第25話 禍宵(マガヨイ)に住まう者
千五百年前、この世界トゥーラモンドに異界からの侵略者が現れ、〝救世の烈士たち〟との戦いを繰り広げた。
今日『
強大な力を持つ異形の侵略者は、サルウィスムス教における『神』の敵対者になぞらえて
その悪魔が今、
「Shimi-ry ynori? OSA...」
目鼻らしきものが付いた頭部から、不可解な震動を発していた。
害意の有無はこの際、問題ではない。
「とにかく、この子を異界に帰してやればいいのね」
言い放つや、澪は刀の柄に手を掛ける。至極シンプルな解答だ。
献慈も肩を並べ、異形の行く手に立ち塞がった途端――
「Quenteshe...Kimi'i shima!」
黒光りする大蛇のような腕が力任せに石壁を突き崩す。威嚇というにはあまりにも剥き出しな怒気が轟々と渦巻いていた。
さながら生きた災害だ。先手を取らせてはいけない。
「俺が引きつける――」
献慈は治癒の光を
「――〈
悪魔めがけて打ち下ろす。
「Aaa...!」
(効いている……通用する!)
防御した敵の前腕が焼け焦げたような煙を上げた。
その隙を突いて、澪が抜き打ちの一太刀。
すかさず献慈も追撃をかける。
「〈
澪と交互にそれぞれの技を繰り出し続けた。
悪魔は傷を負うそばから自然回復を始めている。
だからといって、後退は悪手だ。攻撃の手を休めてはならない。
(このまま一気に押し切らないと……)
――
悪魔が身をすくませた。抵抗の気配――あり。だが押し通せばこちらの勝ちだ。
(ならば――押し通す!)
渾身の一撃に入ろうとした刹那、
敵の殺気がこちらを向いていない。
「(しまった!)
側方へ回り込んだ献慈は次の瞬間、自分の背中が崩れかけの石壁に埋まっているのに気がついた。
敵の蹴りを喰らって
「
離れた場所で、澪が必死に敵の猛攻を
俺に構わないでくれ――そう叫びたくても声が出ない。体を突き抜けた衝撃の余韻が凄まじい。まるで交通事故だ。
(冷静に……なれ。まずは生き延びるのを第一に考えろ――)
失神寸前の気力を振り絞り、献慈は自身に治癒を施す。敵のターゲットは澪に絞られている。これはチャンスと見るべきだ。
「Kys'miw...! Tesi'en'somore!」
「新月流〈
澪は敵の周囲を舞い巡り、撫で斬りで牽制を繰り返していた。悟られぬよう、視線が献慈の方を窺っているのがわかる。
アイコンタクトだ。今ならば、応えられる。
(届け……〈
練り上げた内功を杖身に込め、螺旋を描く突風を撃ち出す。
敵の片腕が
「新月流――奥義〈
それは一振りに五本の太刀筋を連ねる秘剣。必滅を
余さず決まっていたのならば。
「Giiyaa...ah...!!」
「う……ッ」
相討ち。半身を消し飛ばされた悪魔の逆腕が、澪の体を大きく
敵の命脈はまだ途絶えていない。
(……俺が……やるしかない――!)
だが、たどり着くには距離がありすぎる。
せめて、あと一秒でも足止めできれば――
「
「――献慈くん!」
風を切って飛来したのは、
ギリギリでつながれた数秒間に、献慈は己の全身全霊を注ぎ込んだ。
燃え盛る極光を
「(これで決めてやる――)〈
大上段に振り被った杖は破邪の鉄槌と化し、悪魔の残された半身を一撃の下に打ち砕いた。
「OooSA...aa...」
悲痛な声を残し、魔の気配がたちどころに掻き消えてゆく。
脅威が去ったことを告げるように、献慈の中で〈
眼前に垂れた前髪は元の黒髪へと戻っていた。
「……そうだ! 澪姉は――」
「すぐに治すよ」
治癒の光が澪の患部を覆った。
「うん…………ん……っ!」
「ごめん! 急ぎすぎた!?」
「……ううん、大丈夫」
澪の傷は塞がり、肩も問題なく動かせているようだ。
安堵した献慈は、改めてラリッサに感謝する。
「ありがとう。助かったよ」
「うちが一番乗りじゃっただけよ」
言われて見渡せば、ジャンルカ以下、
「こっちも片付いたぜ。おつかれさん」
皆、
*
その後、皆が見守る中、風水師はすぐに『扉』の封印に取り掛かった。
当初儀式は難航したものの、消耗の激しい
程なくして『扉』は完全に閉じられた。
此度の騒動を引き起こした
首謀者である
作戦成功の立役者となった烈士チーム、とくに
春の嵐は過ぎ去り、束の間の平穏が訪れた。
* * *
★〈
https://kakuyomu.jp/users/mano_uwowo/news/16818023213192342847
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