俺たちは、その、物語の登場人物って訳じゃない。ちゃんと生きているぞ?お前の物語通りやったからって、うまくいく保証も無いし。現に、今、お前は俺に捕まってこんなになってるわけだが。これも物語の通りってことか?」
「……いや、こんな場面、ゲームにはなかった……」
そうつぶやくと、少女は唸るようにぶつぶつとつぶやき、自分の世界に入ってしまった。しかも、俺にもよくわからない言語で。
——あれは、別世界の言語ってやつなのだろうか?
——とりあえず、こっちも情報を整理しよう。
まず、少女は、別世界の人間の記憶を持っている。
そして、その世界には、俺たちが恋愛対象としてモチーフになっている物語が存在している。
彼女は、自分の世界に戻るために、物語の完結を目指そうとしている、か。
「なぁ、やっぱりいいか?」
「……何?」
彼女は、自問自答をやめて、まっすぐ俺を見た。
「やっぱり、話が甘すぎる。物語を完結させれば、元の世界に戻れるって言うが、そんなことが有り得るのかって話だ」
「……何が言いたいの?」
「正直、元の世界に戻れない可能性がある」
——その時、お前はどうするんだ?
俺がそう言葉を続けようとしたとき、俺は少女の異変に気が付いた。
少女の目から光が消え、呼気がどんどんと荒くなっていく。
「嘘、そんな訳ない、だって戻れなかったら、もうずっとお父さんやお母さん、お姉ちゃんに会えないって、嫌だ、嫌だ、嫌だ、——」
「落ち着け!」
そう俺が言っても、少女は頭を抱え、しゃべるのをやめない。
「嘘、そんな事って有り得る?喧嘩したまんま、仲直りもしてないのに?嘘、嘘嘘嘘——」
これは、まずい。
俺は焦りからどんどん呼吸が荒くなっていく彼女に対し。
デコピンをした。
「あ痛ぁ!?」
「落ち着け、まだそうと決まったわけじゃない」
……限りなく可能性が低いとは絶対に言えないが。
「分かった!俺がなんとかその『物語の完結』までうまく話が運ぶようにしてやるから!」
「……え?」
「やってみれば、案外普通に戻れるかもしれないし」
「……い、いいの?」
少女は期待を込めた目で俺の事を見てくる。
「任しとけ!……そういえば名前を聞いてなかったな」
俺がそう言うと、少女は涙をぬぐう。
「私は、ミア。——ミア・ワーヘル」
「ワーヘル……あぁ、男爵家の。俺はターナー。ターナー・ミルフェスだ」
「……知ってる」
「あぁ。まぁ、気軽に『ターナー』って呼んでくれ」
「あ、敬語とかは……」
「気にするな。今から敬語で話される方が気持ち悪い」
俺はフルフルと震えるふりをする。
「わかった。……ありがとう、ターナー」
「おぉ。——とりあえず、入学式は遅刻だな」
「あ」
そう言って、俺たちは顔を見合わせる。
——俺たちの物語はここから始まった。
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