第21話 ミコフウジ
不肖の弟子を目の前にして、
「……まずは見せてみい」
霊体に刻まれた呪法の跡――命を糧に魔物を召喚する外道の法――が
ならば、と幽慶は弟子の背中にそっと手を当てた。
「喝――!!」
「ぐはぁ……っ!」
百慶の体がびくりと跳ね上がる。呪いを法力で強引に押さえ込んだ反動である。
「これで数日は
「残念ですよ。誰一人道連れにもできぬとは」
負け惜しみとも取れる百慶の発言に、皆一様に渋面を作る。
「さっきの爆発は百慶、お主の仕業だな」
「ええ。ですが……直前に
「ラリッサ殿が?」
「指輪が光るのが見えました。何らかの魔導具で身を守ったのでしょう」
烈士が身分の証として身に着ける透明の指輪――
ゲートに自然蓄積された魔力を転用し、ラリッサは緊急退避を行っていた。
「うむ。ラリッサ殿は無事よ。お主は不満だろうがの」
「互いに生き延びたところで、猶予はございますまい。今頃『扉』はもう開きかけておりましょう」
事実、その対応を
百慶という『鍵』が使われることなく『扉』は内側からこじ開けられていた。度重なる強敵召喚の余波によって。
「来るがよい。お主の知恵を借りたい」
二人の風水師が口々に何かを
「異界から禍々しき気配が流入しているのを感じます」
「それも二ヵ所同時にです」
風水師は霊脈を通じて空間の歪みをある程度感じ取ることができる。
「二ヵ所だって?」
問いただす潤葉の隣で、
「以前に陰陽寮で予測された『扉』の候補地は三ヵ所。そのうち二ヵ所はこの近辺で一つに収束したと思われていましたが……」
「極めて近い距離に共存してたってことか」
陰陽寮が割り出せるのは歪みの大雑把な位置のみだ。実際この場に出向くまで、正確な状態までは誰にも知り得なかった。
「異変に気づいたのは、
「今思えば、霊脈の活性化が収まらなかったのは、近くに潜んでいたもう一つの歪みと共鳴していたせいかと」
撤収際のごたごたで報告が遅れたことを、風水師たちは詫びた。
その落胆を嘲笑うかのように、
「よくやったではないか。何を落ち込むことがある」
烈士たちが一斉に百慶を睨みつけるも、当人はどこ吹く風だ。
「わたしが葬られれば二つの歪みが融合し、一つの大いなる『扉』が開かれるはずだった。それを諸君らは阻止したのだ。喜ばしかろう」
挑発には取り合わず、
「百慶よ、不完全な『扉』から這い出て来たのは邪神の眷属か?」
「おそらくは。その者らを異界へ送り帰せば『扉』は自然に減衰、消失しましょう」
百慶が素直に答えたのを見て、烈士たちは意外そうに目を
その一方で総大将・
「二手に分かれて『扉』を封じに向かう。一組は僕たち
「
否。一人だけいた。それは味方ではなく。
「やめておけ、
「私が
特定の日に生まれた子どもを祝福する『
「勘づいていたか。いかにも、あれは元来『御子
古代の祭司たちの試みは徒労に終わった。そうして一旦は廃れた憑依の術法を、
「我が同胞らがイムガ・ラサに根を張る理由がわかっただろう。のこのこと神宮へやって来る、御子気取りの田舎者を生け捕りにするためだ。お前たちの言う邪神の
百慶が心から澪の身を案じているとは思い難いが、警告には違いない。御子が『扉』に近づけば、その身に異界の存在を誘い寄せてしまう危険がある。
澪は一度仲間たちの方へ視線を送り、次いで風水師たちに尋ねる。
「もしこのまま『扉』を放っておくとどうなる?」
「増大する歪みが
「猶予はどれくらい?」
「日没までは
澪は無言で
「三十分後に出発する。力を貸してくれる者は速やかに申し出てくれ」
選択は変わらない。烈士とは常に可能性を天秤にかけ、望みの大きい方へ進む生き物だ。
皿に積まれる己が身の安全は、往々にして軽い。
「邪教と
連れ去られて行く百慶の顔から、最早
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