【KAC20237】いいわけ戦争

眠好ヒルネ

いいわけ戦争


 学生がひとり遅れて教室に入ってきた。

 授業がもう終わろうという時間、これは出席扱いには出来ない。

 電車の遅れなどやむ無い事情があるなら、課題をさせて出席扱いにしても良いか?

 そう思い理由を聞いてみた。


「眠気に勝てませんでした」


 これ以上なく分かりやすい理由が返ってきた。

 いいわけを並べ立てて有耶無耶うやむやにする者も多い中で、実に簡潔で飾り掛けがなく堂々とした理由でむしろ好感が持てるぐらいいさぎよい。

 だから、ちょっと試してみたくなった。


「次のいいわけが面白かったら救済措置を考えるから、もう少しいいわけを考えてみてくれ。いや、その前に遅刻はするな、だな」

「分かりました、ありがとうございます」


 真面目な雰囲気があるのは好感が持てるんだが、適当ないいわけを考えられないタイプに見えるが……どうなるかな?


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「今日はどうした?」

「はい、眠気に負けました。完敗です。ヤツらは圧倒的な物量差で押し寄せてくるんです! 被害が大きくなる前に撤退するしかなかったんです」


 眠気に負けたいいわけの方を追加してきた?!

 遅れた理由に眠気以外の理由をと思ったんだが……まあいい。


「撤退したならまだ再戦の機会があるということだ、まあ、なんだ……頑張れ」

「はい、分かりました。もう少し頑張ってみます」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 そして、何日か戦況報告が続いた。

 どうにも相手が強すぎてどんな対抗策をしても負けるんだとか……


「いや、早く寝ろよ」

「ヤツらは卑怯なことに常に夜襲を仕掛けてくるんです! しかも常に警戒している時間より遅くやってくるのです!! 卑怯だとは思いませんか?」


 そりゃ、まあ、眠気だからな。

 昼起きてると大抵夜に寝るから……夜に襲ってくるのは仕方ない。


「昼に襲ってくることは無いのか?」

「2ヶ月ぐらい前まではありましたが、最近はありません」


 2ヶ月前というと、こいつがオレの授業で最初に遅刻してきたときか。

 昼寝ることも無くなったってことか?

 なら少しは進歩してるのかな。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 しばらく経ったが、一向に変わることは無く、どんな戦いが繰り広げられているかの説明が続いた。

 このままだとこいつはオレ授業の単位を落とすだろう。


「いつまで遅滞戦闘を続けているんだ、もう敵戦力は首都まで迫っているぞ」

「はい。このままでは敗戦濃厚ですので、和平協定を申し入れているところです。あまり聞く耳を持たれていないですが」


 そりゃ敗戦が決まってるような状況で交渉してもな……

 聞いてもらえたとしても、条件のすり合わせが大変そうだ。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 そろそろオレの授業の単位を与える理由を捻り出すのも限界だ。

 なんとか戦いに終止符を打ってもらわないことには、課題を与えることも出来ない。


「休戦協定はどうなった! もう首都に攻め込まれてるぞ!」

「ようやくです! ようやく締結には漕ぎ着けました! ただ少々不平等条約ですが、我々には勝ち目が無いので致し方なく……」

「で、相手のどんな要求をのんだんだ?」

「はい、この決断は我々にもとても苦しいのですが、彼らの言い分をのんで、毎日一回の二度寝を受け入れることになりました! これで平和は保たれます!!」


「結局起きる気ないやないかーい!!」


 結局面白かったから、課題を提出させて単位をあげた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC20237】いいわけ戦争 眠好ヒルネ @hirune_nemusugi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ