第31話 極星烈士
その男は茶店の軒先で団子を頬張っていた。
「よう、ルジ公。お前さんも一服して行くかい?」
男の親しげな口ぶりが
「ご厚意かたじけない。
「そうかい。なら早速、お
男は
竹林を走り抜け、川を飛び越え、野山を駆け上る。
「いい風が吹いてらあ。眺めも最高だ」
忍者の早足に軽々と並走しながら、景色すら楽しむ男の余裕に、瑠仁郎は内心舌を巻く。軽功の妙技も
「ところでこないだの邪教騒ぎ、ルジ公も活躍したんだってな。二等に昇級する日も
「そう願いたく。拙者も早く皆と肩を並べられるよう精進するでござる」
瑠仁郎たち一般の烈士は、一等烈士を頂点に六等までの等級で格付けされている。
例えば今現在、
「お前さんたちは出世が
上級烈士とは、一般烈士と一線を画する強者たちで、二つの等級に分かれている。
全世界にわずか百名余り、一騎当千の「
明星をも
そんな極点の七星に名を連ねる一人こそがこの男――
「
「おう、ありがとさん」
先に進み出た
「ご足労を
「オレが来たいと言ったんだ、気にするな。それよか『師父』ってのはやめてくれ。お前さんに武術を教えたのは気まぐれにすぎねえんだ」
礼を返しつつ、紫深は
「承知しました。先生」
「まあ、細けえことはいい。〝四刻式〟を見せてみな」
「はい」
潤葉は大太刀を抜き、
まさにこの〝四刻式〟こそ、師弟の出会いを繋いだ套路であった。
ある日、旧華族の集まる宴に呼ばれた折、会場の隅で退屈そうに佇む財閥の令嬢に目が止まる。
「こいつはな、百回繰り返すと百倍強くなれるんだ」
幼き令嬢はその言葉を真に受けたのか、紫深の動きをひたすらに真似て見せる。
酒が入っていたこともあり、気を良くした紫深は小さな弟子に正しい姿勢の手ほどきをして場を去った。
数年後、再会した令嬢――
套路には流派の真髄が込められている。あの出会いの日以来、何千、何万回と型を繰り返すうち、潤葉の気は練り上げられ、技は研ぎ澄まされていたのだ。
そして今。
見る者が見れば、研鑽の度合いは一目瞭然であろう。
「いい
「それでは……」
「本番だ。悪魔を
徒手空拳、身構えすら取らず、紫深は
潤葉もまた
「ご無礼を」
確殺の気合い――背負い太刀と抜刀が瞬息の間に交差する。凄絶なる剣気が、無防備な紫深の身を四つに斬り裂いたかに見えた。
(捉えた――……否)
「やるじゃねえか。大したもんだ」
その場から一歩も動かず、団子の串をつまみ持つ
自分へと向けられた、ささくれ立った串の先端を見て、
「まだ腰の物を抜くには値しませんか」
「十年早えよ。……十年後はひょっとするかもしれねえが」
紫深の手放した串は、時間差で塵となって消し飛んだ。
「今さら訊くが、和尚はお出かけかい?」
「今日は
茶を注ぐ傍ら、
「〝
紫深と
二十余年前、当時明星烈士の
さながら今の
「澪君は僕に道を示してくれた人だ。こんな所じゃ終わらない」
「……ほう。何かは知らんがその話、オレも一枚噛ませちゃもらえねえかい?」
眼光
* * *
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