第27話 深紅のユニコーンとシェイガー

 深紅のユニコーン:レベル5000。その時点で捕縛はほぼ不可能だ。

 後スキルを鑑定したところ【雷帝の角】【暴飲暴食】【光の彼方】というとんでもないスキルを習得している。


 リークとシェイザーとカエデちゃんは真っ青な状態になり、あのカナシーでさえ、怯えていた。


「まずいな」


 シェイザーが珍しく呟き。ユニコーンの後ろからのっそりと1人の少年がやってくる。

 背中に2本の魔剣を装備した、シェイザーそっくりの少年、右目と左目の所には大きな切り傷が入れ墨のようになっている。


「うぉい、こいつは俺様の獲物だぜ、シェイザー」


「なぁ、兄貴、お前は俺様の獲物だぜ、兄貴」


 2人はにらみ合いながら。


「今さ、不味い状況じゃない?」


 カエデちゃんが尋ねる。


 シェイザーの兄貴を鑑定しようとしても名前以外不明とでる。

 名前はシェイガーだ。

 生き残った大勢の冒険者達はこちらをただただ見ていた。

 至る所に散っていて、致命傷を負っている者もいるようだ。


「カエデちゃん、これ上級回復ポーションだ。あらかじめ作っていおいたから、怪我してる冒険者に配ってくれ」


「分かりました」


 カエデちゃんが走り出す。


「うぉい、シェイザー殺すぞ」


「殺せるもんなら殺してみろよ兄貴」


「兄貴兄貴うるせーんだよ、俺様はお前の兄貴だがもう兄貴じゃねー」


「兄貴、あの子の為に人間を滅ぼすのはやめてくれ、ミリーナだって望んじゃいない」


「るせー人間はミリーナを殺した。だから、人間を皆殺しにするだけだ。最後のひとかけらまでしゃぶってやるぜ」


「兄貴落ち着け」


「お前はいつまでサーカス団の団長の人間ばかり思いを寄せやがって、いつかサーカス団作るって? 団長は魔族に殺されたじゃねーか、人間だってばれて」


「うるさい、それは関係ない」


「魔族の領地出たんだって? いや追い出されたんだって? なら俺様の復讐活劇を無視してもいいんじゃねーか?」


「団長は、いやあの人は人間だった。だけど人間には良い奴だって」


「るせー、殺し合いは殺し合いで決着つける。それが俺様達魔族だろうが」


「ああ、そうだな」


 シェイザーはアタッカーソードとシールドソードを引き抜いた。

 その瞳には殺気どころ以上の物が宿っていた。


 リークはごくりと生唾を飲み込んだ。


「こっちは任せてくれ、リーク、ユニコーンは君に任せるよ」


「ああ、任せてくれ」


 2人は同時に地面を蹴り上げた。

 それと同時に深紅のユニコーンとシェイガーも地面を蹴り上げた。

 4人がいた場所は土煙が巻き上がり、リークはスキル:パラディンの心を発動。

 数秒間無敵になる。


 これを発動したのは、恐らくだが深紅のユニコーンのスピードは光の如く早いからだ。

 体に衝撃が来る。

 深紅のユニコーンの光の彼方のスキルにより体が吹き飛ばされる。

 胸に激痛が走るが、無敵により怪我はない、胸には雷撃が迸っていた。

 雷帝の角のスキル、それと光の彼方のスキル。

 奴は2つのスキルを同時に使用したのだ。


「ふぅ」

 

 結構な距離を吹き飛ばされて、立ち上がるリーク。

 シェイザーとシェイガーの乱舞は目にも止まらないスピードで、一撃一撃に衝撃音を響かせていた。もはや剣と剣のぶつかり音以上の物で、何か得たいの知れない物同士がぶつかっているような音だった。


「うぉおおおおおおおおおぉ」

「うぁああああああああああああ」


 双子が命をかけて剣と剣の技術をぶつけ合う。

 リークが先程2人の会話を聞いた限りでは、シェイガーは大事な女性を人間に奪われ、シェイザーは大事なサーカス団長を魔族に奪われている。

 本当にややこしく複雑なのだろうと思ったが、今はそんな事を考えている暇でもなかった。


 殺気を感じてそちらに視線を向けると、光の彼方を発動させ、至近距離に飛来してくる深紅のユニコーンがいた。


 とりあえずスキル:ビームを発動させる。

 どこからビームが出てくるか疑問だったが、2個の眼玉からビームが出た時には仰天した。


 それは深紅のユニコーンも同じようなもので、突如人間の瞳からビームが出てきたので、光の彼方の進行方向がずれてしまった。

 そのまま林を突っ切って数本の木々を両断し、湖に落下した。


 リークは咄嗟にチャンスだと思い。

 巨大な湖に入ったのだが、思った以上に深く、ドシャンと底深くまで落下した。


 スキル:無限潜水を発動させる。

 これは水の中でも呼吸が出来るという優れモノのスキルだったりする。

 湖の中を泳いでいると、深紅のユニコーンが馬なのに水の中を悠然と泳いでいる。

 そしてこちらに向かって光の彼方を発動させる。


 光のように真っすぐに突進してくるが、残念ながら地上よりは遥かに遅かった。


 光と名前がつくように、光を発するので、水の中だとゆったりとさざ波のように光が流れてくれるようだ。原理は分からないが、その光の軌道上に避ければ問題ない。


 リークはスキル:超新星を発動さえる。

 これは光の彼方とは違うスピードを上げるスキルだった。

 水の中だと少しスピードは遅れる。

 それはスキル:光の彼方と同じだったが。

 一瞬でユニコーンの背中に乗る事が出来た。


 リークは水の中だけども、接触してるから少しは効果があるのかもしれない。 

 そう思い【炎のオーラ】×10のスキルを連打で発動させる。

 何度も発動させ、深紅のユニコーンはもがき苦しみ、水の中までもが熱湯になっていく。


 あらゆる湖の中にいたモンスターと魚達は干上がって、地上ぎりぎりまで浮かんでくる。


 深紅のユニコーンは元気が無くなり、暴れる気配がなくなる。

 地上すれすれにたどり着く頃には、動かなくなった。

 だが油断していた。

 深紅のユニコーンはスキル:暴飲暴食を発動させていた。

 干上がって元気のない魚やモンスターを片端から食らい始め、みるみる内に元気になっていく。

 

 それだけではなく、体の筋肉が遥かに逞しくなり、水の上を走り出したではないか。

 リークはユニコーンにしがみ付いて、何度も地上に叩き落されそうになる。

 それでもスキル:力自慢を発動させ、力の限り制御しようとする。


 深紅のユニコーンの周りにスキル:超級粘液を発動させて、べとべとにさせる。

 奴は地面を走れず滑っていくのだが、上手くコントロールして、滑り続けるという上級者技を見せてきた。


「まじかよ」


 リークは唖然と口を開けて驚いてしまい。

 次にスキル:体重操作を発動させる。なつかしきオークハイキングから取ったスキルだ。


 体の重さは遥かに重たく、きっと巨大な城、いや古代な山くらいはあってもおかしくないのだが、深紅のユニコーンはひたすら走り続けている。


「こいつ化け物かよ」


 リークは恐ろしくなりつつもデバフ魔法:バインドを発動させる。

 奴が走る先を予測して奴の背中から確認しながら。

 地面を腐らせ、足場を悪くさせる。

 深紅のユニコーンはこれには想定外だったらしく、前のめりに吹き飛んだ。 

 それはもう盛大に吹き飛び、馬が何回も回転しながら地面に叩きつけられて、暴れていた。


 リークは取り合えず、スキル:手加減パンチを深紅のユニコーンに何度も何度も浴びせる。

 それでも微動だにせず、暴れ続け、蹄を回転させて、あれはまずいと思いつつ。


「でもなー倒したらカナシー切れるしな」


「手加減パンチ」「手加減パンチ」「手加減パンチ」「手加減キック」「手加減パンチ」「手加減キック」「手加減パンチ」「手加減パンチ」「手加減キック」「手加減パンチ」「手加減キック」「手加減パアアアアアアアアアアアアンチ」


 ようやく捕縛の腕輪が発動し、異世界ならぬモンスター牧場に送られる深紅のユニコーン。


 リークの体は玉の汗まみれで、衣服はびしょびしょだった。

 髪の毛はぐちゃぐちゃになり、もう死ぬのではないかというくらいになり。


「はぁはぁ、死ぬぞまじで」


 だが別な方角ではシェイザーとシェイガーの2人が殺し合いをしており、林が半分以上消滅しており、さらには所々にある木々は半分折れている。

 その木々ですら遥かに巨体なのに。


 大勢の冒険者とカエデちゃんとカナシーはそちらに見入り。

 リークの命がけ劇場は見られなかったのであった。


「とほほ」


 ちゃんと最後にデバフをちゃっかり発動させたので、3個のレアスキル得たリークであった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る