人生1からやり直せることになったので、バカやってみます

刻松亜紀

プロローグ

俺は拓元雅治たくもとまさはる。16歳の青春真っ只中の高校生だ。

と言いたいところだけど、実際は勉強三昧の世間一般の陽キャとかいう人種から見たらつまらない高校生だ。


俺のこれまでの人生は3歳の時に決まっていたんだと思う。親に言われるがままに幼稚園受験をした俺は、そのままエスカレーター方式で、現在は、大学附属の高校に通っている。世間一般ではとても羨ましがられる環境なんだと思う。現に自分の学校名を言うと、いつも「すごいですね」とか「頭いいんですね」など称賛の言葉をかけられる。


だが、世間人が思うほど、この環境は恵まれていない。


勉強はして当たり前。たまに、隣の席の同級生が話しかけてきたと思ったら日本の政治について語り始める。親の職場での立場に基づくカースト制度。君たちに想像ができるだろうか?


俺の精神は学校の環境、そしてそれを全肯定する家庭の環境に疲弊しきっていた。もう限界だった。


世間では当たり前のように「限界突破」などという言葉を口にする奴がいるが、そんな簡単なことじゃない。人間誰しも、精神肉体において限界というものが存在するのだと俺は思う。無理なものは無理なのだ。


家出した。


人生初めての周りに対するである。今までしないことが当たり前と思っていたこと、いや周りにそう思わされていたことを今、堂々と自分の意思でやっているのだ。


親の言うことに従い、自己決定の経験が少ない俺はこのにとても達成感を感じていた。楽しんでいた。自惚れていた。浮かれていた。ベタかもしれないが、俺は自分の身に近づく危険に気がついていなかった。


「危ないっ」


その音声が俺の脳に伝わることにはもう遅かった。横から来た居眠り運転のトラックに俺は轢かれた。


痛い...痛い...。脳が生きたいと叫ぶ。自分の記憶から助かるための術を探そうとしている。でも、何も出てこない。数学の公式、古文単語、化学反応式、たばこは体に悪い...。なんのために今までこんなに苦しんで勉強してきたんだ。こんな生命の危機において何の意味もない知識しか俺の脳にはなかった。途端に後悔に脳が支配される。くそぉ、やり直したい。親の言うことに従わず、自分で自分のことを決めればよかった。もっと、娯楽に手を染めればよかった。もっとバカやればよかった。


俺は人生に後悔しながら死ぬという最悪な形でこの世を去った。

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