【KAC20234】ストーカーは知っている

眠好ヒルネ

ストーカーは知っている


「さて、今日もそろそろ散歩にでも出掛けようかな」


 わたしはいつも夜遅くになって、執筆が一段落した頃に、椅子に引っ掛けていたカーディガンを羽織って外に出た。

 近くのコンビニまで。夜食を購入がてら、気分転換をはかる。人の集中力はそれほど持たないので、気分転換を挟む方が効率が良い。

 夜中二時。妖怪や幽霊がいる世界なら、さぞかし活発になる時間だろう。残念ながらそのようなもの達を見かけたことは無いけど。

 そんな空想のもの達より、よっぽど人間の方が怖い。それはわたしがよく知っている。


 ただ、わたしの目当てはそんな怖いものではなく、かわいいものだ。

 この時間に途中の公園に寄ると、猫を見ることが出来る。

 夜中なので、警戒されたくないので近付かず、遠くから猫の姿を見て癒される。

 それにより、また執筆が捗るという良い循環が生まれるのだ。


 そして、公園の入口が見えた頃、後ろで物音がした気がして振り返った。


「危ないっ!!」


 そんな言葉と共に、わたしの目前まで迫っていた人影を、更にその後ろから来た人影が羽交い締めにした。


「離せ!」


「離すかよ! お嬢さん大丈夫か? 君はこいつにつけられてたんだよ」


 どうやら、わたしのストーカーがわたしに手を出そうとして、もう一人の人に捕まった状況らしい。

 ストーカーは、口を塞がれて暴れているが、もう一人は気にすることなく押さえている。


「はい、わたしは大丈夫です。捕まえて下さってありがとうございます」


「いや、お嬢さんが無事で良かった。オレはこいつを連れていくから」


 そう言ってわたしを助けた人は、ストーカーを連れて去っていった。


 危ないとこだった?

 いや、実はそんなことはない。

 なぜならわたしは知っていたから。

 わたしにストーカーがついていることを。

 そのストーカーが更につけられていることも。

 わたしのストーカーのストーカーが、わたしが襲われるのを待っていたことも。


 わたしが襲われるのを待っていたのは、それを口実にストーキングしてる相手を自分の家に連れ帰れるからだと思う。

 なんとも面倒な話だよね?

 ストーキングも本人に触れることなく、近付くことなく、カメラを向けることもなく、ただ遠くから眺めている程度にすれば良いんだよ。

 誰にも気付かれないなら犯罪じゃない。


「ふぅ……」


 わたしは一度息を吐き出し、気持ちを切り替えた。

 そして迷うことなく公園の中へと入り、音を立てずに所定の位置につく。

 ここは周りからはあまり見えないが、公園のベンチを良く見ることが出来る場所。

 こうしてわたしは、今日も缶コーヒーを飲みながら煙草をくゆらせ、夜空を見上げる猫を遠くから眺めて、癒されるのだった。

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