第18話 カチコミだよ!全員集合

 魔物の一掃された湖岸付近に、最終作戦の実行部隊が集結していた。敵船隊に直接乗り込み、首謀者である光庵こうあんひゃっけいを捕らえるのが目的だ。


 主力となる没汀ぼっていのメンバーが突入前の儀式を行っている。体や尻尾をくねらせ、独特の節回しを口ずさむ様子を、けんが遠巻きに眺めていた。


「何歌ってるのかな。ラガマフィンみたいな……」

じゅのこと? ああして自己強化かけよるんよ」


 ラリッサは軽く説明する。すいには呪法と拳法を組み合わせて戦う、きょう流という武術が伝えられているのだと。


「なるほど。俺がメタルで気合入れるのと同じか」

「違……ん、まー、そんな感じじゃ」


 献慈は「へびめた」が絡むとこだわりが強く面倒なので、ラリッサは生返事で肯定した。


 実のところ、雑談に興じる心の余裕はあまりなかった。

 もしかすると献慈は、そんなラリッサを気遣って声をかけてくれたのかもしれない。


(ありがとう。献慈くん)


 震える手で、ラリッサは自分の両頬をぴしゃりと打った。




各々おのおの方、いざ参らんッ!!」


 向こうで瑠仁るじろうの声が上がった。左翼側の部隊が湖へとなだれ込んでゆく。


「こんならァ、カチコミじゃあっ!!」


 ラリッサも右翼側の部隊を引き連れ、突撃をかける。


 両翼とも岸から最も近い敵船の下までやって来ると、没汀ぼっていの三人ずつが土台となってラリッサと瑠仁郎を空中高くトスする。


 後方で幽慶ゆうけい大音だいおんじょうを発した。


一切無碍いっさいむーげー一心護汝いっしんごーじょ――ユァッ!!」


 分厚い障壁が展開、船から襲い来る矢の雨を防ぐ。その間にラリッサと瑠仁郎は身を翻し、敵船の甲板へと着地した。


ねや、おどりゃあ!!」


 ラリッサの気迫に押され、邪教徒たちは右往左往する。幾人かの身の程知らずが襲いかかって来るので、蹴りと頭突きで強制下船してもらった。


 強力な魔物の生贄となるのは術士だけだ。自刃を防ぐため、当て身で失神させる。


 程なくして水虎たちが船縁を駆け上がり合流して来た。


「先行くけぇ、ついて来んさいや!」


 ラリッサは船から船へと飛び移りながら、同じように敵を制圧していく。邪魔な矢は斧で打ち落とす。


 没汀ぼっていの猛者たちもおくれを取ることなく、立ちはだかる敵を投げ技や点穴で無力化していった。


 ラリッサを先頭に四名が続々と旗艦へ飛び移る。同時に左翼側からも瑠仁るじろう率いる部隊が飛び乗って来た。


 まさに背水となった敵軍の抵抗も虚しく、甲板は瞬く間に烈士たちの陣地へと塗り替えられた。


「全員揃ってござるな?」


 瑠仁郎の短筒たんづつから撃ち上がる信号弾を合図に、今いる旗艦を除いた船隊が音を立てて沈んでゆく。手筈どおり、岸に残った「秘密兵器」が実行してくれたのだ。


 敵の追撃は完全に絶たれた。


「あとは……」

「残るはわたしだけか」


 いまだ余裕の笑みを貼り付けたひゃっけいが堂々と歩みを進めて来た。

 勝負は一瞬。瑠仁郎が電撃を放ち、動きを止める――


らい――」

「ほぅあちゃあああァ――――ッ!!」


 耳をつんざく怪鳥音を発したのは、百慶。


「――んごほォ……ッ!?」


 電光石火の飛び蹴りを見舞われた瑠仁郎は船を飛び出し、真っ逆さまに湖へと落下していった。


 宙返りを打って着地した百慶に、すかさず水虎たちが挟撃をかけるも、


「この野ろ……がはっ!」「うぐっ……!」


 一人は掌底、もう一人も頭突きを喰らい、船の外へと投げ出された。


 仲間をやられた没汀ぼっていくみがしらが、ラリッサたちを制して前へ出る。


「今の技は〈返応授扇へんのうじゅせん〉と〈奪翻だっほん〉……この男、ひょう流の使い手だ」


 漂流は狂流から派生した流派だ。呪歌を捨て去った分、格闘術に特化している。


「いかにも。してその構え、貴殿も同門だな?」


 百慶の問いには答えず、組頭は疾風の速さで敵に肉薄、両掌を突き出す。こちらも漂流の技、〈ちょく吐打とだきょう〉であった。


「だが精進が足りぬ」

「……ぐ……っ!?」


 組頭の攻撃は空を切り、あまつさえ後退を余儀なくされた。ひと重身えみを取った百慶の貫手が人中を穿つ寸前の判断だった。

 鉄指をもって点穴を突く絶技〈とつ暗兵あんぺい〉。恐るべき精度だ。


「わたしと遊んでいる暇はあるまい? 急がんと仲間が溺れ死ぬぞ。命は平等ではないからな」


 皮肉交じりに諭される屈辱を呑み込むように、組頭は目配せを送ってラリッサに場を託す。


 水虎たちが船を降り、一人残った派手娘ギャルを前に百慶は何を思うか。


「大した自信だな。名は何と言う」

新月組しんげつぐみ、ラリッサ・マシャド」

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