電波ヒロインにはロジハラを

青猫

電波ヒロインにはロジハラを①

その出会いは、鮮烈で——

俺はサクラの木の下、物憂げに佇む彼女に、思わず見惚れてしまった。

——何をしているんだろうか。

そう思って、声をかけようとしたその時。


「よし!ここでうっかり転んだふりをすれば、ファム殿下に助けてもらえる!」


……ん?

少女から、思いもよらない言葉が飛び出した。


「そしたら、シナリオ通り、セリフを喋って、出会いイベントをクリアする!

……ヒロインとして、このゲームをクリアしてやる!」


——やばい奴だったわ。

俺は声をかけようとしたその足を止め、スゥーっと戻ろうとした。

しかし、なんと運の悪いことだろうか。

俺はそこに有った木の枝を踏んでしまった。


——パキンっ!


「あっ……」


——彼女と目が合った。

彼女は、驚いたような表情をしながらも、しかし、人を魅了する笑みを浮かべて口を開いた。


「初めまして。——少し道に迷いましたの」


それが彼女、ミアと俺、ターナーとの出会いであった。

これから始まる奇妙な物語の、プロローグだったのかもしれない。


俺はターナー。ターナー・ミルフェス。ミルフェス公爵家の長男であり、王太子殿下ファム・ステルファス殿下の護衛騎士でもある。俺の家は、代々騎士団長を輩出しており、現在は俺の親父が騎士団長を務めている。


俺はまだ学生の身分だが、卒業後、父の元で鍛錬を積み、いつか父のような騎士団長になることを目指している。


俺は、彼女の手を取り、「ついてきて」と場所を移動することにした。

目が合ってしまったからには流石にスルーはできない。


「はい……」


少し戸惑ったような彼女は、それでもついてくる。

しかし、後ろでぶつぶつつぶやいている。


〈あれ?このイベントって、もう少しターナーと親密にならなきゃ起こらなかったはず〉


しかし、彼女の言っていることは全く理解できない。

この国や、この近隣の国の言語とはまた違った言語の様だ。


——まさか、どこかの国からのスパイか?


もしかしたら、ファムを害する存在である可能性に考えが至り、スルーしなくてよかったとほっと一息つく。


俺は彼女を裏庭に誘導すると、裏庭に有るテーブルの一つに誘導し、座らせる。


少女はやはり少しの戸惑いを見せつつ、椅子に座る。

俺は、彼女が座ったことを確認すると、水の魔法で彼女を椅子に拘束する。

少女は、突然の行動に驚く。


「え、え!?なんですか!?」


少女は拘束を解こうとするが、そこは俺の魔法。

ちっとやそっとじゃ解けない強度で縛り付けている。

俺は、彼女の正面に座り、口を開く。


「それで?君はどこの国のスパイなのかな?」

「え……?」

「いや……君、さっきの言動からして怪しい人だよね」

「何をおっしゃっているんですか!——ターナー様!」


少女は俺の名前も知っていたらしく、懇願するように声を上げる。


「え、えっと、そうだ、ターナー様!『あなたはあなたらしくでいいんです!気にする必要なんてないんです!』」


そう少女は叫ぶ。

……何言ってんだこいつ?


「……何を言ってるのかな?」

「あなたが自分の性格で悩んでいることは知っています!だけど、そんなこと気にする必要はないんです!」

「……」


俺は少し考え込む。

——俺は確かに一週間ぐらい前までは少しその事で悩んでいた。

こう、取り繕った自分でもいいのかと。それは本当の自分じゃないんじゃないかと。

でも、こっちの俺も俺なんじゃないかと結論付けて、悩みは解消したはずだ。

その事をこの少女は知っている?

流石におかしい。

だって、このことは誰にも言ったことが無い。だから情報が洩れるとか、そう言った話ではないはずだ。


少女は自分の言ったことが相手に響いていると感じているのか、自信ありげな瞳で俺を見つめている。

俺はそんな少女に突きつけるように伝える。


「……君が言っていることは俺が一週間前に自己解決したものだよ。なんで君はその事を知っているのかな?」

「え……?」

「もしかして、読心系の魔法使い?でも、今、俺はそのことを悩んでいる訳じゃないし。それに読心系の魔法使いは国に管理されているはず」


俺はうっすら冷たい笑みを浮かべて言う。


「君は何者かな?」


そこまで言うと、少女はうつむき、ぶつぶつとつぶやき始めた。


「どうして?ターナーはこれで落とせたはず……ゲームと違う?いや、そんなはずは……」

「どうしたの?ゲームって何だい?」


そう俺は聞くが、少女は聞く耳を持たない。


「なんで上手くいかないの?……もしかして順番を間違えた?」

「おーい?」

「そんなはずはない、じゃあ、どうやってゲームをクリアしたらいいの?じゃないと私、ここから出られないじゃん……」

「ねぇ?」

「攻略対象が思い通りに動かないなんてそんなはずないでしょ?なんで、私家に戻らないといけないのに!」


少女は全く俺の話を聞かず、どんどんと一人で、盛り上がっていく。


「ねぇ、ちょっと……」

「うるさい!ゲームのキャラの癖に!私の言う通り動いてよ!じゃないと私……」


——やっぱりやばい奴か。

げえむのきゃらとかおかしいことを言ってくるし。


「落ち着いて。話を聞きたいから」

「うるさい!うるさい!私は家に帰りたいの!!!!」


……俺は徐に立ち上がると、少女の隣に行く。

少女は未だに「うるさい!」と言いながら暴れている。

俺はそんな少女に。


思いっきりチョップを叩きこんだ。


「うるさいっ!」

「あ痛ぁ!?」


少女は頭を抑えて、静かになった。

俺は元の席まで戻って静かに座る。


「痛い!何するの!?」


俺はそんな少女に事情聴取をするために口を開いた。


「お前の知ってること、すべて話せ。話ぐらいは聞いてやる」


俺は懐にある剣をちらつかせ「もししゃべらないなら……」と脅すように告げる。

少女は頭を叩かれて冷静になったのか、それとも恐怖からなのか、自身の事を思い出すかのように口を開く。


「その、私は——」

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