噓つきは小説家の始まり
水鏡月 聖
第1話 序文
ユートピアとは贋物の一つもない社会を言う。
あるいは真実の一つとない社会でもいい。
――トマス・モア
――こんなはずじゃなかった。
わたしの考えていた未来とはまるで別の方向へと転がっていくのは一体誰のせいだろう。
そんなことは言わなくたってわかっている。すべてはわたしの嘘がいけないのだ
喫茶店リリスを出たところで、まるでわたしを待ち伏せしていたかのように姿を現したのは生徒指導課長という肩書でいつも偉そうにしている、武骨で嫌われ者の男だった。
「なにをしていたんだ? こんなところで」
「ち、ちがうんです! こ、これは」
「俺が何も知らないとでも思っているのか?」
生徒指導課の教師はポケットから数枚の写真を取り出した。そこには某アパートの入り口が写っている。それぞれ違うカップルがそのアパートの入口へと入っていく写真がほとんどだが、中にはそのアパートの寝室のベッドの上、カップルで仲睦まじく肩を寄せ合って写っている写真までもがある。男子生徒の姿こそさまざまだが、隣に写っている姿は決まってわたしだ。
「先生、ちがうんです。これは……」
「このアパートが、どういう理由でどう扱われているのかっていうことを俺が知らないとでも思っているのか? これでも生徒指導課長だ。そのくらいの情報は持っている。それに俺が言っているのはそういうことじゃないんだ。事実関係がどうだろうそんなことは関係ない。こういう写真が今ここにあるという事実だ。お前がどこで何をしようが関係ない。この写真を見た人間が、お前をどう思うかということが肝心なんだ」
「は、はい……」
「はいって、お前。これがどういう状況なのかわかっているのか? こんなことが公になれば、お前はこの学校にいられなくなるということくらいはわかっているんだろうな?」
「は、はい……」
「まったく…… しかしだな、今のところまだ、この写真のことを知っている教師は俺だけだ。これがどういうことだかわかるか? つまりは俺のさじ加減ひとつでお前の今後が決まるっていうことだ……」
「は、はい……」
「よし、だったら……今から家に来い。その……わかってるな?」
「は、はい……」
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