第31話 友情の証

 リーク達は異世界製作所にやってきていた。

 シェイザーは驚きの顔をして辺りを見回している。


「さすがにこんな家は見た事がない、どういう原理なんだ。建物の中に広い製作所があって、さらにモンスター牧場まである」


「まぁ、そう言われてものう、わしは元あった場所にここを造っただけで、ここが特別だとは知らなかったんだ。だが異世界製作所は私が作ったともいえるし、この家が作ったともいえるのじゃ、原理はうまく説明できんが、説明できなくて良い事もあるのじゃよ」


「てか、おめーはモンスター達と戯れてたんじゃなかったんか」


 シェイザーが思わず突っ込むと。


「何を言うか、リークが面白い物を作るなら私はそれを見届けねばならぬのじゃ」


「すみません、お茶もってきましたー」


 カエデちゃんはこんな時でも冷静にお茶を淹れてくれる。


「リークよ先程ティーナと鍛冶師リンネーに運ばせておいた、2人とも忙しいそうでなすぐに帰った」


「そうですか、インゴットもレア度の高い道具もある事ですし、ぐふふ」


「リークよ落ち着け、心を落ち着かせねば良いものは作れぬぞ」


「すみません、では作りましょうか、カエデちゃんとシェイザーは見物でもしててください、1ヵ月は出ないので、それまで幻想ショップをよろしくお願いします」


「一か月!」


「またご飯食べないんですか!」


 シェイザーは仰天し、カエデちゃんは思わず突っ込む。


「はい、作るという事は魂の無い物に魂を与える事だそうです」


「それは聞いた事がある、祖父がよく言っていた」


「そうですか、きっとお爺さんは魂の作品を作り上げたのでしょう」


「ああ、だが、お前にはまだ早い、ここでくたばるなよ、お前が出るまで、俺様とそこのカエデって奴で守ってやるよ」


「はい、よろしくお願いします。あ、それとですね、体の大きさを測らせてください、カエデちゃんは腕だけでいいですよ」


 リークはシェイザーの体の大きさを測ると、次にカエデちゃんの腕周りを測り始めた。


 自分にとって最高傑作とはどういう物なのか、どういう物を作り上げたらいいのか。

 それがリークには見えてきていた。


 本当に最高傑作とは1人で味わってはいけない、いやいけないのではなく、リークがいやだから。

 

 友人と分かち合いたい。

 その心だけで、今リークは立っている。


 そして、精神統一すると、意識が遮断された。



====シェイザー====


 目の前の人間を見た事がない。

 モードが切り替わると、まるで別人になっている。

 ハンマーを持つ手、インゴットを持つ手、道具を持つ手、それは達人クラスだった。

 しかも自分自身へのデバフを外しているのでレベル9999だ。

 そのレベル9999で無我夢中で作るスピードはもはや狂人。


 レベル9999が無ければ、きっと数十年もかかる行程をたかが1ヵ月で済まそうとしている。 

 それは何と言えばいいか狂人だろう。


 魔王の祖父は命をかけて自分達の武器を造った。

 だが眼の前の少年は命を燃やさずそれをやってしまっている。


 祖父を超えている。

 もはや人間ではない。

 神が何かを造っているのと同じ感じだった。


 その時だった。幻想ショップの外が騒がしくなる。

 シェイザーはフードを被り。


「なんだろうか」


「何か騒がしいですね」


 2人は外に出た。


 すると大勢の兵士達が草原村の人々を追い詰めようとしていたのだ。

 その兵士達はこのテルハレム王国のだった。


「いいかーこの国はメルム卿の元解放される。勇者亡き後、なぜルーギャシー国王に従うか、従わぬものは奴隷だ。さぁお前らは死兵となるのだあああああ」


 上官クラスの人間が叫ぶ。


「カエデ、ちょっと起こしにいくぞ、あのバカを」


「いや、無理です」


「そうじゃのう基本無理じゃな」


 いつの間にか幽霊のカナシーがいた。


「リークさん本気になったとき、うち何度も起こそうとしたんだけど、ずっと作り続けてました」


「ったく、爺さんと同じかよ」


「あいつらも捕まえろおおおお」


「兵士達こっち来るけど、ぶちのめしていいな、殺さないからな」


「その方がいいです。一か月ですよ、それまでここを死守して草原村の人達を守りましょう」


「わらわら来るな、これは数万は超えるぞ、なぜ草原村ばかり来るかは、大体想定がつくがのう」


「そんなの俺様だって知ってるぞ、勇者が生まれた地は草原の村、ここだろ」


「そうだよ、そして勇者が死んだという事は」


 カナシーがもったいぶって。


「新しい勇者が生まれるって事ですね!」


 シェイザーもカエデちゃんもカナシーもその可能性のある人物をよーく知っている。

 そしてその希望を待つまで、カナシー以外奮闘する事になった。


====リーク====


 暗闇の中、何かを見た気がする。

 ずっとハンマーを打ち続けて、何かぐちゃぐちゃになっていって。

 意識が朦朧としてきて、まるで憑りつかれたように。


 沢山の人々の意識が頭に入って。

 

「そこはこうするんじゃぞ」

 

 知らない爺さんが耳打ちしてくる。


「わしの孫のシェイザーが迷惑かけるのう、わしは魔王でなとっくの昔に死んでいた」


「シェイザーのお爺さんでしたか」


「なぜ人間は魔王がいないのに魔族を虐げるか、まぁ色々と複雑じゃが、資源を奪いたいのと、自分と違う種族を嫌う傾向がある。ドワーフとエルフとかと違って魔族は遥かに強いからのう、人間は強い物を羨み、敵対するものじゃ」


「はい、そんな気がします」


「そこはこうじゃ、こう持つのじゃよ、まぁ基本はぐちゃぐちゃだが、体がそうか、あやつの体の動きと同じか」


「カナシーさん?」


「ああ、いつぞやの魔女か、あやつは最高の女だったのう、突然隠居しおって、わしが知りおる人間の最高傑作じゃて」


「カナシーが聞けば喜びそうです」


「ほれ、勇者も来たぞ」


 勇者がやってくる。

 光が輝く盾をもって。

 その盾はオークハイキングのそれだった。


「すまないね、盾は壊れてしまったが、命を2度救われたよ」


 勇者がにんまりと笑い。


「おお、良い物つくってるじゃないか、手伝わてくれ、昔鍛冶師だったんでな」


「ほう、勇者もやってくれるか、これぞ魂を込めるものか、だがリークよお主は死んではならん、きっといい事が一杯あるし、おぬしは13歳じゃからのう、大人が子供を守らんでどうするてな」


「それは言えてますね魔王、あなたの城に着いたらあなたの死体だけでしたよ」


「はは、すまないねぇ、じゃあお主は誰に殺されたのじゃ?」


「あなたの若かりし頃にそっくりの孫じゃないですか?」


「シェイガーも頑張りおるのう、秘儀でも使ったかのう、命が燃えるというのに、あのバカ者が」


「お互い苦労しますね」


「まぁな、それ、リークよちょっとでも体を動かすのを止めるでない」


「すみません」


 リークの右手と左手はインゴットを掴んだり、道具を掴んだり、あらゆるものを掴んだ。

 そしてあらゆるものを叩いた。

 あらゆるものを掛け合わせた。

 あらゆるものを混ぜ合わせ、付与スキルと融合スキルを応用したりした。

 その結果たどり着いた。

 リークはモンスターのスキルを1000体分収穫している。

 1体のモンスターにつき2個のスキルだから、2000個のスキルとなる。


 その1000体のモンスターはモンスター牧場に捕縛したモンスターだ。


 その2000個を凝縮し、融合していく。

 出来上がったスキルは3つ。


 そうして意識が覚醒していく。

 ゆっくりと目を開くと。

 何かうるさかった。

 体が思うように動かない。

 とりあえず、休憩所に向かい体を休憩させる。

 台所に食べ物がおいてあったので、それを食べる。 

 しかしカビがついている。

 どういう事だろうかとふらふらと幻想ショップの外に辿り着く。

 とにかく騒がしかった。

 太陽の光が眩しい。


 2人の人間がぼろぼろで立っていた。

 それを囲うように数千の兵士が倒れている。

 幻想ショップの側には大勢の草原村の村人がいた。

 ティーナも鍛冶師リンネーも色々な人達も。

 冒険者ギルドの受付も。


 冒険者達は負傷して動けないようだ。


 リークの脳味噌が少しずつ沸騰する。

 猫背だった背筋はまっすぐになり、ゆっくりと歩き出す。

 自分自身にミラクルヒールを連打でかけながら、カエデちゃんとシェイザーにかける。


「リークさん!」


「ようやくお出ましか、殺さないで倒すのむじーな」


「色々と有難う」


 最高傑作は幻想ショップの中にある。

 彼等をぶちのめすのに理由は必用ない。


「またか、お前ら、幻想ショップの従業員に手だすとは覚悟できてんだろうな、店主のリークだ」


 次の瞬間兵士達は笑い声をあげた。


「ガキが失せてろ」


「そこのフード被った少年の方が強いぞきっと」


「とっとと失せろ」


 リークは右手と左手をこきこき言わせながら、ゆっくりとゆっくりと、にんまりと笑った。


「レベル9999の脅威って奴見せてやるよ!」


 次の瞬間、人々は恐怖した。たかが少年が滅茶苦茶な動きを取れるという現実に。

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